2009-06-24

中国 2020年めどに上海を国際金融センターに

:::引用:::
 ■市場透明性 競争力確保へ試練

 世界的な経済危機の影響が残るなか、中国国務院はこのほど上海を国際金融センターに生まれ変わらせる計画の具体的な期日を初めて明らかにした。それによると、中国は2020年までに上海の閉鎖性を改め、開放的で強い競争力を持たせる考えだ。上海市場はすでに株の取引額で中国一の規模を誇るが、門戸の開放に向けては、解決すべき課題が山積している。

 【分析】

 最新のデータによると、上海には124の銀行、291の保険会社、94の証券会社など、698もの金融機関がひしめきあう。外資系銀行は93行あり、そのうち57行は人民元両替業務の免許を得ている。

 上海は中国最大の株式市場を持ち、その規模は株式売買高でアジア第2位、世界でも第3位だ。また、銀行間取引、先物取引、金やダイヤモンドの取引の中心地でもある。

 とはいえ、上海はライバルの香港に大きく後れを取っている。香港では本土の大企業が資本を蓄え、多くの外資系ファンドが拠点を置く。これまで中央政府が上海の金融業務の開放や人民元業務の自由化について慎重な姿勢を取ってきたことが、長らく上海の発展に歯止めをかけてきた。

 ◆米依存から脱却

 上海市人民代表大会は、同市の金融センターとしての発展を促進する法案を可決し、中央政府にも支援を求めてきた。国際的な金融センター育成の必要性を認めた中央政府も、同市の取り組みを支援する姿勢を表明。国務院は4月29日に同市を国際的金融センターと位置づけた。

 国務院の計画によると、上海は2020年までに「中国の経済力および人民元の国際的地位にふさわしい金融システムの大部分を完成させる」としている。国内外の投資家の参加により、同市が「国際的な競争力と影響力を持つ金融センター」になることが期待されている。

 中国当局は、経済危機によるドル建て資産の価値の下落に頭を悩ませている。同国が保有する数兆ドル規模の資産を売却すれば、さらに資産が目減りし、巨額の損失を免れないからだ。同国にできるのは、米国依存を引き下げるため、強く独立した金融システムの確立を急ぐことだ。上海は、この国家的戦略で欠くことのできない役割を演じることになる。

 上海の金融市場は将来、多機能で多層的なものになる見込みで、これまで以上のデリバティブ(金融派生商品)や先物商品が生まれるだろう。人民元建て債券の発行も徐々に増加し、信用格付けや決済などに関する金融サービスの水準も向上するとみられる。

 上海が金融センターとしての地位を確立するには、クリアすべき多くの問題がある。市場の閉鎖性、政府の介入、法や規制の束縛、人材不足など、同市の金融システムにはさまざまな欠点がある。これらの問題は最近改善が進んでいる。

 上海市場では、適格外国機関投資家制度(QFII)の下で外国人投資家に許可された投資額は300億ドル(約2兆9400億円)未満に限られている。09年に門戸はもう少し開かれ、中国預託証券(CDR)や上場投資信託(ETF)の発行という形で外国企業の上場を認める。各国の開発銀行が発行する人民元建て債券の額も増加する見通しだ。

 当局の規制も市場の閉鎖性を支えている。上海の規制当局は、IPO(新規株式公開)の募集期間延長や印紙税の変更といった、株式市場に影響を与える行為を禁じるために、定期的に市場介入を行っている。上海市場の上場企業は、上場優先権を与えられた大手国営企業で占められており、民間企業や外資系企業は条件が異なる。現在は、中国本土に拠点を置く台湾系民間企業を筆頭に、少しずつ恩恵を受け始めている。

 ◆人材育成も急務

 法律や規制が、外国人投資家の参入に十分対応していないのも問題だ。上海市政府は、たとえば07年に仲裁機関を設置し、08年に浦東新区と黄埔区に金融訴訟を扱う法廷を設けるなどの対応を進めてきた。

 金融分野の人材不足も懸念される。上海には21の大学があり、中国有数の名門大学も存在する。学生の総数は30万人だ。しかし、金融、投資、会計、法律など、国際的な金融センターが必要とする分野の専門家は不足している。ロンドンやニューヨークでは就業人口の11.5%が金融部門に携わっているが、上海ではわずか2.2%だ。

 07年には、人材育成のため中央国際工商学院など同市の大学機関が連携して金融研究部を設立。また上海市も、海外からの人材を呼び込むため住宅、医療、教育面での優遇政策を検討しているという。

 国際金融センターとしての地位を確立するには、まず同国に自由な資本の流れを確保しなければならない。中央政府は4月、上海、広州、深セン、珠海、東莞の5都市を人民元建て決済のオフショア・センター(海外投資家を対象に税制や規制面で優遇措置を設ける地域)に指定した。また今年に入ってからは、人民元の用途を2国間貿易の決済に拡大することでいくつかの国と合意し、広西チワン族自治区や雲南省における近隣のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国との貿易で、人民元を決済通貨として使うことも許可している。

 【結論】

 世界的な金融危機を経験した中国は、国内に国際的な金融中心都市を開発する必要性を痛感し、その役割を上海に託した。すでに金融の中枢としてのインフラやハード面の整備はできている上海だが、市場の閉鎖性の改善や規制の整備、人材育成などのソフト面では、いまだ多くの課題がある。上海は今、大きな試練に直面している。
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