2007-11-26

障害者雇用 じわり浸透、あとはノウハウ

:::引用:::
民間企業(56人以上)の今年6月1日時点の障害者雇用率(社員に占める障害者数の割合)が1・55%となり、過去最高となったと厚生労働省が20日発表 しました。雇用率上昇の背景には、企業側がCSR(企業の社会的責任)やコンプライアンス(法令順守)に対する姿勢を強化していることや、厚労省の指導強 化があります。しかし、法で定められた1・8%には依然としてほど遠く、一層の努力が求められています。(井田通人)

 ≪ユニクロは7・43%≫

 「初めは1日6時間労働だったが、今は一般社員と同じ8時間。仕事内容にも制約はない」

 東京都台東区にある「ユニクロ浅草ROX店」。働いて5年目になる鈴木郷さん(29)の表情には、働くことへの充実感が漂う。

 鈴木さんは、20歳のときにスノーボードに当て逃げされ、「高次脳機能障害」という障害を負った。療養・リハビリ後、職業訓練施設に通い、5年 前に入社。正社員や契約社員とアルバイトの中間的存在で、月100時間以上働き、健康保険に加入できる「準社員」として働いてきた。

 「初めは(記憶障害で)メモを取ったこと自体を忘れたり、バスに乗って降りる際に切符をなくしていたりしていたが、仕事が刺激になり、脳が正常化した。今は右側の視野が狭いくらい」。鈴木さんはこう喜ぶ。

 ユニクロの店舗数は、約770店。6月1日時点で633人の障害者が働き、雇用率は7・43%に達する。

 店員の採用は、基本的に各店舗が決めている。「店舗の実行力に加え、本部が2001年から、各店1人の障害者採用をめざしてきた。成功・失敗事例はノウハウとして蓄積している」と、ユニクロ広報。

 ユニクロに限らず、障害者を雇う企業は増えている。企業がCSRを重視し、社会貢献に熱心になったり、対外イメージ悪化を恐れ始めたりしたためだ。

 ≪「売り手市場」≫

 昨年4月には、雇用促進法が改正され、精神障害者や在宅勤務障害者への支援が強化されたほか、障害者の経済的自立を促し、就労を福祉側から支援 する障害者自立支援法が施行された。厚労省はこの間、雇用率が改善されない企業の公表や、雇用率を上回った企業への報奨金支給といった“アメとムチ”の政 策を通じ、企業への“締め付け”を強めてきた。

 それでも、現状の雇用率は法定雇用率には遠く及ばない。未達成企業は納付金を徴収されるにもかかわらず、達成企業は全体の43・8%にとどまる。

 「『納付金を支払った方が安い』と考えているのではない。採用したくてもノウハウがなく、どのような仕事ができるか分からないからだ」。人材 サービス会社、テンプスタッフの子会社で、障害者の人材紹介を手がけるテンプスタッフフロンティアの中村淳社長は理由を説明する。経験の少なさから、「障 害者に『万が一』のことがあった場合を考え、慎重になっている面もある」という。

 障害者にも努力の余地はある。

 働くことを希望する障害者は、職業訓練施設で訓練した後、ハローワークで働き口を探すのが普通だ。ハローワークは最近、福祉施設などとチームを 組んで支援するなど、就労支援に本腰を入れ始めている。また、一部人材サービス会社も、健常者の紹介事業を通じて培った企業とのコネを生かし、個々の障害 者に、より適した仕事を紹介できる態勢を整えつつある。ところが、障害者の認知度は追いついていない。

 中村社長は「障害者は『自分にできる仕事はもっとある』と自信を持つべきだし、今が売り手市場であり、企業が勤務形態に関して聞く耳を持つようになっていると知るべきだ」と指摘する。

 ≪環境整備は着々≫

 一方、障害者の中でも、精神障害者の就労支援は「特に重要な課題」(厚労省職業安定局障害者雇用対策課)と位置づけられている。昨年の雇用促進 法改正では、ようやく「精神障害者保健福祉手帳」を持つ精神障害者が雇用率に算定できるようになったが、企業に雇用義務はない。厚労省は08年度から、週 20時間未満の短時間で働く障害者の雇用企業に奨励金を支給するなど、支援策を講じている。が、社会的偏見をもたれ、理解不足で働けないと思われがちな精 神障害者の雇用は、簡単には進みそうにない。

 障害者が働くための環境整備は着実に進んでいる。ユニクロ浅草ROX店の鈴木さんは、「私と同じ脳機能障害を持つ人でも、軽作業ならできる人はいっぱいいる。ユニクロ以外の企業も雇ってみれば状況が変わる」と期待する。障害者、企業側双方の意識改革が重要だ。

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