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前編では、採用数の削減による「質重視の採用方針」のもと、大手企業の特に技術職を採用する企業が、学生とのダイレクトコミュニケーションに注力した採用活動を展開したことを述べた。2010年度のような不況下の採用活動では、プレエントリー数や自社セミナーへの参加者数はほとんどの企業で大幅に増加する傾向が顕著だ。「質重視の採用」を目指すには、ある程度の母集団の確保は必要な施策だが、自社の採用キャパシティを超えてしまうと母集団形成が持つ本来の目的を逸脱する可能性が高くなる。「質重視の採用戦略」に欠かせない問題とは、「会いたい学生と確実に会う」ための機会(採用ステップや採用フロー)をどのように提供するかということにほかならない。
●採用数の削減で優秀層の獲得競争激化 2011年度は最適の採用フロー構築が欠かせない
前編では主に理系の採用について述べたが、一方の文系学生はどうだったのか。文系学生は理系学生(昨今では主に大学院生)のように「専攻→スキルセット(基礎能力の裏付け)→企業がアプローチする判断基準」になりにくいことが前提だ。しかし、「質を重視する採用」方針を執る企業にとって前提が変わろうとも本質が変わることはない。ここで言う本質とは、削減が避けられない採用予算のなかで「会いたい学生とどのようにして確実に会うのか」ということであり、そのための採用ステップや採用フローをいかにして築くかということだ。
「会いたい学生と確実に会う」ための手法として志望企業に対するOB・OG訪問が形骸化して久しい。採用プロドットコムの調査でも、2010年3月卒学生の志望企業へのOB・OG訪問社数は、「訪問0社は理系67%、文系64%。訪問1社は理系16%、文系14%」にとどまっている。不況の最中の就職活動だったが、この割合は景気が良かった昨年と比べてもほとんど変わりがなく、学生の“草食化”を示すひとつの傾向といえる。学生自らが“肉食獣のように ”OB・OGを捉まえに動くことが期待できなくなった現在の採用活動では、同じ大学の先輩をルートとするOB・OG訪問よりも、自社のセミナ―に参加した学生に職種や性別など希望にあったリクルーターをマッチアップさせる方がダイレクトコミュニケーションは遥かに効果が期待できる。
ほとんどの学生は就職ナビを就職活動の入口ツールとして活用しているが、前編で述べたようにターゲットによってはプレエントリーを待つだけでは採用しにくい層は厳然と存在している。
・就職ナビからのプレエントリーだけで採用フローに乗せれば十分なのか。
・全員通過させてしまうと自社の採用キャパシティをオーバーしてしまい、結果的に会いたい層と会えない状況を作ってしまうのか。
・就職ナビからのプレエントリーだけで会いたい層を採用フローに乗せるには不十分。他の施策を必要とするのか。
など
次年度に向けて、まずは自社の採用ターゲットと現状の母集団とにどの程度のズレがあるのか、を分析し、ターゲットの就職活動とズレのない採用フローを確認・構築することが必要だ。
また、今回の不況は、バブル崩壊後のように新卒採用そのものを凍結するケースは少なく、“減らすが(必要な人材は)採る”という方針をとる企業が多いことも特徴のひとつとなっている。
文部科学大臣や国立大学協会(特に工学系教授が中心)が早期化する就職・採用活動に対して警鐘を鳴らす発言を繰り返しているが、その背景には採用数の削減によって、なお一層早期から優秀層の獲得競争に乗り出している企業の採用戦略がある。また、ビジネス誌などでよく特集が組まれるように、採用ニーズが高い学部や学科への進学者減少に歯止めがかからず、人材の質の低下が懸念されている構造的な問題も無縁ではないが、この場合は、早期化というより深化(採用ニーズの高い学科とより密接な関係を持つ、あるいは一部の大手メーカーにみられるように若手人材の供給先を大学だけに依存せず自前で多様化を試みる)という側面の方が強い。不況期の採用活動は、多くの企業で学生の母集団が増加する反面、採用経費等の削減によって説明会の回数や開催地域を絞り込まざるを得ないことから、採用方針の急激な変化となって表れている。
「会いたい学生と確実に会えているのか」という「質重視の採用」の大前提となる採用フローの見直しや再構築は、「質重視の採用」を目指す企業にとって2011年度の採用戦略構築には欠かせない取り組みになるはずだ。●2011年度の採用戦略のテーマ~単なる縮小均衡ではなく、「重点と効率と飛躍を模索する」~
さて、これまで述べてきた内容と重複する部分も多いと思うが、ここであらためて企業にとって2011年度の採用戦略のテーマはどのようなものになるかを占ってみたいと思う。
2010年度は途中から急激な採用環境の変化があったため、事前に戦略を立てる余裕はもちろん無く、軌道修正で乗り切ったのが多くの企業での実態だが、この変化に上手く対応できた企業は採用に成功している。
多くの企業で採用活動の途中で予算が削減されたが、急遽セミナーを社内の小部屋で実施できるスタイルに変更した企業も少なくなかった。このような対応をとった企業からは「小規模で回数を重ねた結果、互いにコミュニケーションが深まり、非常に優秀な学生を採用できた」という感想が聞かれた。この例は、ダイレクトコミュニケーションが上手く機能し、得られた成果であることは疑いようがないが、注目しなければならないのは、会場であるハードの変更にともないプログラムというソフトを修正し、少人数のプログラムに参加できるリクルーターの編成など、質量ともに対応可能な社内体制を準備できたという事実である。社内の採用に対する理解、具体的な協力がなければこういった対応は不可能だ。
2011年度は2010年度のように途中で状況が激変する可能性は低いはず。十分な準備期間を生かす取り組みが必要である。
(1)質重視のターゲット採用戦略へ一層の変換
多くの企業が、ここ数年、量より質の採用を重視する姿勢を強めてきた。とは言え、バブル期を超える史上最大の求人総数、2倍を超える求人倍率が採用環境でもあったため、ある程度、量を確保する採用体制をとる必要もあった。しかし環境が激変した今、重点ターゲットへ集中した施策をどれだけ講じられるかが、各社共通の課題となる。就職ナビや合同セミナーといったプロモーションから採用フローに乗せるだけではなく、採用ターゲットに仕掛けていくターゲット戦略も必要になる。
前編で述べたとおり理系ならば学科や研究テーマ別にスキルセットした教授・研究室ルート・学会ルートなどが有力候補になるはずだ。文系についても職種によれば理系並みにスキルセットが必要な採用フローもあるだろう。ターゲットによっては体育会の学生を専門的に組織した情報会社や、新卒紹介など人材サービス会社にストックされた学生のデータをもとにコンサルティングを受けてみることも検討に値するだろう。このようなニッチなサービスについての情報収集については、手前味噌だが採用プロドットコムをご活用いただきたいと思う。
(2)採用コストの削減→メリハリある配分へ
あらためて言うまでも無く、多くの企業で採用予算は削られるだろうが、だからと言って、質を目指す採用競争という潮流がストップするというわけではない。一層の激化が見込まれる質重視の採用環境で闇雲に予算を減らすだけではどのような戦略も実施困難だ。つまり、ここで必要なのは、ある程度の予算を確保しつつ、配分のメリハリをつくること。すべてを薄めては採用力が弱まるだけ。これまで行ってきた採用施策全体を見直し、思い切って止めるものは止め、重点施策に思い切った割り振りを欠かすことはできない。
(3)採用フローの再構築
(1)や(2)のような質重視のターゲット戦略、メリハリのある諸施策を効率的に講じていくためには、それらを可能にする採用フローの設定とインフラ整備が必要だ。質の採用を追求するためには欠かせないリクルーターを効率的に動かすためのシステム設計やアウトソーシングは、戦略実現のためのインフラとしてかなり重視すべき検討事項といえる。大手ではプレエントリー数が例年の5倍に増えた適正数の3.5倍の7万人に膨れ上がったという企業も珍しくない。
しかし、これらの企業は就職ナビの出稿契約数を増やしたわけではない。自然と増える応募者の量的対応に肝心の採用担当者が追われているようでは、質の採用への転換などおぼつかない。早期からターゲットに食い込み、コミュニケーション密度を高められるような戦略を実現できるのは、採用フローの構築(プラン)とインフラ作り(土台)がともにあってこそプレエントリー数が膨れ上がり、自社の最適キャパシティをオーバーフローしている企業は、採用フローの構築とともに、良質できめ細かなサービスを提供できるアウトソーシングパートナーの発掘が急務といえる。再び採用人数が拡大しても採用スタッフを増員するわけにはいかない企業としては「採用方針と戦略の策定、面接や意思決定」などのハイレベルな業務のみを社内で行い、その他の採用業務はアウトソーシングに全て切り替えるという動きに取り組む時期だといえる。
(4)縮小均衡ではなく次なる飛躍へ結びつける
厳しい環境変化に対して、単に縮小均衡しているだけでは、他社との人材獲得競争に敗れる可能性が高い。ここは厳しい状況が自らの変化を引き出す格好の材料にもなりえるという発想の転換も必要ではないだろうか。そのためには単年度だけを意識する発想を捨てること。(2)で述べたように思いきって止めるものは止め、再び訪れる採用拡大期に必ずや求められる採用の準備に取り組む勇気も必要だ。例えば、中小・中堅と大企業で取り組みに差がある外国人(留学生)採用もそのひとつだ。前編の理系採用の段落で述べた大手企業と中堅・中小企業での採用力の差は、外国人(留学生)採用の分野でもジワジワと広がりが出てきているのではないだろうか。
最後に
まだ、2010年度の採用に取り組んでいる企業も少なくないが、一足早く2010年度の新卒総括と2011年度の展望を述べさせていただいた。上記に挙げた(1)~(4)を念頭に置き、自社の採用力である「自社の認知度、業界の人気度、採用ツールの整備状況、採用スタッフ数、予算額、経営者の理解度、社内の協力体制など」と擦り合わせをしていただき、次の飛躍につながる新たな施策をじっくり検討していただきたいと思う。
弊社ではそういった取り組みの一助としていただければとの願いで「2010年度の新卒採用総括資料 上下巻」を用意。中立的視点からの各種データの提供とともに、その裏側にある学生の声をふんだんに採録した。ご興味がある採用担当者は採用プロ.comのサイトで無料入手が可能となっているので、是非、この機会を活用していただきたいと思う。
●●コメント●●
2009-07-23
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