2009-05-26

留学生の支援 あらゆる面で

:::引用:::
 留学生の受け入れに、職員が骨を折る。

 4月末。東京国際大学(埼玉県川越市)の食堂は、新入生歓迎パーティーに集う約200人の歓声であふれた。学生支援部の職員、金善子さん(38)は、一人でたたずむ留学生を見かけると、すかさず近寄り、中国語で話しかけた。

 「生活は落ち着いた?」

 友だちができない、生活が苦しい……。中国で生まれ、同大大学院で学んだ金さんには、留学生の気持ちがわかる。別の場所では、こちらも卒業生の米国人職員が、留学生に暮らしぶりを尋ねていた。

 同大は1965年の開学以来、「国際人養成」を理念に掲げて積極的に留学生を受け入れ、今年度も24か国・地域の約600人が学ぶ。

 留学生たちは、日本人と異なる考え方を披露して議論を盛り上げるし、図書館で午後9時の閉館まで残って勉強しているのも、たいてい留学生。荒井孝昌学長(69)は、「留学生は刺激を与えてくれる。大学の学びに欠かせない」とまで言う。

 だが、そうした状態を維持するには労力が必要だ。「職員が四六時中あらゆる角度から支援しないと」と、長谷川良成事務局長(61)は苦笑する。


 留学生を受け入れた大学の責任は重い。国は「留学生30万人計画」を推進する一方で、不法滞在の撲滅にも力を入れる。留学生が卒業後も日本にとどまる場合、就職か進学か、次の落ち着き先が決まるまで、受け入れ大学の責任が問われる。

 大切なのは、大学生活に軟着陸させるための心配りだ。警察官に職務質問を受けた時、外国人登録証を持っていなかったり、具合が悪くなって病院に運び込まれたり。何かあると、まず大学に在籍の確認が来るため、その都度、職員は奔走する。

 長谷川さんには、忘れられない光景がある。学生課で、片言の日本語で何かを訴える中国人留学生がいた。言いたいことがなかなか伝わらない様子だったため、中国語を話せる職員を連れてくると、人が変わったかのようにまくしたてた。「授業が速すぎる」。不満を一通り吐き出し、職員が改善を約束すると、学生は安堵(あんど)の顔で引き揚げた。

 「生の感情」を出せる相手が必要と痛感し、その後、留学生がかかわる学生課などには、中国や米国、韓国人職員のほか、外国語が堪能な職員を複数配置した。

 母国語で話せるようになると、留学生は生活の苦労も口にしだす。不用になった布団や家財道具を贈る職員も現れるようになった。長谷川さんによると、正門脇にずらりと並ぶ留学生の母国の旗は、この大学はあなたの居場所だ、と伝えるための演出だ。
留学生の母国の旗を掲揚する(同大で)

 居場所作りには、昨年4月に開設された学生支援室も一役買う。職員2人が常駐する小部屋に、毎日10人前後の留学生が通い、そろって友だちができない悩みを口にする。「さりげなく友だちを紹介したり、黙って聞くだけだったり。いつも僕らがついていると伝えています」と担当する瀬戸口勲さん(32)は話す。

 授業でも、留学生のペースには合わせられないと改善要請を断る教員もいるため、職員がリポートの書き方なども指導する。


 それでも、毎年3%前後の留学生が退学して行方不明になったり、学費を払えず除籍処分になったりして大学を去っていく。ここ数年は、現地から直接留学生を募集せず、一定期間、日本語学校で学んだ就学生だけを対象にし、母国の保証人にも確認をするなど入学の審査を厳格にするが、そうした学生は減らない。

 このところの経済情勢の悪化も重くのしかかる。新入生歓迎パーティーの直前、前期の学費納入期限の前、長谷川さんの机には「学費延納願」の書類が山積みされていた。500人弱、うち半分は留学生だ。「父の転職で家族に仕送りをしなくてはいけない」「家族の入院で学費が送られてこない」。校舎の明かりが消えた後、学生課の職員たちが毎晩、留学生の個別の相談に乗りながら、奨学金申請書を一緒に書く。

 国際色豊かな学びの場を支えるため、地道な努力が続いている。(松本美奈、写真も)

 留学生30万人計画 日本の国際競争力を高めるため、2020年をめどに、留学生の受け入れ数を現在の約12万人から30万人に増やす計画。関係省庁や企業などで受け入れ策を推進しているが、各大学での職員を中心とした多様な支援が定着へのカギを握るとみられている。

資質向上へ他校と連携も

 職員の資質向上を目指した取り組みが全国に広がっている。大学が個別に職員研修を行うだけでなく、他の大学やNPOと連携するケースも目立つ。

 四国では昨年10月、34の大学・短大・高等専門学校がネットワークを発足させ、若手職員の育成や経営者、管理者養成プログラムの開発、研修を始めた。東京では、元大学職員らが集まり、養成・研修を行うNPO「大学職員サポートセンター」を発足させた。

 こうした動きの背景にあるのは、大学の生き残りへの強い危機感だ。高い専門性や指導力を持った教員だけでなく、教育内容や大学経営の全体を見渡せる職員の存在がなければ競争に勝ち残れない、とみる大学は多い。

 職員に求められる能力はかつてないほど多様化している。財務や経理などのほか、学生相談や学習サポート、地域や企業との交流のためのパイプ作り、大学間連携なども期待されている。

 職員自身の意識も変わりつつある。大学職員約1250人が加盟する「大学行政管理学会」によると、経理や財務より教育のあり方に関心を持つ職員が増えているという。

 「職員力」をキーワードに、大学に変革が始まっている。
(2009年5月26日 読売新聞)
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