2009-05-27

再生の条件:農and食/3 集落営農、人材が鍵

:::引用:::
「味付けは大丈夫?」「ボウル持ってきて!」。山口県境に近い島根県益田市の山間部。稲作を中心とした集落営農組織「横尾衛門」の作業場に女性7人の声が響く。副業として「道の駅」などで売るフキのつくだ煮の調理作業だ。メンバーの一人(68)は「近所の人との会話が増え、何より働く場ができた」と喜ぶ。

 「横尾衛門」は鎌倉時代に集落を開いたとされる人の名。農作業を集団で行う営農組合として92年に発足し、05年に法人化した。現在の組合員は23人。農作業ができない高齢者を除く60代以上の6人前後が交代で稲作を中心とする農作業を担当、収穫高に応じた配分に加え、時給制で賃金を受け取る。農地を提供するだけの高齢者は、収穫高の配分を得る仕組みだ。

 経営面積は約20ヘクタール。集落内に2ヘクタールあった耕作放棄地の解消にも一役買った。代表理事の豊田島夫さん(62)は地元出身だが、JR西日本で車掌を務め55歳で退職した後に運営に加わった。「長い間顧みなかった古里への恩返しをしたい。高齢化や過疎化のスピードは想像以上。へき地の農業を守るには力を合わせなければ」と語る。

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 横尾衛門のような集落営農組織は、農林水産省が07年度に導入した所得補償政策「品目横断的経営安定対策」の柱の一つ。対策は大規模農家や農業法人の育成が主眼だが「小規模農家切り捨て」との批判に配慮し、集落営農も対象とした。

 集落営農の手法は、横尾衛門のように集落全体を一農場として共同作業を営むタイプのほか、農業機械を共同利用するなどさまざま。経理の透明化や販売力の強化などを図るため、結成から5年以内の法人化が義務づけられている。

 しかし、高齢化が進む山間部では核になる人材の確保に悩む例も多い。農林水産政策研究所の吉田行郷・政策研究調整官は「機械の共同利用などの実績がない、急ごしらえの組織には難しさもある」と指摘する。横尾衛門は営農組合の実績や豊田さんという人材に恵まれた理想的なケースと言えそうだ。ただ、高齢化や後継者問題もあり、将来を見通せているわけではない。

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 模範的な集落営農組織が崩れる例もある。

 宮城県角田市の集落営農組織「夢の里えだの」はメンバー7人中6人がそれぞれ8~20ヘクタールを経営する大規模農家だった。元々は減反に対応してコメの代替作物となる麦や大豆の生産に取り組み、39ヘクタールを共同耕作していた。

 しかし、法人化をめぐって意見対立が表面化。06年の結成以来、コメも含めた本格的な農業法人を作るかどうか議論してきたが折り合わず、今年4月25日に解散した。個々の農家の複雑な事情が絡むが、地元の農政関係者には「後継者のいる農家は家族経営を崩したくなかったのでは」との見方もある。

 副組合長だった横山力さん(55)ら3人は近くコメも共同化した農事組合法人を設立する方針。横山さんは「無駄な設備投資を省け、機械利用や資材購入も効率的。今の時代、家族経営には限界がある」と強調する。

 将来へ向けた地域農業の基盤を確立するための集落営農。だが、所得補償というカネの論理だけで農業を守ることは難しい。さまざまな利害関係を調整し、地域全体で取り組む機運を育てることも農政の重要な課題だ。=つづく

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 ■ことば
 ◇品目横断的経営安定対策

 関税引き下げなど農産物貿易自由化の進展に備え、農業経営の安定を図るため07年度にスタートした所得補償政策。コメ、麦、大豆、でんぷん用バレイショ、テンサイの5品目について、一定の要件を満たす大規模農家や農業法人、集落営農を対象に標準的な生産コストを収入が下回った分などを補てんする。07年度は約5万戸の農家(法人と集落営農を含む)に約1800億円が支給された。
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