前回,海外オンサイト技術者に関する最適な選定やナレッジの蓄積などについてお話ししました。先のプロジェクトでは,海外の優秀な技術者と日本側メ ンバとの連携もよく,計画を超える成果を出すことができました。そこで,次のステップではパフォーマンスをさらに改善してより大きな成果が出せると確信し ていました。本人との面談を通じて,あと1年くらいは開発業務をやってもらえそうな感触だったので,さらにスキルを磨いてもらえば将来が楽しみだと思って いました。しかし突然,本人から家庭の事情で2カ月後に帰国したいとの話が出たので驚きました。日本に長く滞在していろいろな経験を積み将来を切り開きたい との話しを聞いていたので,まさか,そのような急な変化はないはずだと思いました。しかし状況を確認した結果,やむを得ないと判断しました。
この技術者は,技術力に加えて日本語や日本市場への対応スキルも向上し,チームの大きな戦力となっていました。できれば一緒に長くよい仕事をしたいと思っていたので大変残念でしたが,本人の新天地での活躍をお祈りすることにしました。
状況を真摯に受け止め,次のステップに移る
プロジェクトの責任者は,状況の変化にかかわらず目標を達成することが求められます。気持ちを落ち着けて次のステップに移ることにしました。当時のプロジェクトの状況は次のとおりでした。
1.離職の時期
2カ月後に帰国予定。当初からの計画をそのまま進めたとしても対応可能な範囲である。2.技術の蓄積
提案書,仕様書,設計ドキュメント,仕様変更確認書,テスト要項結果書,バグ対策リスト,ソースコード,リリース記録,週報,議事録などは,基本的に英語ベース,一部日本語で保存されている。技術移転に際して,最新状況をまとめる必要がある。3.オンサイト交代要員
海外チームの中からスキルのある交代要員を日本に呼び寄せることができれば,暗黙知も保有しており短期で引き継ぐことが可能である。その場合,技術面で大きな問題はないが,日本語対応経験はないので課題として残っている。4.技術移転の計画
技術蓄積を有する適切なオンサイト人材を確保できれば,次の課題は効果的な技術移転の計画立案と実行である。ドキュメントにできるものは形式知化されているが,暗黙知もあるため,技術移転プログラムの考慮が必要である。5.技術移転の期間
およそ1カ月半の新旧オンサイト要員がオンサイトで技術移転する期間が必要である。旧担当者には,それまでに,成果物のたな卸し,ブリッジSEとしての役割,ドキュメント,オフショアプロセス等に関する整理をやってもらうことにする。
開発プロジェクトの内容すなわちコンテンツやプロセスに精通している人材がいれば,次に日本側とどのようにコミュニケーションして進めるかがポイントにな ります。日本語堪能な人材がいても,それらのコンテンツを知っていなければ,まずその理解が必要となります。それは簡単に2カ月程度の期間にできることで はないと考えました。
オンサイト人材の代替要員をどのように選定するか
実は事前に,次ぎのオンサイト人材の候補者にめぼしをつけて海外側責任者にも話していました。この人材のビザを取得し来日してもらえば,残る課題 は,日本(語)対応だけとなると判断しました。さらに,それが困難な場合も想定し,関連メンバの出張による短期対応と別メンバの長期対応等も検討しまし た。
新オンサイト候補者は,海外メンバの中から下記の基準で選択しました。
1)当プロジェクトのドメイン知識を有し技術スキルが高い
2)当プロジェクトの状況に最適な人材であること当時,プロジェクトは開発完了に向けて最終フォローの段階にありました。旧担当者が業務を開始したときは,要件定義,設計ブレークダウン,ドキュ メント作成等プロジェクトスタートのための条件整備が課題でした。その後開発は大きく進み,ソフトウェア品質の確認および作りこみ,システムテスト,運用 テスト等完成に向けた緻密なフォローが重要な状況になっていました。
そこで数名の候補者のスキルや性格を分析の結果,J氏が,ドメイン知識と技術スキルを有し,外向的な性格でその時点の開発状況に適した人材と判断 しました。現地責任者からもJ氏なら対応できるだろうとのコメントがあり,日本側ではそれも参考にしてさらに総合的に評価して結論を出しました。J氏は, 外向型,情緒型,決断型であり,情緒的要素は人間的関係を重視した対応を強化すれば,同プロジェクトを乗り切ることができると考えました。
日本(語)対応力の強化作戦を実施
J氏のビザが交付され来日スケジュールが決まりました。しかし,日本(語)対応力が大きな課題として残っていました。現地責任者に,J氏は文章を うまく書くスキルを有しているかどうかを確認すると,英語で文書を書く一定のスキルは保有しているとの回答がありました。そこで以下のような対策を講じる ことにしました。
1.海外での対応
・来日前に,日本語のレッスンをやってもらう。
一般的な日本語学習ではあまり効果がないことがわかって いるので,日本との仕事の経験があり,日本語スキルの高い人材に先生になってもらい,マンツーマンでおよそ1カ月間教育してもらう。来日までの時間は限ら れているので,日本側からのモチベーションを与えるよう配慮する。2.日本での対応
・来日後,日本語と日本市場対応について,集中レッスンとOJTを行う。
・最初は日本側でできる限り日本語または英語のドキュメントを書き,それをベースに打合せを行い,本人のストレスをできる限り和らげる。
・必要に応じて,コミュニケーションをサポートする通訳を同席させる,または,一定期間海外から日本語を含めて支援できる人材を短期間オンサイトに置く。
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IT技術者
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