2009-02-24

楽天、「Web 3.0ではなく“サードリアリティ”を追求する研究所」について語る

:::引用:::
楽天は3月27日、今後の同社における技術開発の拠点を担う「楽天技術研究所」について、メディアとしてはCNET Japnの取材に初めて応じ、その現状と構想を明らかにした。

 ヤフーも3月26日、同様の趣旨で立ち上げる予定の研究所について発表している。

 今後のネットサービスの主力を担うと目されるWeb 2.0関連などの技術について、出遅れているとの見方が多い両社。その一方の楽天は、同研究所についてどのような狙いと戦略を定めているのか──。楽天技術研究所代表の森正弥氏に聞いた。
--まず森さんと楽天技術研究所の接点から教えて下さい。
画像の説明 楽天技術研究所代表の森正弥氏

 楽天の入社は2006年9月です。それまではアクセンチュアに8年程度在籍し、大企業のIT活用戦略の取りまとめなどの仕事をしていました。

 最後の2年間でアクセンチュア関連の研究所にかかわる仕事をしており、その中で「自分が研究所を作るのならこういうものを作りたい」というビジョンが出来上がってきました。その時、元アクセンチュアで私の部下だった楽天社員経由で楽天が技術研究所を本格展開しようとしていることを知り、思い描いている研究所が作れそうなので、楽天への入社を決めました。

 その後、楽天会長兼社長の三木谷と話をして、「この人は天才だ」と思いましたね(笑)。というのは、私が長く思索してきた研究所のビジョンについて、すでにビジネスベースで実践していたり、実践しようとしていたからです。逆に、三木谷との議論を通じて、私が持つビジョンがより鮮明になり、楽天にとっても適切なものになってきました。
--そのビジョンとは何ですか。

 まだ名称については確定していないのですが、私は「サードリアリティ」というビジョンを提唱しています。どういう意味なのかというと、「将来的な技術展望を超えて現実は進化している」ということを表現するための標語になります。

 今注目されているWeb 2.0現象というのは、ウェブ上のデータ量増大や双方向性の活性化などにより、人々の協力関係が確立され始めたことで、ウェブの価値が高まっているということですよね。しかし、現実の世界でも今、大きな変化が起きています。

 例えば、IT活用で現実のディスプレイに映像や情報をタイムリーに配信するシステム「デジタルサイネージ」などは急速に普及しており、第2の「Suica」になるとさえ、私個人は思っています。ほかにもGPS(全地球測位システム)を活用した位置情報と現実世界での人やものの動向を組み合わせたサービスなどがあり、徐々に仮想世界と現実世界の境界線は消えつつある。

 大半の人は「Web 2.0の次には何がくるのか」というところで思考が停止していますが、それでは物事を今の延長線上でしか捉えていないということにほかなりません。しかし、実際は今、大きな革命が起きようとしていて、それによってビジネスそのものがどう変化するのかということにおける主張をまとめたのが、サードリアリティというビジョンになります。

 これについて、三木谷は「More than web」という標語を掲げ、すでにビジネスとして実践しようとしていたところに、「この人はすごいな」と感じたわけです。つまり、Web 2.0の次に来るのは「Web 3.0」ではなく、More than webだと私自身感じており、研究所もまさに、これについて研究していきます。

 サードリアリティについての講演は社内、今後は大学など社外でも行っていく予定で、すでに社内では熱いムーブメントになっています。
--すでに楽天やライブドアは「通信と放送の融合」の取り組みなどで、ネットとそれ以外の融合について語っていますが、「融合」ではなく「共生」のレベルまで落とし込んだ具体的なビジョンが分からないと、現実感がないように思えます。

 例えば、世のブロガーたちは今、食事をする際にその食事の写真を撮って、それをブログにアップして価値観をネット上で共有するという行動をしていますよね。昔は現実世界での食事が食体験のすべてでしたが、今はその体験の記録をネットにアップするまでに、食体験のあり方が拡張してきました。

 こうしたことは、仮想と現実をまたがった行動を消費者がすでに行っていることの実例であり、「仮想か現実か」という議論自体が、あまり意味をなさなくなっていることにほかなりません。重要なのことは、「消費者が何をやりたいのか」ということであり、先の例で言えば、食事を楽しみたいという消費者は今、「気づいたら仮想と現実をまたがって行動をしていた」ということなんです。
--つまり、仮想と現実、PCと携帯電話などの今ある価値観や概念の境界線のような障害を取り除き、消費者の望む行動が円滑に行えるようなサービスを開発することが、研究所の主たる目的というわけですか。

 違います。研究所の大きな方針については、今後1~3年など中長期的な視野に立ったサービスの研究をしたり、さらに3年以降の長期的な研究をしている大学などと産官学連携の研究を行うパイプ的な役割をすることです。というのは、研究所は戦略性を持ったものであるべきだと考えており、将来的な技術ビジョンをしっかりと持った上で、そのビジョンの上にマッピングされた研究を行っていくことが重要だからです。

 そのビジョンの1つがサードリアリティであり、ほかにも別のテーマを切り口にした2つのビジョンを私の中では持っており、年内には社内的なビジョンとして策定します。--すでに国内外で評価の高いオープンソースのスクリプト言語「Ruby」をベースとした開発体制を、研究所の発案で導入しました。現時点で研究所における重要な機能として挙げられるものを教えて下さい。

 主に社内での月例講演会などを行っています。研究所が本格的に動き出した2006年10月の翌11月より、Rubyを開発したまつもとゆきひろ氏を招くなど、社外からゲストを招いて定期的に開催しています。

 というのは、技術研究は事業側の人たちに理解されず、先駆的な技術が事業化しづらいという問題があるためです。よくあるのが、研究者の発表内容を事業家の人たちが聞いて、「で、それ何の役に立つの」という光景です。

 私は人的な交流が、研究所の機能として欠かせないものだと認識しています。ですから、講演会もそうですし、小規模な勉強会というのは毎週のようにあります。つまり、事業側の人たちは技術研究のことを理解した上で、事業に結びつくであろう「種」を見つけ出し、研究側の人たちも事業化に結びつくことを前提にした研究を行えるという思想や仕組みを、社内に根ざしていきたいという狙いがあるわけです。

 また、当社では東京大学の米澤明憲教授を技術顧問に迎えており、米澤教授を中心とした社外の人的基盤との交流についても積極的です。技術開発の生産性においては、技術者の創造性が重要になるわけですが、その原動力になるのは人的基盤であると考えています。その創造性を醸成していくのは、人と人とのつながりであるとの信念を、私自身が持っているからです。

 実際、たくさんの研究者にヒアリングしたのですが、人的基盤の重要性を訴える人は多かったです。もっと言うと、ネット以外でも一流の技術を研究している人たちとは積極的に交流することで、さまざまな視点から創造性豊かな発想をしてもらいたいという狙いもあります。
--研究所は何人体制で展開するのですか。

 年内には10人体制になる計画です。
--ヤフーも研究所を立ち上げます。研究者としては、よりアクセス数が多く、データ量も豊富なサイトを活用して研究したいと考えるような気がします。

 今年は技術の楽天として、これまでやってきたことや今後やっていくことなどを、きちんと(外部に向けて)出していきたいと考えています。技術におけるイベント開催やコミュニティ参加などにも積極的に取り組みますし、目指す方向性も明確に打ち出していきます。それによって、おっしゃるような類推とは違う結果を生み出せると思っています。
--楽天のサービスは囲い込みの精神が強いと思っています。今後、技術もサービスもオープンなものが主流になりつつある中で、楽天の根幹にあるように映る囲い込みの精神自体を、変えていかなければならないという課題もあるのではないでしょうか。

 確かに、変えていく必要性のあるところというのは、たくさんあると思います。技術研究所は、そういうものをきちんと変えていくエンジンにしていきたいと思っています。
--それについて三木谷氏はどう考えているという印象を持っていますか。これまでは、囲い込みをするためのポータル(玄関)メディアとして、「打倒ヤフー」を意識し、事業規模の拡大を最優先していた印象を受けますが。

 私と同じ考えだと認識しています。
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