2009-02-26

企業ばかりか結婚相手も中国移転? 働く女性に広がる“上海人ブーム”

:::引用:::
 2月13日、バレンタインデー前日の金曜日――。中国上海市中心部のオフィスビルでは、花束を持って女性の帰りを待つ男性の姿があちこちで見かけられた。

 証券会社で働く20代の中国人の女性は、「普段は殺風景だが、この日ばかりはロマンティックなムードが漂っていた」という。

 中国のなかでも“恋愛先進地域”として知られる上海では、「バレンタインに男性が女性に花束などのプレゼントを贈るのが当たり前」という習慣がある。それが婚約ともなれば、婚前に男性が家を購入するのが前提条件。結婚後も、共働き家庭では家事や子育てに男性が積極的に参加するケースが圧倒的だという。

 ある日系金融機関で働く中国人(30代・男性)は、「仕事で重要な交渉をするとき、相手が中国系企業の場合はトップの多くが女性。子育てしながら重要ポストに就くことは当たり前」と言い切る。驚くことに、上海では今やこれほど“男女同権”が進んでいるのだ。

 そのような状況もあってか、実は最近、「働き続けながら結婚・出産するなら、相手は上海人」という日本のワーキングウーマンが、目立って増え始めたという。

 実際に、中国人と結婚した日本人女性の感想はどうなのだろうか? 

「洗濯以外の家事は99%、夫がやっている」と言うのは、6年前に上海人と結婚した山崎こずえさん(38歳)だ。

 こずえさんは一橋大学を卒業後、大手金融機関に総合職として入社した。社内では「女性社員は年間150時間以上の残業をつけてはいけない」と言われ、サービス残業を強いられた。一方で男性社員は月2~3万円は給与が多かったため、大きな疑問を抱いたという。

 そんな状況の中で、こずえさんは「結婚や妊娠をすれば退職を余儀なくされるのでは」と感じ始めた。そこで、「出産後に再就職するにはスキルが必要だ」と考え、28歳で会社を退職。中国に留学して、上海の語学学校で中国人向けの日本語教師をしながら、勉強を続けた。

 語学学校では、こずえさんの教室は常に超満員。そのなかに、彼女にアプローチをかける現地の学生は少なくなかった。ある20代半ばの男性は、自宅に遊びに行く口実に「掃除してあげようか」と切り出した。自宅に招くと彼は本当に掃除を始め、3時間ものあいだ掃除を続けた。こずえさんにとって、これは「とても衝撃的だった」という。 結婚前、7歳年下の夫は、こずえさんが「トイレが壊れた」と困った様子を見せると、仕事が終わってすぐに修理に駆けつけてくれた。外出する時も荷物は全て彼が持ってくれる。夫に限らず「現地にはマメでつくしてくれる男性が多い」ということを実感した。

 夫の家族と一緒にレストランで食事をしたときなど、こずえさんが料理を取り分けようとすると、夫は「止めて」とそれを遮ったほどだ。「女性にそんなことをやらせてはダメだ」と、両親に叱られるからである。

 2001年秋頃から交際を始めたこずえさんは、そんな彼に全幅の信頼を寄せるようになり、1年後に結婚。03年7月からは日本に戻り、2人で暮らし始めた。夫は日本で就職し、こずえさんは貿易会社勤務を経て、05年4月にジュエリンズという会社を設立。今や、中国語講師の派遣や翻訳、セミナーなどを幅広く手がけている。

 結婚後も、夫の“気遣いぶり”はいかんなく発揮されている。社長として多忙を極めるこずえさんより、帰宅時間は夫のほうが早いことが多い。夫は、仕事が終わるとまっすぐスーパーに向い、夕食を作ってこずえさんの帰りを待ってくれている。金曜日になると、「週末だから早く帰るよ。一緒にゆっくり食事しよう」と手の込んだ料理を作ってくれるという。
女性に尽くす男性は格好いい!
日本人と上海人の“意識の差”

 2人で食べるご飯だから手が空いているほうが作ればいい、自分たちの子どもなのだから男性が子育てをするのは当然、2人の家なのだから男性が掃除をするのは当たり前――。

 上海人の男性には、こういう意識が根付いているようだ。そして、「女性に尽くす優しい男性が格好いい」という考え方が、根本的に日本人とは違う。「これなら、近い将来子どもができても安心して働ける」と、こずえさんは幸せな毎日を送っている。

 なるほど、依然として「家事や育児は女性の仕事」と考えがちな日本人男性と比べれば、キャリアウーマンが中国人男性に惹かれるのも、無理はなかろう。そのトレンドは、公のデータからも類推できる。

 たとえば、総務省「社会生活基本調査」(06年)によれば、共働き世帯において夫が家事・育児・介護などにかける総平均時間が1日30分なのに対して、妻は4時間15分となっている。日本では家事の負担が女性に偏っているのが現状なのだ。そのため、国立社会保障・人口問題研究所の「第13回出生同行基本調査」によれば、第1子を出産後に就業継続している女性は4人に1人程度。出産を機に退職した女性は約4割で、無業者は約7割にも上るという。このトレンドは、実は1980年代から変わっていない。

 こんな状況だから、日本では未婚率が年々上昇傾向にある。05年の未婚率は25~29歳の男性が71.4%、女性が59.0%に上っており、 30~34歳では同47.1%、同32.0%となっている。その原因には価値観の多様化もあるだろうが、日本企業の働きづらさや、男性の家事参加の少なさも影響しているのではないか。
中国人夫と日本人妻の子供は
20年間で約4倍へと急増中

 一方で、日本の新生児のうち“中国人との間の子”は年々増加している。父親が中国人のケースでは、出生人数が1987年の287人から07年は1140人へと約4倍に、母親が中国人のケースでは、同803人から4271人へと5倍以上にハネ上がっているのだ。

 かつては、「農村に花嫁を」をキャッチフレーズにした国際結婚が主流だったが、今では様相が一変。「男女平等はおろか、女性を第一に考えてくれる上海人の男性がいい」と結婚・出産した女性も多いことだろう。

「ずっと日本にいたら、仕事をしながら結婚、出産、子育てを両立することは難しかっただろう」

 上海人と結婚し、上海市内でコンサルティング会社を経営している金子亜紀子さん(43歳)も、こう振り返る。

 亜紀子さんは早稲田大学を卒業後、「企業のなかで人を育てることに携わりたい」とリクルートに営業職で入社。数年後、中国旅行の際に出会った通訳の男性と交際を始めた。

 ちょうど仕事や将来について自問自答していた時期だったこともあり、亜紀子さんは95年に彼と結婚して会社を辞め、上海に移り住んだ。

 結婚後、夫(49歳)は貿易・製造会社を立ち上げ、亜紀子さん自身も夫を手伝いながら、上海リンク・ビジネスコンサルティングという、中国に進出する日系企業向けコンサルティング会社を起業した。その間、30歳で第1子、35歳で第2子に恵まれた。 亜紀子さんの夫は、平日は深夜0時頃まで働く“やり手”だが、休日や親戚・友人が集まる日などは、夕食を作ってくれる。週末ごとの買い出しや子どもの世話なども嫌な顔一つせずにこなしてくれるのだ。そのため、週末に仕事が入っても、亜紀子さんは安心して出かけられるという。
結婚・育児のインフラ作りが急務
結婚相手は中国人に軍配が挙がる?

 このように、特別区とも言える地域に住む中国人男性の多くが家事や子育てに積極的な理由は、日本人との考え方の違いだけではない。特に上海などでは、「そのようにできる環境」が整っていることが大きいのだ。

 まず第一に、家族からのバックアップが大きい。子どもの面倒は祖父母が積極的に引き受けてくれ、出張などで両親が家をあけるときには親戚まで総動員で泊まりに来てくれる。

 さらに、現地のホワイトカラーにとって、時給10元前後でアーイーさん(お手伝いさん)に家事を任せることもごく一般的。家族や他人の手を借りるのが自然なことなのだ。

 第二に、上海には「子どもに対して大らか」という社会性がある。レストランや店で従業員が子どもの相手をしてくれたり、昔の日本のように近所のお年寄りが面倒を見てくれることも、いたって普通の光景だ。

 そして第三に、上海人は権利意識が強く、法律で母性保護が厳格に守られているため、日本のように妊娠したら退職勧奨されるような“妊娠解雇”が職場で横行することも少ない。「子どものために仕事を調整しても“だから女性は……”と批判するような人はいない」(亜紀子さん)という。

 これほど「働く女性の結婚インフラ」が整っている現地と比べて、日本では女性が「仕事か子どもか」の二者択一を迫られるケースが、まだまだ多いのが実情である。

 前述の「出生動向基本調査」では、独身者の約9割が「いずれ結婚するつもり」と回答している。しかしこのままでは、結婚相手として日本人よりも中国人に軍配を挙げる女性が増えて行く可能性は高いだろう。

 上海のような地域では、夫や社会の支えがあるからこそ、女性が快適なワーク・ライフ・バランスを実現できるのだ。今や世界の工場となった中国には、日本企業がこぞって業務を移転している。今後は、中で働く男性社員が家事や育児に参加できる風土を彼らから学び取らないと、そのうち女性社員の結婚相手までもが中国に“移転”してしまいかねない。

 現在“婚活”中の独身男性サラリーマン諸氏は、うかうかしていられないのである。
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