2008-02-13

『老いはじめた中国』

:::引用:::

本書で論じられる中国の「老い」とは、空前の好景気に沸き立って来た中国の転換期のこと。過去形にしてしまうところが本書の恐いところだが、「老いはじめた」とは、すでに現在の中国に見られる数々の兆候だ。
  日本でも好景気に酔い痴れていたうちは誰もが成長神話を信じて疑わなかったが、いざバブル経済が崩壊して団塊世代が一斉退職してしまうと、ニートや老人介護が社会問題になっている。変化のスピードが速い中国ではこれらの問題はさらに深刻で、働き盛りの壮年期(25-44歳)の時代はまもなく転換点に差し掛かり、短期間の成熟から一気に老け込んで高年期(65歳以上)に向かうというのが本書の趣旨になる。
  本書によると超高齢化時代に突入した中国の高齢者人口は6億人。日本で巣鴨のとげ抜き地蔵の周囲を徘徊する高齢者や公園でゲートボールに嵩じる老人たちが6億人もいたら、これは異様な光景だ。さらに中国では一人っ子政策が招いた少子化でこれら老人を養う若者の数が極端に少ない。ことわざに「年寄りのモノ忘れ、若者の無分別」とあるが、人口構成にアンバランスが生じた国家のもろさは、古今東西の史実が証明している。
  本書では、これら一人っ子政策が招いた少子高齢化社会をはじめ、深刻な環境汚染、実体経済の現状などを多面的な視点で考察。北京五輪を境に経済成長の鈍化が懸念される中国を検証する。著者の藤村幸義氏は日本経済新聞社の北京特派員を経て、現在は拓殖大学にて中国の改革開放政策の進展と課題について追究されている。
  本書のテキストはこれまでサーチナに寄稿されてきたコラムのテキストがベースになっているが、今回の単行本化に当たり入念な加筆修正が施されているので、書き下ろしに勝るとも劣らぬ充実した内容になっている。
  バブル経済の出現で観光地に殺到する庶民たち。そこには巨大な仏像が鎮座する遊園地があり、わずか数分の間パンダの子供を抱くために飼育員に大金を支払う「勝ち組成り金」がいる。本書はいわば現代中国の生活習慣病の早期発見と改善を促すもので、統計的なデータを鵜呑みにせず、著者自ら現地を訪れて現地の人々やモノに触れて感じた情報であり、好感の持てる一冊だ。
  9日に東京で開催された7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)では、「世界経済は厳しく不透明な環境に直面している」とする声明が採択されたが、明快な方向性を示すことができなかったのは、北京五輪後の世界経済の行方が極めて流動的であるからだ。本書を読めば、このまま少子高齢化が進めば具体的にどのような影響が出てくるかがわかり、さらに多面的な視野で五輪後の中国を知ることができる。
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