2008-12-25

失職列島:/3 立ち上がる外国人派遣労働者 雇用調整の標的に

:::引用:::
「忙しい時は人を使い、暇になったらゴミのように捨てるのか」

 日野自動車の子会社「ソーシン」(埼玉県入間市)の工場前で23日午後、怒気を含んだ抗議の声が上がった。外国人の派遣労働者5人が決行したストライキ。全員が来年早々解雇される身だ。

 2年間溶接作業などに携わってきたバングラデシュの男性(38)は1月9日付で仕事を失う。日本人の妻(32)との間に5歳と1歳の男の子がいる。長男は日本語しかしゃべれず解雇されたからといって母国には帰れない。

 「社長さん、私たちどうやって生活すればいいですか」。なまりの残る日本語で男性は訴えた。

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 外国人労働者は日本のもの作りを底辺で支えてきた。バブル景気の80年代後半には労働力が不足し、単純作業に携わる労働者の受け入れ解禁の必要性 が叫ばれた。90年に日系人の受け入れが認められると、日本で働く外国人は急増した。厚生労働省の「外国人雇用状況報告」によると、派遣や請負の外国人 は、06年までの10年で7万1253人から16万7291人になった。およそ9割が製造業従事者だ。不況が急速に拡大する今、非正規社員が雇用調整の標 的になり、外国人は特に弱い立場に置かれている。ソーシンは約320人の派遣社員を約270人削るが、その大半は外国人だ。

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 バングラデシュの男性は、誰よりもまじめに働いてきたと自負する。残業禁止を指示されても、タイムカードに退社時間を記録し、職場に戻って働いた。結果は突然の解雇通告。「頑張る意味がゼロになった」と嘆く。

 解雇についてソーシンは「人材派遣会社に1カ月以上前に通告している」と説明する。派遣契約を中途解除する場合、30日以上前の通告を定めた厚労省の「派遣先指針」に沿った対応だ。

 しかし、99年の指針策定に間接的に携わった人材派遣会社の幹部は「この指針こそ、派遣切りの元凶」と指摘する。

 旧労働省から意見を求められた幹部は、中途解除に踏み切った派遣先が残りの給与の一部を負担したケースを知っていた。指針案を見た時、「30日前 の予告が明文化されれば、企業はお墨付きを得たとして、残額を払わなくなる」と考え、反対した。だが、大企業が名を連ねる経済団体に押し切られたという。 現実は予想通りになった。

 解雇通告を受けた5人が加盟した「下町ユニオン」の加瀬純二事務局長は「言葉のハンディがある外国人が1カ月で再就職先を探すのは難しい。仕事の あっせんもせず、金銭補償にも応じず、企業が事前通告だけで派遣切りを正当化すれば、彼らの境遇は日本人より厳しくなる」と指摘する。

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 安全で豊かな国と思って来日したバングラデシュの男性は新たな職を探し始めた。しかし、「外国人は採用しない」という企業も多い。「正社員になっ てマイホームを」との願いは遠のいた。月30万円足らずの収入も間もなく絶たれる。長男はロボットを作る会社の社長になることを夢見ている。「なんとか人 並みの教育を受けさせたい」。ストを終え、男性はうつむきながら職場に戻った。【木戸哲、石丸整】=つづく

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 ■ことば

 ◇派遣先指針

 正式名称は「派遣先が講ずべき措置に関する指針」。派遣業種を原則自由化した99年の労働者派遣法改正に伴い、旧労働省が策定した。雇用安定措置 として、派遣契約を中途解除する派遣先企業に(1)関連会社での仕事をあっせんするなどして新たな職場の確保を図る(2)新たな職場が確保できない場合 は、解除の30日以上前に派遣会社に予告する--ことを求めた。予告を行わない場合、賃金相当額30日分以上の賠償が必要になる。

毎日新聞 2008年12月25日 東京朝刊


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