2009-05-18

凍て付くエリートの夢 中国、就職難で公務員志望急増

:::引用:::
 ビジネスの第一線で活躍することを夢見た中国の優秀な新卒者らは今年、失意に満ちた就職活動を余儀なくされた。世界的なリセッション(景気後退)のあおりを受け、税務署など行政サービス部門しか受け入れ先がなかったからだ。中国共産党も「優秀な人材の就職難は経済面で取り返しのつかない損失になる」と頭を抱えている。

 ≪倍率56倍、狭き門≫

 2月15日、江蘇省連雲港市の税務署。凍り付くような寒さの中、4年制大学に通う女子学生ソン・イーチェンさん(21)は、200人の応募者とともに、凍えながら採用面接の順番を待っていた。貿易学で学位を取り、中国銀行のような一流国営企業に就職してキャリアを磨くのが夢だったソンさんは「公務員を目指すなんて、思ってもみなかった」と話す。

 ソンさんだけではない。世界的な金融危機は中国の輸出に大打撃を与え、GDP(国内総生産)成長率は過去9年で最低の水準に減少。多くの新卒者が就職活動で苦戦を強いられた。

 経済分析を行うムーディーズ・エコノミー・コムのアナリスト、シャーマン・チャン氏によると、4年制大学卒業見込みののうち、1~3月期に就職を決めた学生はわずか20%と従来の平均70%から激減した。

 就職先が決まらない学生の多くは、当初は見向きもしなかった行政サービス部門の公務員を目指すようになった。今年の公務員試験には77万5000人の応募が殺到。倍率は56倍で、1年前に比べ20%も上昇した。

 中国の最も優秀な人材が就職の機会を奪われている現状は共産党指導部にとっても頭痛の種だ。人力資源社会保障部のリー・シャンウェイ氏は「有能な学生が相応の職を見つけられないのは、人材面で多大な損失。長期的に見れば、経済面でも取り返しがつかない」と指摘した。

 一人っ子政策をとる中国では、どの学生も家族の期待を一身に集めている。ホライズン・リサーチ・コンサルタンシー・グループによると、北京、上海、広州など主要8都市の親たちは収入の3分の1を教育費につぎ込んでいるという。

 ≪税務署の受付係に≫

 ソンさんの両親も娘が心配でたまらない。公務員試験を受けるよう勧めたのも両親だった。試験に向け、職業訓練所のセミナーに参加したソンさんは会場に300人もの学生がひしめいているのを見て「この先の競争がどれほど厳しいか思い知らされた」と振り返る。

 そして首都北京での激しい就職競争を避けることを決断。地元の江蘇省連雲港市の税務署を選んだというわけだ。毎日模擬問題を解き筆記試験に臨んだ結果、晴れてトップで合格した。

 ソンさんは、親族がゆっくり過ごす1週間の春節(旧正月)の期間中も自己啓発本を読み、1000項目に及ぶ面接の想定問答も頭にたたき込んだ。

 満を持して迎えた面接日。しかし税務についての質問は何一つ出なかった。ソンさんは「一瞬頭が凍り付いた」と語る。

 面接官は乳児6人以上が犠牲になった牛乳のメラミン混入事件に対する政府の対応などについて質問。ソンさんは中国のメディアが事件を公表したことを評価し、政府の対応は早かったと答え、政府にさらなる再発防止策を望むと話したという。

 その日の夜遅く、ソンさんは面接会場の掲示板で受付係に採用されたことを知った。「夢見ていた職ではないけれど、『やっと職に就けた』というのが実感」と話す。すでに次のステップも考えている。「今でも、もっとやりがいがあって海外で活躍できる仕事に就いて視野を広げたいと思っている。できれば、そのときには金融危機が終わっているといいんだけど」(Michael Tighe)
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