「わたし、疲れちゃったよ。新年になったら、もっとひどくなる。もうどうしたらいいのか分からない」
今月、埼玉県鴻巣市内で開かれた外国人学校の協議会。同市のブラジル人学校「セントロ・エドカシオナル・カナリーニョ(CEC)」の吉村ジュリエッタ校長(50)が悲鳴のような声を上げた。
CECでは二歳から高校生まで約百三十人が学んでいたが、今は約八十人。年末にかけてさらに二十人が辞める。教員を減らし、限界まで経費を切り詰 めても、学校は存亡の危機だ。吉村校長一家は少しでも学校の運営費用に回そうと、自宅を引き払って学校の最上階の教室に住むことになった。
自動車産業の不況を背景に、外国人の派遣労働者が真っ先に解雇され始めた。CECの月謝は五万五千円。高いのは公的助成金が出ないからだ。ブラジル人学校はどこも同じ状況。親の給料が減ったり、失業したりして、子どもが学校に通えなくなり、各地で廃校が相次いでいる。
親が工場で長時間労働をしているため、人材派遣会社が日系ブラジル人向けに託児所や学校を整備するケースは多い。しかし、甲南女子大のリリアン・ テルミ・ハタノ准教授は「ブラジル人学校は全国で百校を超える。数が多いのは、日本の公立校の対応が不十分だということ」と言う。
公立校に通う場合でも「日本語が変だといじめられ、先生にまでばかにされた」「言葉が分からず、授業についていけない」という悩みが多い。子どもの多くは不登校や引きこもりになり、ブラジル人学校へと追い出されている状況がある。
ブラジルに渡った日本人移民とは対照的だ。ブラジルの総人口の1%未満の日系人が、日本で東京大学に当たるサンパウロ大学の学生の15%を占めたとの過去の調査もある。高学歴が、高収入の仕事、社会の要職への道を開いた。
背景には外国人移民を受け入れるブラジルの教育制度がある。
小学校から大学まで公立校の学費は無償。学齢期の子だけでなく、成人の外国人向け公立夜間学校まである。
武蔵大学のアンジェロ・イシ准教授は「親と同じ工場労働者として使い捨てられない未来を開くには、進学するしかない。教育は社会に移民が定着するためのかぎとなる。日系ブラジル人の子が日本の公立学校を選択できる環境を保障しなくては」と指摘する。
「移民の皆さまは異国の地でさまざまな労苦を乗り越えて…」。今年、日本の多くの自治体から首長や議員が、ブラジルを訪れ、百周年記念行事で日系 ブラジル人にねぎらいの言葉をかけた。今、その足元で学校を辞めざるを得なくなり、困窮した親とともに、将来の展望を描けなくなった子どもたちが出てきて いる。
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