2009-10-06

「厳寒」高卒就職

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来年春に卒業する高校生の就職戦線。7月末の求人数は昨年に比べて48・8%も落ち込み、過去最悪の状況だ。先月半ばから会社面接も始まっているが、高卒の就職をめぐる問題点は何か。(社会保障部 大津和夫、左山政樹)

 「パンの“顔”がお客さんの目にとまるように並べてみて」

 東京、神奈川で27店舗のパン店を展開する「アンテンドゥ」(本社・東京都練馬区)。この4月に高卒で入社したばかりの飛田(ひだ)千尋さんが、四谷三丁目店で女性店長から陳列の仕方を教わっていた。この会社に入ったのはパンが好きだったから。「店長はお姉さんみたい。アットホームな職場です」と笑顔を見せる。

 店長も高卒5年目の正社員。同社では130人の社員のうち高卒の正社員が約7割を占める。来春も16人を採用する予定で、井戸大通(ひろみち)社長は「高卒社員には柔軟性があり、会社を支える貴重な存在だ」と強調する。

 しかし、地方ではリーマンショックの影響で高卒求人が冷え込んでいる。秋田県の佐竹敬久(のりひさ)知事は先月上旬、県商工会館を訪れ、地元の経済5団体の代表に対し、求人拡大を求めた。

 知事の要請は6月に次いで2度目。県内の電機関連企業が新規採用を抑制したこともあり、8月末現在の求人数は、統計のある1988年以来、最低の881人にとどまる。県では「2度にわたる要請は異例の緊急対応」と説明する。

 秋田県立平成高校(横手市)で、求人開拓や生徒の面接指導を行うキャリアアドバイザーの藤本茂さんは「少子化の影響か、親元を離れたくない生徒は多いのに、どの企業も雇用維持で精いっぱいで、県内就職は難しい」と話す。

 新潟県ではこれまで、県内就職を希望する高校新卒者のうち、9割以上を地元企業に送り込んできた。「生徒の応募書類を学校から地元企業へ直送しないで、ハローワーク経由にしている。新潟独自の仕組みで、この効果が大きい」と力説するのは、新潟労働局職業安定課の萩原義博課長補佐だ。あらかじめ把握できた応募状況をハローワークから学校側へ知らせている。企業の選考が始まるまでに生徒の応募先を変えることも可能だ。「特定企業に人気が集まれば、選考に漏れた生徒の就職活動は長引く。早めに希望に沿った企業を探す機会にもなっている」と説いている。

 ただ、来春も県内就職率90%以上を確保できるかどうかは危うい情勢だ。県内就職を望む約3870人に対し、県内企業の求人数は2600人弱。「相当な努力で求人を発掘するしかない」としている。
求人半減0.71倍 95年以来の落ち込み

 厚生労働省が今年7月末現在でまとめた求人・求職状況によると、来年3月に卒業する高校生のうち、就職を希望するのは約19万1000人。これに対し、求人数は13万5000人で、昨年同期に比べてほぼ半減した。減少率は過去最悪を記録している。この結果、1人の高校生に何件の求人があるかを示す求人倍率は0・71倍で、昨年より0・60ポイントも落ち込んだ。進学組の増加や少子化などで就職希望者が減る傾向こそみられるが、求人倍率はバブル崩壊後の1995年以来の急落ぶりだ。

 東京、愛知、大阪、香川の4都府県を除く43道府県で求人倍率が1倍に届かず、最低は沖縄の0・11倍。これに0・16倍の青森が続く。0・30倍未満の道県を低い順に拾うと、熊本、鹿児島、岩手、高知、宮崎、北海道、秋田で、東北、九州地方に集中している。

 高校新卒者の求人倍率は2004年から上昇に転じていたが、高卒就職の実情に詳しい労働政策研究・研修機構の小杉礼子・統括研究員は「輸出関連企業の求人が増えたためで、人材を求めて高卒のニーズが高まったとはいえない」と分析。「今回の不況は波及速度が大きい。地域で求人を掘り起こすのも並大抵ではないだろう」と推測する。

 求人の少ない地域では若者の県外流出が問題視されている。少子高齢化が進んで地域の衰退に拍車をかけるだけでなく、派遣労働などの不安定雇用の供給源になっている面もうかがえる。

 東北地方の学校関係者は「高卒で職業能力を身につける機会も少なく、一部は働く貧困層を生み出す温床にもなっている」と明かす。小杉さんは「環境や農業などの求人に活路を見いだすとともに、若者に対して社会貢献的な働き方の提供も考えるべきだ。社会から求められていることを感じさせることが大切では」と提案している。
3年以内に半数が離職 職業教育の充実必要

 新卒の高校生に用意される求人は「雇用期間の定めのない社員」、つまり正社員が原則。専門職、販売職などの一部で契約社員、準社員などの形はあるものの、ハローワークのチェックが入るため、新卒向け求人の安定度は高いといえる。

 ところが、厚労省の調査によると、05年3月に卒業した高卒者の半数近くが就職後3年以内に離職している。背景には、家庭、企業、学校それぞれの事情があるようだ。

 関東地方の食品メーカーの幹部は「会社の説明会で携帯電話をいじっているなど、職業観はおろか、生活態度自体に問題を感じる生徒も少なくない。コスト競争に追われる企業に、社会人としての教育を実施する余裕はない」と言い切る。

 都立高校の校長の一人は「普通校は進学率の向上一辺倒。就職支援まで手が回らない」と明かす。別の高校の進路担当教諭は「親が『いやならやめなさい』とすぐに離職を促してしまう」とぼやいた。高卒で就職を希望する生徒には、家庭、企業、学校が連携して自立に向けた教育を徹底させることが求められる。

 宮本みち子・放送大教授(青年社会学)は「職業教育校を充実させることで、学力以外の物差しで子供を育てる環境づくりの強化が欠かせない。企業には、離職予防を図るため、入社してから3年程度、先輩社員が相談役になるメンター制の導入など、高校の新卒社員を親代わりになって育てていく姿勢が求められる」と指摘している。
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