2008-02-07

きたるべきグローバル人材競争に備えよ

:::引用:::
 留学生の日本企業への就職に際しての留意点は前回述べた通りだが、日本の大学としても、留学生にそうした点を指導するなどのサービスを提供すべきである。つまり、これからは優秀な留学生をアジアやその他国々から呼び寄せて、日本の大学で勉強してもらい、その後日本企業で就職させるという外国人人材の「頭脳還流システム」を構築することが必要なのである。その際、日本の大学が留学生にとって魅力的なサービスを提供できるかどうかは、大学の差別化を図る上でも重要になってくるのだ。

  大学では、中国人やその他留学生にとって有意義な授業カリキュラムを組んでいくことも大事だ。私自身も中国の清華大学に留学していたが、中国の学生は朝の8時頃から授業が始まり、夜中まで図書館の席が満席になるほど勉強している。こうした学生を満足させられる授業が日本の大学で提供できているかは非常に疑問である。グローバル化が進んだ今の世界では、日本の大学の世界的な地位は相対的に低く、しかも日本語主体で授業が実施されているため、その後グローバル企業に入って活躍したり、海外に出てビジネスをすることが難しいという印象を持たれている。そのため、優秀なアジアの学生は特に米国や欧州の大学への留学をまずは考えるのである。

  今後はますます人材のグローバル獲得競争も進んでいくだろう。三菱商事では中国で採用した人材の中から選抜した人材を日本に派遣、また日本・中国以外の第3国へのグローバルな異動もあり得るとする「中国プロフェッショナル(CP)」制度という人事システムを採っている。彼らの多くは中国語、日本語、英語ができる。たとえばそういう人材がそのまま日本で働いても問題ない能力水準なら、彼らと日本でMBAを卒業した留学生をどのように処遇するかは難しい問題だ。それだけ人材間の競争が激しくなっているということである。

  これは結局、中国に限らず日本の企業が新興市場に進出するときに必ず起こる問題である。中国では急速に進出企業が増えてマーケットが拡大しているため、今まで時間をかけて行ってきた人事システムの変更や調整ができなくて問題が拡大しているのだ。たとえば、日本の企業がインドに進出しても、おそらく同様の問題が起こるだろう。このタイミングできちんと中国ビジネスで抱えている課題や経営体制を見直すことは、中国だけでなく今後のインド・ベトナムなど新興市場に事業展開していく際にも必要なことである。つまり、日本企業がグローバル展開する際に抱える本質的な問題ということだ。

  中国に留学する日本人にとっても同じことがいえる。日本人で中国語が話せても、現地の日本語ができる人材と競合する可能性があるということだ。現在は、現地の日本人数が増えていることと日本語が話せる中国人のレベルが高くなっていることから、現地採用の日本人の給与が低下傾向にあるようだ。将来的には優秀な中国人で日本語が話せれば、日本人よりその人の方が競争力があるということが起こり得るということだ。そういう意味では、今後は一層ボーダレスな人材競争の時代になるだろう。

  米国では、「インド人ができそうな仕事を職業に選ぶな」ということが囁かれているようで、英語圏だからこそ同じ英語ができるインド人と競争しなければならない時代に入っているのである。日本は日本語という障壁で外部参入からある意味まだ守られているが、今後日本市場だけでは食べていけない時代が来た時のために、グローバルな人材競争力をつけておく必要がある。これは、産業でたとえるなら、早くから国際競争にさらされてきた日本の自動車産業の国際競争力が高いのに比べて、規制に守られてドメスティック産業化した小売り業など日本のサービス産業の国際競争力が低いのと同じである。そしてこの法則は、遅かれ早かれ個人にも当てはまることになるだろう。(執筆者:九門崇)
●●コメント●●

0 件のコメント: