2009-02-26

変わる中国雇用事情、日系企業成長の鍵とは?:パソナ・笠原氏

:::引用:::
――企業との信頼関係から生まれるアドバイス

  08年1月に施行された「労働契約法」の登場により、大きく変わった中国での雇用事情。また、アメリカの金融危機に端を発した経済的不況が、中国にも及び始めている。そんななか、上海の人材紹介業におけるリーディングカンパニーである『保聖那人才服務(上海)有限公司』は、どのように対応してきたのか。笠原麻衣子董事・総経理に人材戦略について話を聞いた。

――最近の人材紹介業界の動向は?


  中国における人材紹介業界の動向を見ますと、03年から06年にかけて人材紹介会社が急増し、紹介サービスも拡大・充実してきました。日
本からの資本による大手・中堅会社の進出や、中国系オーナー企業、ウェブリクルーティングに特化している会社など、サービス形態も多様化しています。それにともなって業界内の競争も非常に活発になっており、人材紹介会社を利用する企業からは、サービスの質が問われるようになっています。

  実際の人材紹介の面では、近年は大きく2つのトレンドがありました。ひとつは日系企業の国内市場向け事業の拡大や製造業の高度移転にともなう人材需要、たとえば営業や市場リサーチ、研究開発、技術管理といった高度人材の需要です。2つめは、昨年1月から施行された労働契約法や08年会計年度から本格導入された「J-SOX法(金融商品取引法)」に対応するための管理部門強化による専門人材の需要でしょう。これら専門人材ニーズへの対応は紹介業界として今後も注力すべき市場といえます。

――人材に対する日系企業内の変化は?

 
  職位の面で、中国人社員がより高い地位に就くケースが多くなっています。これまで長らく日系企業の現地化が叫ばれていましたが、多くは実態をともなっていませんでした。中国人社員の場合、たとえ肩書きが「部長」でも実際の権限は「課長」レベルといった企業も多かった。しかし、ここ1~2年は肩書きに合った権限と責任を与え、仕事を任せる企業も増えています。

  私は上海に来て6年めになりますが、当時30歳で日系企業に課長としてご紹介し、36歳の現在、部長になっている方がいます。このように社内でキャリアを積むことにより日系企業の発展に貢献している方の姿を目の当たりにしてきました。転職という手段による新たなチャレンジでキャリアを高めていく人が多いのは事実ですが、その一方で、日系企業が取り組んできた育成や評価を含む総合的な人事管理の効果が表れ、社内でステップアップしていく社員の方々も着実に増えています。

  今後の人事管理では、自社の成長スピードや事業展開に併せ、社内育成と外部からの採用をいかにバランスよく調和させていくかが鍵になるのではないでしょうか。

――同業他社との差別化は?


  私どもは日本のパソナ本社との事業提携という形で1997年にいち早く上海に会社を設立し、中国における日系企業向けの人材紹介事業を推進してきました。そのため、どこよりも早い時期から企業に密着したサービスをご提供しております。さらに求職登録者の面でも、人数はもちろん、直接面談による人材の身元・能力判断を厳密に行なっており、サービスクオリティの高さを維持するよう努力しています。それに加え、パソナとしてのグループネットワークによる各支店とのデータ共有も、企業様に合ったよりよい人材をご紹介していくうえでの弊社の強みとなっています。

  これからは都市部以外に周辺の開発区や内陸へ進出される日系企業の皆様にサービスをご提供できるよう、点ではなく面での対応を目指し拠点を整備していきます。パソナでは04年に広州、 07年に北京を開設しました。09年1月には深センに支店を設立し、華南の珠江デルタ一円の日系企業に対し、採用だけでなく労務管理も含めてパソナグループとして香港、深セン、広州の3拠点で強力にサポートする体制を整えます。

  また、人材市場に関する情報提供の一環として、日系企業各社の福利厚生や給与実態調査など、人材採用や人事管理を総合的にサポートする各種サーベイを発行しています。日系企業が今後も中国でさらに発展していくためには、中国の人たちが日系企業でキャリアを積んで力をつけ、日系企業に貢献し共に発展できる人材に育っていただかないといけない。そのための人事管理ツールのひとつとして、日系企業のお客様にこのサーベイをご活用いただき、よい人材を適正な条件で雇用、定着させていくための指標にしていただければと思います。

――これからの会社としての取組みは?

 
  この数ヶ月は、採用の際に慎重に人材を選ぶ企業が多くなっています。その理由のひとつは07年1月に施行された労働契約法により、簡単に社員を解雇することができなくなったため。そしてもうひとつが、08年秋からの金融危機の影響です。これにより中国経済が今後どのように推移していくのかが不透明になってきたため、慎重に採用を進める企業が増えています。

  最近の取組みとしては、難易度の高いご採用案件では、日系企業のお客様から今後の会社の方向性や計画などをおうかがいして、それに対する採用ソリューションをご提案させていただき、お客様とのコミュニケーションを通じた人材紹介を強化しております。具体的には、事業の課題やお困りの点を細かくおうかがいしながら、必要な人物像についてご相談させていただいたり、ご求人条件にピタリと合う人材が見つかりにくい場合、この条件をこのように変えたらどうですか、この職務とこの職務を統合し、こういう配置で採用されたらどうでしょうかといったアドバイスをさせていただいています。それを実行していくためにも、お客様との信頼関係を今後もさらに深めていかなければなりません。

  昨今、グローバル人材市場では、経済変動により優秀な人材が流出する動きも見られます。このような時期こそ、有能な人材を確保し企業としての体力を高めていくチャンスでもあると考えております。

  私どもパソナ上海の業務の基本は、中国にある日系企業の皆様が抱えている悩みを見つけ、それに対する解決のお手伝いをしていくこと。この1~2年は事業拡大や法整備に対応するための部門増設、強化のお手伝いがメインでしたが、これからの日系企業の皆様の課題は、変化する中国事業環境の中でいかに人件費効率を高めるかを念頭に置いた適材適所の人材配置だと認識しています。

  新たな局面を迎えつつある経済、経営環境の中で、私どもパソナとしては、いかに日系企業のニーズに合った人材活用のお手伝いができるかを常に考え、必要なサービスを生み出して行きたい。求職者向け・企業様向けセミナー開催や、最新の雇用動向などの情報発信もその一環でしたが、本年からは世界的な金融危機が経営に与える影響を最小限に抑えるための人事効率化のお手伝いとして、企業様の問題解決ニーズに応じた新たなサービスをご提供する予定です。これらを通じて日系企業の皆様には、私どもを単に人材紹介サービスとしてだけご利用いただくのではなく、中国市場を舞台に発展していくための会社運営の人事パートナーとしてお付き合いいただけるようになれたらと思っています。
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