■「正社員になりたい」…客足遠のくネオン街
東京・六本木。9月に経営破綻(はたん)したリーマン・ブラザーズ証券など外資系金融機関やIT企業が立地する。オフィス街に隣接するネオン街も金融危機前までの活気はみられない。
カウンター越しに、客と店のスタッフが会話を楽しむガールズバー「GS BAR」のバーテンダー、荻野洋子さん(19)=仮名=は、飲食店への女性スタッフ紹介企業「コムテックジャパン」(東京都港区)に登録し、今月から店に立ち始めた。
同社は“夜のハローワーク”と“業界初の厚生労働省の許可取得(有料職業紹介)”をキャッチフレーズにした企業だ。
現在、都内の短大2年生。だが、意図的に留年し、来春以降も接客業を続けることが決まっている。
荻野さんは今年1年間、希望するアパレル関係の企業に絞って就職活動に奔走した。2社から内定が出たが、いずれも正規雇用ではなく非正規社員での雇用が条件だった。
「社会保障も弱い。ボーナスもない。身分は不安定。やはり将来が不安」
家族の助言もあり、就職浪人を決めた。
「もし正社員で就職が決まったとしても待遇は悪いかもしれない。自立のためには夜のバイトは続けなきゃいけないかな」
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六本木のキャバクラ「ラフィーネ」のスタッフ、なつみさん(23)=源氏名=は福岡市の私立大卒業後、アパレル関係の会社に勤めたが月給は10万ちょっと。あこがれの東京に、稼ぎを求めて10月に単身上京した。
「太陽とともに暮らす安定した昼間の仕事ができれば」とも考えるというが、簡単には見つからない。夜の六本木で働けば時給は少なくとも2500円。稼ぎ の良さを優先した。週4日程度、午後8時から午前2時まで働く。保証される給料は30万円程度になる。生活するには困らないが不安定な立場は気になる。
コムテックジャパンの担当者(48)が話す。「金融危機以降、新規の女性の登録が増えている。11月は約100人。春先に比べて2~3割も多い。登録者があふれ、紹介する店を探すのも一苦労だ」
現在、女性を中心に2万2000人が登録。昼間に、自分の思うような稼ぎの仕事が見つからないという人が少なからずいる。
なつみさんが店に立って2カ月間。その間を比較するだけで、客入りがどんどん厳しくなっていくのを感じるという。
「お酒の注文量が減ったり、いただくタクシー代が1万円から5000円になったり…」
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話題の本がある。『女はなぜキャバクラ嬢になりたいのか?』(光文社新書)。著者で消費社会研究家の三浦展さんは「女性がまともに正社員になれないという日本の社会構造の変動が、夜の飲食店のスタッフになりたい女の子を増やしている」と指摘する。
キャバクラ嬢と予備軍50人の詳細なインタビューを紹介した著書の最後を、三浦さんはこんな言葉で結んだ。
「『キャバクラ嬢になりたいなんて嘆かわしい』という人がいらしたら、道徳教育の強化などではなく、男女ともに正社員を増やすことが最も効果的である」
深夜に店の前で、防寒着姿で呼び込みする荻野さん。その前を、背広姿の男性グループが見向きもせずに通り過ぎていった。
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【用語解説】増える非正規雇用
厚生労働省の11月の統計によると、平成19年10月現在で、労働者のうちパートや派遣などの非正規社員は37・8%。10年前に比べ10ポイントも増 えた。企業が非正規を雇う理由(複数回答)は、「賃金節約のため」が40・8%で最多。不況時の解雇を前提にした「景気変動に応じて雇用量を調整するた め」が21・1%あった。
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