2008-06-20

中国・四川大地震が襲った新興IT都市・成都

:::引用:::
008年06月20日)

2008年5月12日午後2時28分(北京時間)、中華人民共和国中西部に位置する四川省を襲ったマグニチュード7.8の大地震は、同省一帯に壊滅的な被 害を与えた。なかでも、震源地から約100kmの省都・成都は、新興オフショア拠点として多くの米国企業が関心を寄せている都市であり、今後の被害の広が りが心配されるところである。本稿では、中国・四川大地震による被害状況を伝えたComputerworld米国版のリポートをお届けする。

Steven Schwankert/Patrick Thibodeaul
Computerworld米国版
取材協力:Sumner Lemon/IDG News Serviceシンガポール支局

携帯よりも災害に強かった固定電話とインターネット

画面1:中国のオンライン動画サイト「youku.com」では、四川大地震関連の特設ページが設置されている

 中国国営テレビが5月12日に報じたニュースによると、中国四川省を襲ったマグニチュード(M)7.8の大地震発生直後、固定通信網は影響なく機能したが、省都である成都西部の携帯電話サービスがダウンしたという。

 中国および世界最大の携帯電話事業者である中国移動通信(China Mobile)の上海支社は同日、約2,300の基地局が大地震による停電や通信障害を受けて復旧作業に取り組んでいると中国国営通信の新華社に報告した。

  中国移動通信の携帯サービスに支障が生じたのは四川省南西部と陝西省北西部であった(ちなみにこの2つの地域は隣接していない)。同社の報告によると、地 震の影響によってコール・ボリューム(一定時間内に処理されたコール数)が通常の10倍に膨れ上がり、疎通率は約50%まで低下したという。

  中国のさまざまなオンライン動画サイトには、国営テレビ局である中国中央電視台(CCTV)の夜のニュース番組で映されなかった被災映像が多数寄せられ た。例えば、「成都大地震」と題されたビデオ・クリップでは、天井が崩れかかった教室や学生寮で机の下に身を寄せる学生たちが慌てて飛び出そうとすると、 これを撮影しているカメラマンが「まだ動いてはいけない、大丈夫だから」と声をかける様子が映し出されている。こうした成都の被災状況を伝える数々の映像 からも、地震後もインターネット・サービスには支障がなかったことをうかがい知ることができる(画面1、2)。


画面2:「YouTube」にも多数の関連動画がアップロードされた。なかには閲覧回数が100万を超えるものもある(5月末時点)

半導体メーカーは工場を閉鎖。従業員の安全確保を最優先

 中国で5番目の規模を誇 り、中国南西部最大の学究拠点である成都では、半導体産業と中国政府の注力で急成長を遂げているソフトウェア・アウトソーシング産業が盛んだ。半導体製造 においては、主要拠点とまでは言えないが、米国Intelは2005年から成都で半導体製造を開始しており、同社の組み立て・検査工場には現在600人の 従業員が勤務している。

 Intelシンガポール支社の広報担当、ダニー・チャン(Danny Cheung)氏は、Computerworld米国版に宛てた電子メールの中で、「今回の地震が成都における当社の製造業務にどのような影響を及ぼすか は現在調査中だが、何よりもまず従業員の安全を確保することを先決としている」と記していた。

 ファウンドリー(半導体受託生産会社)大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)も成都で組み立て・検査工場を運営しているが、情報筋によると、SMICは(5月12日時点で)地震の影響により工場を閉鎖し、製造を中止したという。

史上最大級のマグニチュードを記録。犠牲者拡大の懸念も

  四川大地震は5月12日北京時間午後2時28分に発生した。中国地震局は当初地震の規模をM7.6と発表したが、後にM7.8に上方修正した。震源地は成 都から約33マイル(約53キロメートル)北西部の四川省ブン(さんずいに文)川県とされる。CCTVの番組では報道記者が地震発生当時の状況について、 「およそ1分間の揺れのあと、天井の照明器具が落下して、床に設置してある冷水機に直撃した」と伝えた。

  (5月12日時点の)余震についてCCTVは報じていなかったが、米国地質局(USGS)のサイトによれば、現地時間午後8時45分までに少なくとも10 回の余震が観測された。震源地から遠く離れた北京や中国南東部沿岸の浙江省などへの影響は少なかったようだ。北京では、当日の午後2時35分にM3.9の 地震が観測された。

 CCTVが初めて四川大地震の映像を流したのは、現地時間の午後4時23 分で、人々が携帯電話で連絡を取り合っている姿や、自動車が通りを往来する様子、頭から血を流している女性が車に乗り込む姿などが映し出された。CCTV の夜のニュース番組では地震で生じた住居用建物の亀裂部分は放映されたものの、倒壊家屋や、地震による負傷者あるいは死亡者が映されることはなかった。

  M7.8を記録した5月12日の大地震は、1976年7月に北京東部で発生した中国近代史上最大とされる唐山地震とほぼ同じ規模とされており、このときに は20万~70万人以上の犠牲者が出たと言われている。5月28日の時点で死亡が確認された犠牲者数は6万8109人、行方不明者は1万9,851人、負 傷者は36万4,552人に上り、約1,500万人が避難所で生活していると中国政府は伝えている。

メッセンジャーのアイコンで震災被害者への連帯を表現

 インターネットの世界においても、四川大地震の震災被害者を支援する活動が広がった。中国のインターネット・ユーザーは、インスタント・メッセージング(IM)を利用し、震災被害者支援の意思表示を行っている。

画面3:「Rainbow Petition」の表示設定をすると、名前の前に虹のアイコンが表示される

 MSN Chinaは5月13日、被災者との連帯を示すため、「MSNメッセンジャー(Windows Live Messenger)」のハンドルの前に、虹のマークを付加することを呼びかけ始めた(画面3)。

 「Rainbow Petition」(虹の願い)と呼ばれるこの行動は、特定人数のユーザーの動員を目指すものではなく、人々に被害者とその窮状を思い起こさせ、救援活動として現金や物品の寄付を促進することを目的としている。

 中国では最近、国外、特にフランスでの北京オリンピックの聖火リレーに対する妨害への抗議が広がったあとも、オンラインで心情を表現する動きが広がっている。

  例えば、4月中旬には中国のMSNユーザーが、愛国心を示す証としてハンドルにハート・マークを付加し始めた。MSN Chinaによると、ハート・マークのアイコン(バリエーションあり)をハンドルに付加したユーザーは、230万人程度だという。ちなみに、MSN Chinaは、このような活動を組織として支援しているわけではない。

 今回のRainbow Petitionは、ハート・マークのような政治的意味合いはなく、ハート・マークのように急速に拡大してはいないようだ。「Sherry」と名乗るユー ザーは、「Rainbow Petitionを表示させるつもりはない。だれからも頼まれていないし……」と述べ、ハート・マークは使い続けると付け加えた。

  北京に拠点を構え、中国メディアに関するブログ「Danwei.org」を執筆するジェレミー・ゴールドコーン(Jeremy Goldkorn)氏は、「Rainbow Petitionの広がりは、(ハート・マークのような)ナショナリズムが根底にあるとは考えられない」と語った。

  Rainbow Petitionは、MSN Messengerユーザーだけが行っている。中国のIM市場で最も大きなシェアを占めているのはTencentの「QQ」で、MSN MessengerはQQに大きく水を開けられている。2008年第1四半期のQQの登録ユーザー・アカウント数は7億8,340万とされており、中国の インターネット・ユーザー1人につき3つ以上のアカウントを持っている計算になる。QQは、MSN Messengerのような方法によるハンドルへのマークの付加をサポートしていない。

Twitterやブログを介して情報がリアルタイムに飛び交う

 震源地に近い四川省の省都・成都では、地震発生直後から、ミニブログの「Twitter」をはじめ、多数のブログ、企業の電子メールを介して地震関連のニュースが飛び交った。

画面4:Shanghaiistのサイトには、国営新華社通信上海支局のIT部門における地震発生直後の写真が掲載されている

 成都は他の中国主要都市と比べると知名度は若干落ちるものの、 成都市内の経済発展区で盛んなITサービス産業は、現在多くの米国企業が注目するところだ。1906年のサンフランシスコ大地震とほぼ同じ規模であった四 川大地震は、急成長を遂げるこのソフトウェア開発拠点に大きな被害を及ぼした。

 四川大地震とその犠牲者に関するニュースはブログの世界にも広まった。Twitterを通じてリアルタイムで情報を得たというIT分野の著名ブロガー、ロバート・スコーブル(Robert Scoble)氏は、そのときの様子を自身のブログで紹介している。

  世界主要都市のローカル・ブログ・サイトを展開する米国Gothamistの上海版「Shanghaiist」サイトでは、四川大地震関連のビデオ・リン クを提供したり、地震発生当時の様子を分単位で伝えたりしており、地震発生直後の国営新華社通信上海支局のIT部門の写真も掲載している(画面4)。

  米国メリーランド州ロックビルと中国の北京に拠点を置くIT開発企業のSymbio Groupは、成都市のTianfu Software Parkで働く同社エンジニア100人は全員無事だったと伝えた。ただ、市内にある多くの店舗やレストランは閉店したままだという。同社の事業開発担当エ クゼクティブ・ディレクター兼バイスプレジデントを務めるキース・マツナミ(Keith Matsunami)氏から寄せられた(5月12日付けの)電子メールによれば、携帯サービスは停止状態のようだがインターネット接続はおおむね機能して いるという。

「次なるオフショア拠点」として急成長を遂げる成都

  北京にあるSoftek ChinaのCEOで『Source Code China』の著者でもあるシリル・エルシンガー(Cyrill Eltschinger)氏は、成都を「アウトソーシング・サービス拠点として急成長している都市」と評す。同氏は電話インタビューの中で、中国政府は成 都近辺の大学からIT関連専攻の卒業生を積極的に採用し、強固なITサービス基盤作りに取り組んでいると説明した。「毎年レベルの高い優秀な卒業生を生み 出すこの地域は、非常に魅力的だ」(Eltschinger氏)中国内におけるITサービス・プロバイダーとしての現在の成都は、北京や上海といった主要都市に次ぐ存在となっている。

  ただ、中国全体のソフトウェア開発サービス産業は、「今なおインドに大きく水を開けられたままだ」とアウトソーシング・コンサルティングを手がける米国 NeoITのアナリスト、ディーン・デビソン(Dean Davison)氏は指摘する。同氏によると、世界ソフトウェア開発市場の約70%を占めるインドに対し、中国のシェアは10%未満という。

 「中国政府がこの産業の発展に注ぐ力の入れようを見るかぎり、中国はいずれ世界の主要オフショア拠点になるだろうが、事業法、文化、政治などの違いが発展を阻む障壁となるかもしれない」とDavison氏は言い添えている。


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