2008-12-22

大企業の出願縮小、揺れる弁理士

:::引用:::
 今、特許事務所の間で大企業の特許出願が2009年度は大幅に縮小するのでは、という懸念が広がっている。知財立国の基本は、発明の創造力と、それを権利化する力にある。経済情勢が徐々に緊迫度を増す中、日本企業は今後どう動くのか。

 ≪経費3分の1を削減?≫

 特許出願は“特許権”という独占権を発明者等が獲得するための作業である。発明内容の解説や求める権利の範囲を示した特許明細書の執筆、特許庁への出願書類の作成をすることなどを、法律によって許されているのが弁理士である。

 特許事務所筋から流れてくるのは「電気や自動車関連などの大手企業から2009年度の年間出願経費を3分の1、4分の1レベルで削減するという意向を打 診された」という話の数々だ。日本の国内特許出願数は世界第2位の年間40万件ほど、うち大企業が9割強を占める。単純に考えて4分の1平均で削減された 場合、来年度の年間出願件数は27万件。年間21万件の中国との差は一気に縮まる。

 当然、特許事務所の売り上げは激減するが、これだけではない。大企業が仕事を依頼する場合、年間支払額だけでなく仕事量を決めて契約することも多い。仕事の継続と引き換えに単価引き下げ要求も心配される。

 特許事務所の得る金額は、1出願で30万~50万円ほどが相場。ビジネスモデル特許のように長文の明細書が必要な場合は1出願で100万円を超えることも。これらのうち一部は印紙など諸費用の支払いに回される。弁理士1人で月に10出願が平均的な仕事量だという。

 では今後どうするか。対処法は大量発注を低価格で可能にする経営改善努力しかない。例えば、特許技術者の活用がある。技術者のOB、弁理士志望 者などで技術や法律に知見があり、出願書類作成の前処理をする。ずばり言えば下書き役だ。弁理士法では出願書類作成業務を弁理士にすることを明確化してお り、弁理士の手が入ることが必須だが、処理件数増加に特許技術者は欠かせない。特許技術者の活用等で、個人経営でも年間10億円以上の売り上げを上げてい る特許事務所もある。有能な特許技術者の確保は生き残りの生命線となる。

 ≪無資格者採用の動きも≫

 当然、出願書類の作成が外注か内制(社内弁理士等の活用)かによって大企業の経費対策の姿は変わる。大企業の経営者や知財部門向けの相談業務を 行うある知財経営コンサルタントは、「一般に機械関係企業は外注比率が高く、化学関係企業は逆だが、内製比率の高い企業は出願削減と同時に人件費削減にも 向かう可能性がある」と解説する。このことを証明するかのように、ある知財人材紹介会社の経営者は「採用減に加え、弁理士資格者ではなく無資格者を優先し て採用する動きが出ている」と話す。

 では、大企業の出願削減はどこまで可能なのか。例えば、国内で出願、権利化された特許の製品実装比率は機械関連企業の場合50%程度。先の知財 経営コンサルタントは「活用されず権利放棄が間近かの肩たたき発明が他の製品で大活躍するケースがあるので、うかつにはできないが、50%出願削減だって できない相談ではない。また実施していない特許の放棄をこの機に一気に前倒することも考えられる」と指摘する。

 考えてみれば、これから出される特許は重要性が高いものになるということか。さてどうなるか…。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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