2009-02-23

“切りっぱなし”にしていいんですか?

:::引用:::
筆者はIT業界の記者歴半年足らずの若輩者である。難解な技術用語と格闘する毎日だ。勉強のために,ベテラン記者の取材にお供することも多い。

 このようなとき筆者は,取材相手のお話に集中しながらも,「ところで君はどう思う?」などと突然意見を求められはしないかと緊張している。話についていくだけで精一杯で,とても意見などできない。お恥ずかしい限りではあるが,これが現状だ。

 ところが先日,とある企業の経営層へのインタビューに同行した際に,その発言に意見を言いたくなる場面があった。そのときは時間が限られていたうえ,本題とあまり関係しないことだったので発言は遠慮した。この場を借りて,少しだけ私見を述べさせていただきたい。少しセンシティブな話題なのだが,“新米記者の一意見”として温かい目でお読みいただきたい。

再契約を保証する仕組みを作れないか

 その企業は,100年に一度と言われる不況下で製品の販売減少に苦しみ,多くの派遣・請負社員の契約を打ち切ったという。この文をお読みの皆さんもよくご存じのように,“派遣切り”には数々の批判が出ている。この点について,経営幹部は以下のようなことを語った。

 「派遣社員は何月何日までという雇用契約です。その契約を打ち切ったからといって,一方的に企業が悪いと批判されるのはどうでしょうか。市場経済は契約で成り立っているんですから」

 この意見はもっともではある。そもそも企業への派遣切り批判は一時期よりも下火になったように思う。経済危機がより深刻化しているためだろう。派遣切り批判に対する反論として,「派遣社員に対して,正社員として登用するためのスキルアップ教育を施してきた。結局は本人の問題ではないか」「働き方に対する考えが甘かったのではないか」といった厳しい意見も出ている。

 それでも筆者は話を聞いていて,こんな疑問を抱いた。「本当に派遣社員を“切りっぱなし”でいいのだろうか」。これが筆者が言えなかった意見というか質問である。

 派遣切りをする企業が悪いのか,切られた派遣社員本人が悪いのか,そこを議論しても仕方がない。何しろつい最近まで,派遣という雇用形態は企業と派遣社員の間にWin-Winの関係をもたらしていたのである。企業にとっては雇用リスク無しに人材を確保する最良の手段だった。求職者にとっては雇用リスクと引き換えに高収入が得られる労働手段だった。

 筆者は企業の派遣切りという行為自体についても,いま批判するつもりはない。企業が倒れてしまっては元も子もない。企業の継続に雇用調整が必要な場合は正しい経営判断だと思う。

 ここで筆者が言いたいのは,企業は派遣を切った後のことをもっと考えたほうがいいのではないか,ということだ。たとえば,1年後とか2年後に再契約を保証するような仕組みを作るのはどうだろうか。

 確かに,不況のトンネルをいつ抜けられるのかは分からない。数年後かどうかも全く見えない。5年,10年,あるいはもっと長い期間が必要なのかもしれない。それでも企業として存続する以上,人材は確保しなければならない。特に企業に成長フェーズが再び訪れたときには,即戦力になるような人材の確保が必須になる。そのときに企業はどうするのだろうか。

 今回の不況によって,世間の派遣社員に対する価値観は変わってしまった。派遣に関する再規制があるかもしれない。以前のように派遣社員とWin- Winの関係を築くのは,ちょっとやそっとではできないだろう。だったら,一度は切らざるを得なかった派遣社員との関係を何らかの形で継続する手だてを企業が施しておいたほうが,まだお互いハッピーになれるのではないか。筆者はこう感じるのだ。

 切られた派遣社員にとっても,一定期間のブランクが発生しても元の仕事に戻れるというのはとても意味があると思う。たとえば,筆者は記者になる前に産業機器のテクニカルライターをしていたことがある。同僚には派遣社員も多かった。

 この仕事では装置に関する専門的な知識が求められる。しかし,装置の中には世界に1種類しかないものがあり,身につけた知識はその会社でしか役に立たない。同様の例はほかにも多くあるだろう。

 企業が再契約を保証し,派遣社員がこれまでのキャリアを生かせる仕事に戻れる道筋を示せば,将来再びWin-Winの関係が築けるのではないか。次に経営幹部が派遣に関する発言をしたときに,筆者はぜひこうした意見を述べてみたいと考えている。
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