「クビだな、クビ」 現場責任者はそう言って腕を組み、頭を約15度右に傾けた。
サーバーを組み立てていた私の所属するチームが、部品の一部を破損してしまい、組み上げることができなくなった結果に対する呟きだった。
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今年1月から約5週間、パソコンやプリンターなどの周辺機器に、メモリやハードディスクなどを追加するキッティングといわれる仕事に就いた。
仕事の発注元は大手コンピュータメーカー。受注したのは、物流企業のS社。そのS社からキッティング作業を請け負ったのが、人材派遣会社のグッドウィルTSだ。
TSとはテクニカルサポートの略称で、IT関連業務専門の派遣である。コンピュータに比較的詳しい人材、もしくは興味を持っていて、スキルアップを目的に登録する。
TSの仕事内容としては、システム開発、サーバー運用、ヘルプデスクなど専門知識を要するものから、パソコンや液晶モニターの組立、梱包・出荷など、パソコンにそれほど詳しくない私でも、指示された上でマニュアル通りに進めれば、こなせる作業まであり、幅広い。
「オタク」と称される人達が目立つのも、TSの特徴の1つとして挙げられよう。
日本最大のテーマパークが程近いS社での就業時間は、午前9時から午後6時まで。日給7500円に交通費1000円(自宅からS社最寄り駅までは 往復760円だが、1000円に満たない場合でも返還の義務はない。1000円超過分の金額については実費請求できる)がプラスされた、計8500円が支 給総額。
そこから源泉税950円、データ装備費(1995年の設立当初から全派遣労働者の給与から天引きしていた200円をさす。グッドウィル・ユニオン が返還交渉の結果、2007年5月1日に廃止。賃金請求権の時効期間となる2年間を参考に、過去2年分の総額37億円がその間の就労者全員に返還された) を引いた7360円が、定時勤務した場合の手取額だった。
2006年8月からグッドウィルTSに登録した私は、今年4月末までに液晶モニターの基盤交換やパソコンのセットアップなどレギュラー、スポット 合わせて計79日働き、1万5800円のデータ装備費を支払った計算になる。これは、同社の返還申し出により、同額を8月に受け取った。
〔データ装備費については、グッドウィル・ユニオンが設立当初からの全額を返還するよう交渉を続けたが、同社が応じないため、現在、係争中だ〕
また同社は、日給制をだった給与体系を時給制に変更し、同時に、ランク制(A・B・C・D)を廃止した。
ランク制とは、登録初期はDランクに格付けされ、同月内に15日以上就労すると、翌月から日給が500円アップされ、Cランクに自動的に格上げされるシステム。
Cランクの私は、1月のキッティング作業で日給7500円だったが、Dランク該当者の場合、日給7000円になる。ランク制が廃止されたことで、A・Bなど上位ランク者の賃金も時給制に1本化され、大幅な減収になっているとも聞く。
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どう工夫すれば働きやすい職場になるか(写真はイメージ、ロイター)作業者の多くは30代で、顔見知りも多いことからアットホームな現場だった。
S社の社員は、所長、事務担当、現場責任者Y主任、副現場責任者Sさんの計4人だった。そのほか、主に入出荷や在庫管理を担当するアルバイト待遇の作業員が4人。これにグッドウィルからの派遣作業員約30人が加わる。
S社の倉庫内を使用した作業は、まず作業台の設置から始まった。S社に派遣された経験のあるKリーダーの指示で、パソコンとその周辺機器を乗せる 台を並べ、電源を設置するのだ。Kリーダーは、Y主任(S社社員)の指示で動く。Y主任は作業現場責任者らしく、体育会系のノリでテキパキとした指示を出 す一方、感情の起伏が激しい、いわゆるキレやすいタイプだった。
直接指示を受けるKリーダーは、コトあるごとに罵声を浴びることになる。作業台の固定が甘くグラグラしていたため、やり直しを命じられた時は、作業台の前で延々と罵倒された。他のメンバーは、作業の手を止め、その光景に見入った。
時に作業台を、大きく揺さぶりながらの叱責は30分近く続いた。不安定な状態だと商品が落下し破損する危険性が高くなる。それがY主任の激昂の理由であることは十分理解できた。が、ここまで時間を割く必要があるか、と感じるほど、過度にヒステリックに映った。
キッティング作業が始まってから、Kリーダーは他のメンバーが帰宅した後も、準備などで深夜まで残っていた。しかし、約2週間が経過したころ、突 然出てこなくなった。何の連絡もなく辞めたらしい。無責任ではあるが、派遣仲間で責める者はいなかった。心身ともに疲れていたのだろうと誰もが思いやっ た。
私は当初、予備的にノートパソコンのセッティング作業を担当していたが、サーバーの入荷と同時に、その組立作業に配置された。パソコンのライン生産に従事した経験はあるが、サーバーは初めてだった。
私とOさんの2人がパソコンメーカー社員の指導を受けた。選出されたわけではなく、その場に居合わせただけの理由からだった。その後、私たち2人 にそれぞれに1人ずつが加わり、2人1組のチームが作られた。20キロを超えるサーバー本体をラックに搭載する際は、必ず4人で行うように、Y主任から指 示があった。
1台目に取り組み、Oさんチームのサーバー本体を、4人全員で抱えて搭載しようとした時、レール部分を破損してしまった。
報告を受け、Y主任が飛んできた。そして破損の経緯を我々に尋ねた。原因は、レール取り付け用ネジの緩みで、我々の不注意によるものだった。30代のOさんと私に交互に説明を求めたY主任は、納得のいかない様子で繰り返し手順を確認した。
呆れた風に「どうしてそうなるの」とY主任。弁解の余地がなかった我々は、ただ、うなだれた。全員がグッドウィル所属であることを確認した後、Y主任は「クビだな、クビ」と呟いた。
悔しく、情けない。考えた。“我々の不注意”で思考が止まった。そんなに簡単に、クビにはできないだろうと考えながらも、次の仕事を探すことに思いが飛んだ。 (下につづく)
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