あおられ転職？ 人材ビジネス盛んだけれど

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東に就職、転職したい人がいれば、西に採用したい会社がある。

　その間で人材ビジネスは花盛り。でもマッチポンプ感、ありません？（ＡＥＲＡ編集部　大波綾）

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　母校を訪ねた青年は覇気をなくしていた。立教大学を卒業し、今年４月、メーカーに就職したばかり。まだ半年なのに、転職を真剣に考えているという。

　「リクナビＣＡＦＥからメルマガが届いてサイトを開くと、ついリクナビＮＥＸＴのリンクをクリックして登録しちゃうんです」

　リクナビとは、就職活動を始める昨今の大学生が登録する日本最大級の就職情報サイト。運営はリクルートだ。大学によっては秋に開く３年生向けの就職ガイダンスで登録用紙を配るところもある。

　今年の大学４年生が対象の「リクナビ２００８」は約６０万人の学生が登録。８千社以上の企業情報を掲載している。企業が採用情報を掲載するには、掲載料１２０万円が必要。エントリー機能（９０万円）、説明会告知（６０万円）などオプション費用は別だ。

　「リクナビＣＡＦＥ」は登録者約１５０万人のリクナビ関連サイトで、就職活動中の学生から入社３年目ぐらいの若手社員がターゲット。メールマガジンなどで就職活動のマナーや社会人の悩みをフォローする。「ＮＥＸＴ」はリクルートの転職情報サイトだ。

　冒頭の青年によれば、周りの同期や友人の多くが入社早々、転職情報サイトに登録しているという。そんな話を聞き、立教大学キャリアセンターの西崎大さんは頭を抱えている。

　「最初からやりたい仕事が出来るはずはありません。これからじっくり仕事を覚えていくのに、第二新卒ですぐ転職するのは決していいとは思えない。就職や転職の情報サイトの影響を安易に受ける人は多い」

　リクナビＣＡＦＥを見ると、「会社脱出こっそり計画」というページがある。その中の「『超・はじめての転職』講座」というコーナーで「一度でも、仕事を辞めたいと思ったことがありますか？」といった一問一答に進むと、導かれるように転職情報サイト「リクナビＮＥＸＴ」にたどり着いた。

　●「転職をあおってない」

　リクルートの草原繁執行役員は、「リクナビＣＡＦＥは何のために働くのかを考えてもらうもので転職をあおるものではない。安直な転職に結びつけられているなら、考えなければいけない課題です」と、話した。

　景気のよさからここ数年、新卒だけでなく第二新卒、転職が「売り手市場」と言われる。毎日コミュニケーションズの「マイナビ」「マイナビ転職」、エン・ジャパンの「［ｅｎ］学生の就職情報」「［ｅｎ］社会人の転職情報」、「日経ナビ」、「学情ナビ」など就職や転職の情報サイトは花盛りだ。

　中でもリクルートは目立つ。表には新卒・転職・企業の採用支援に限ったリクルートグループのおもな人材関連ビジネスを挙げたが、アルバイトや人材派遣などの領域も含めると、グループの０６年度の連結売り上げ約７５７０億円のうち人材採用広告領域が３１．７％の約２４００億円を占める。

　１９６０年に大学新聞専門の広告代理店として創業したリクルート。６８年に「就職ジャーナル」、その後も転職情報誌「就職情報」（７５年、現「Ｂ－ｉｎｇ」）、女性向け転職情報誌「とらばーゆ」（８０年）を次々と創刊した。人材ビジネスはリクルートの歴史そのものだ。

　●リクルートを踏み台に

　そんなリクルートを“踏み台”に人材関連ビジネスの分野で起業する出身者も多く、チャートに挙げた企業以外にも人材コンサルタントと称する元社員は多い。

　「会社を辞めても人材分野で活躍する人が多いのは、リクルート自体が人本位主義を掲げ、人の可能性を信じているからでしょう」（草原執行役員）

　だが、新卒から第二新卒、転職の領域までを網羅しているとなると、限られた「人材」を引っ張り合う商売にはならないのか。

　「リクルートは個人の幸せと企業の成長を常に考えている。両方を満たすため、雇用において新しいマーケットをつくってきた。時代のニーズに応えているのであり、マッチポンプとは違うと思う」と、草原執行役員。そして、こうも語る。

　「いまの時代が抱えている問題には応えていきたい。たとえば第二新卒は就職氷河期時代に出てきた言葉ですが、求人倍率が上がってきたこの１年以降は意味合いが違ってくる。今後の第二新卒についてはリクルートグループとしても対策を考えている」

　●転職の数だけもうかる

　第二新卒ではない、ふつうの転職ならどうだろう。

　厚生労働省によると、新たな仕事に就く人のうち直前１年間に就業経験がある「転職入職者」が、働く人全体に占める割合の「転職入職率」は、０５年で１１．０％（前年１０．１％）と増加し、ここ３年間は転職者の雇用状況が好調だという。芸能人やスポーツ選手を起用した転職情報サイトのテレビＣＭをやけに目にする。

　人材紹介会社も活況だ。ここでも２強と言われるのが、リクルートグループの「リクルートエージェント」とリクルート出身者が起業した「インテリジェンス」だ。

　ＩＴ企業に強い人材紹介会社「ロード・インターナショナル」のシニアコンサルタントで『人材コンサルタントに騙されるな！』（ＰＨＰ新書）の著者・山本直治さんは、

　「少しの差で優良企業や正規社員での就業機会に恵まれなかった人が人生ゲームで敗北するのはおかしい。転職機会の増加それ自体は必ずしも悪い話ではない」と前置きしつつ、言い切る。

　「人材紹介会社は人が転職をしてくれればくれるほどお金が入るビジネス。ノルマがきついと、求職者に合っているとは思えない会社でも入ってほしいと願ってしまうこともありえます。あおられて負のスパイラルに陥っている転職者がいても、転職は止めるべきとは口が裂けても言えない面がある」

　人材紹介会社では、人材コンサルタントが個人と企業の間に入って転職をあっせんし、成立１件ごとに相場として転職者の年収の３０～３５％の紹介手数料を成功報酬として得る。転職者が人材紹介会社に登録料などを支払うことはない。

　人材コンサルタントは、「とにかく人がほしいから紹介してくれ」という企業の採用担当者と、「希望するストライクゾーンから外れている」という求職者の間で板挟みになることもある。本来ならば「究極の感情ビジネス」と言えそうなのだが……。

　大手の人材紹介会社だと求人案件が多い半面、登録する求職者も多い。人材コンサルタントと会うのは初回の１回だけで、あとは求人情報が次々とメールで送られてくるだけというのもよくある現状だと山本さんは言う。

　一人ひとりのキャリアに忠実である人材コンサルタントと出会えるかは、求職者側も見る目を鍛える必要がありそうだが、そう何度も転職を繰り返すのはいかにも得策ではなさそうだし、だとすれば転職は慣れるものではない。

　●いい人材コンサルとは

　「本当にいい人材コンサルタントは、その人のためにならない転職を止めることができる人。セカンドオピニオン型の提案ができればいいのですが、いまの法制度の下でのビジネスモデルとしては難しい」（山本さん）

　現状の職業安定法では、転職決定に対する手数料を企業から得ることを前提としており、原則として求職者からは手数料をとってはいけないと定められている。

　民営の有料職業紹介事業所数は００年度以降、年千カ所規模のペースで増えているが、０５年度は厚労省の調査によれば１万３７５カ所と前年度より１９．４％も増えた。ニーズがあるから増えてきたのだろうが、景気はいつまで続くのか。山本さんは言う。

　「景気が悪くなれば、企業が中途の採用も控えるでしょう。そうなれば、人材紹介会社は生き残りが厳しくなると思いますよ」

　

　■求人広告はマッチポンプ　「転職は慎重に」　エン・ジャパン越智通勝代表

　偽善で言うのではなしに、人材ビジネスはそんなに大きくなってはいけない。大きくなればなるほど、悪いことをします。

　たとえば人材紹介会社。人を引き抜き、よその会社に紹介すればするほどもうかる。するとどうなるか。求職者が興味を示していないのに、紹介手数料が多くとれる企業を薦めることもありうるんです。

　特に第二新卒は問題です。最近は入社３年に満たない人をメールや電話で誘うこともよくある。

　社会経験がないのに、「そんなあなたでも必要な会社がある」と口説かれたら、若い人はうれしいですよ。でも、たいして働いたことがない人間が他社ですぐ活躍できるはずがない。

　これからも第二新卒狙いの人材紹介は増えると思います。３０歳以上の人の転職では実力のある人はいまの会社に引き留められるし、複数の会社から誘いもくるからなかなか決まらない。それでは人材紹介会社はもうかりませんから。

　転職を否定しているわけじゃない。ただ、目先の転職は危険。理想は辞めた会社から推薦状がもらえるような転職です。

　求人広告というのはマッチポンプ。適当に人が入って適当に人が辞めれば企業はまた求人広告を出す。すると業界は潤う。

　うちは他社と差別化するため、一つ一つの求人情報を１００％取材する主義でやってきた。新卒向け就職情報サイトも同様で、会社情報は独自取材している。求職者や学生に尽くすことで、結果的に企業からもいい人材が採用できたと評価されている。

　人にとって就職というのは人生そのものです。就職をビジネスにする限り、われわれの業界は社会性をもたないといけない。転職をあおってはいけない。

　だからいつも言ってるんです。企業には「人材は大切に。採用は慎重に」、求職者には「仕事は大切に。転職は慎重に」と。

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　おち・みちかつ／１９５１年、兵庫県生まれ。２０００年に転職情報サイト運営のエン・ジャパン設立

　

　■人材ミスマッチ　それがある限り貢献していける　ワイキューブ安田佳生代表

　独立するつもりで、勉強のためにリクルートに入りました。すぐ辞めたので何を学んだわけではないけれど、いい人材を採るためには採用に力を入れなければダメだということはわかった。うちもそうですが、リクルート出身者の会社は採用にお金をかけるところが多いですね。

　配属先は（リクナビの前身の会社案内本）「リクルートブック」の営業。能力が高い新卒が多く、みな即戦力でした。彼らがガンガン電話して広告をとるんです。

　先行投資なしで始められたのが人材ビジネスだったから始めたわけですが、スタートダッシュにはリクルートの営業スタイルは役立ちましたね。ただ、当時のリクルートはお客さんに売ることには力を注ぐのに売った後はそうでもなかった（笑い）。媒体力があればそれでいいけれど、ぼくたちはそうはいかない。売った後、納品が大事だと気づいたのは５年くらい後です。

　いま、中小企業の採用コンサルティングに力を入れています。小さい企業は生まれながら東大生の息子をほしがるようなもので、人を育てる発想がない。でも中途＝即戦力ではなく、自分たちで育てないと。経営者には「採用に手間をかけてください」と言います。

　若者が３年で３割辞めると言われますが、中小企業は５割辞める。でも、うちが採用に携わった会社は３年で辞める人が２割を切ります。それでもゼロではない。人材のミスマッチがあるかぎり、ぼくたちは貢献できるはずです。

　「何のための就職か」という点にミッションを持つ人材ビジネスがどれだけあるかわかりませんが、ぼくはこの業界がマッチポンプだとは思わないし、転職をあおっているとは思わない。第二新卒にしても現にいるわけで。その人たちを活用する方法はあるし、手助けするビジネスはあっていいんじゃないかな。

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　やすだ・よしお／１９６５年、大阪府生まれ。リクルートに１年８カ月在籍後、９０年にワイキューブ設立

　◆新卒・転職・採用　リクルートグループのおもな人材関連ビジネス

新卒向け　　就職情報サイト　　　　　リクナビ

　　　　　　雑誌　　　　　　　　　　就職ジャーナル

　　　　　　就職支援サービス　　　　まだまだ間に合う就活２ｎｄステージ

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転職者向け　転職情報サイト　　　　　リクナビＮＥＸＴ、とらばーゆ

　　　　　　雑誌　　　　　　　　　　Ｂ－ｉｎｇ、ガテン

　　　　　　人材紹介・斡旋型　　　　☆リクルートエージェント

　　　　　　　　　　・サーチ型　　　☆リクルートエグゼクティブエージェント

　　　　　　再就職支援　　　　　　　☆リクルートキャリアコンサルティング

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企業向け　　採用コンサルティング・企業研修

　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆リクルートマネジメントソリューションズ

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その他　　　シンクタンク　　　　　　リクルートワークス研究所

　◆リクルート出身者によるおもな人材関連ビジネス

　☆キャリアデザインセンター

　多田弘實代表

　転職情報サイト「＠ｔｙｐｅ」の運営、転職情報誌「ｔｙｐｅ」の発行、人材紹介など

　

　☆インテリジェンス

　鎌田和彦代表

　人材紹介、転職情報サイト「ＤＯＤＡ」運営など

　

　☆リンクアンドモチベーション

　小笹芳央代表

　採用コンサルティングなど

　

　☆ワイキューブ

　安田佳生代表

　採用コンサルティングなど

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