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農業や製造業などさまざまな現場で、外国人研修・技能実習生の「労働力」は欠かせなくなっている。だが、最低賃金が守られなかったり、違法な残業を求められたりなど問題もあり、夢を実現して帰国する人は多くはないといわれる。全国に約20万人いるとされる研修・実習生の7~8割は中国人だ。彼らはどのようにして日本にやってくるのか。採用面接のため中国を訪れた東日本の農家のグループに同行した。
中国東北部・大連市近郊のビルの一室。野菜や果物を栽培する農家の男性7人が、20~30代の中国人女性6人と向き合った。男性たちの前の簡素なテーブルには、女性の履歴書が並ぶ。
「大連に来て服飾工場で働いています。月収は1200元(1元は約14円)。実家は四川省です」。緊張気味に背筋を伸ばして座る20代の女性が、通訳を介してそう話すと、農家の一人が質問した。「地震があったね」
「はい、大変でした」。そう答える彼女の履歴書に、男性は二重丸をつけた。
面接後、男性に理由を聞くと「家が壊れたんだよね。それなら一生懸命働くよねえ」。つらくても3年間働き通す動機があるかどうかが重要だという。人手不足が深刻な農家にとって、研修・実習生は欠かせない。「いまいる研修生との相性も考慮するよ」
20代後半で子どもがいない女性には「3年間日本に行くと、子どもを持つのが遅くなるけど、大丈夫か」との質問が飛んだ。
必ず出た質問は「待遇は知っているか」。ある女性が「基本は月6万円。残業もあると聞いています」と答えると、すかさず農家の男性が「研修生は『残業』と言ってはだめ。『お手伝い』と言ってください」。 実は報酬には問題がある。「お手伝い」とは残業のことだ。技術の取得を本来の目的にする1年目の研修生には、制度上は禁止されている。だが、農家にとっても研修生にとっても、残業は暗黙の了解事項。違法なだけに、あからさまには口にしにくいのだ。
今回参加した農家の「お手伝い」は時給300円。月2万円稼ぐにも、70時間近く残業しなくてはならない。
面接は5、6人ずつ、1組に約30分。50人を面接した後、農家が気に入った半数を再び呼び入れて「2次面接」が始まった。全員を立たせたまま、農家の7人は「早い者勝ち。おれはあの気の強そうな子にする」「残りものには福があると言うぞ」などと日本語でやりとりし、それぞれ採用する人を決めた。約40分で計17人が合格した。
面接を準備したのは、中国側の民間の送り出し機関だ。希望者を募り、合格者の訪日前研修もする。毎年約300人を日本に送り出している。
合格者は手数料や保証金など約5万元を送り出し機関に払い込む。多くが借金だ。それでもなぜ、研修・実習生になろうとするのか。
食品工場に勤める女性(29)は2次面接で泣きそうだった。農民の夫との間にいる長男(2)の教育費を稼ぐために応募したが、なかなか採用が決まらない。最後に指名されて、「残業でも何でもする。子どものために頑張る」と目を赤くした。
大連市近郊で小さな雑貨店を営む尹長雪(イン・チャンシュエ)さん(30)は、04年から3年間、研修・実習生として茨城県の農家で働いた。来日前は縫製工場に勤務し、月収は約300元。夫はガラス工場で働いたが、子どもを抱えて生活は苦しかった。「とにかく生活を変えたい」と日本へ。つらい農作業に耐えて300万円ためた。借金を返し、店を開き、いまは年1万~2万元の収入がある。「7歳の娘を大学まで行かせられる。日本に行ってよかった」と振り返る。
だが尹さんのような成功例はそう多くはない。大連市の送り出し機関によると、来日前より生活レベルを上げることができるのは、3割程度にすぎないという。(編集委員・大久保真紀)
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2009-07-23
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