2008-06-24

読売新聞 大学の取り組み

:::引用:::

 

5大学連携 精鋭獲得狙う

日本人教員の指示を受け、授業で回路を作るマレーシアの学生たち。テキストもすべて日本語だ(セランゴール産業大学で)

 質の高い学生を獲得しようと、日本の大学が海外で活動する。

 マレーシアの首都クアラルンプール郊外にあるセランゴール州立セランゴール産業大学の教室。試験管に入れた液体の色の変化を注視していたマレーシア人学生、モハマド・ハニフさん(19)は、ノートの表に「白」と漢字で書き留めた。ほかの欄には「赤褐色」「緑」の漢字もある。教壇から日本語で指示するのは、日本の大学の日本人講師だ。

 「JADプログラム(日本マレーシア高等教育大学連合プログラム)」。寮に住みながら、3年間現地で日本人教員による授業を受けた後、日本の大学の3年に編入し、日本の学位を得る。分野は電気工学と機械工学限定だ。

 「エンジニアになってトヨタで働きたい」というハニフさんは現地で学んで2年目。日本の大学生顔負けの正確な日本語の文章が書ける。午前7時50分から午後5時までぎっしり詰まった授業で、1年目は1日の半分を日本語の授業に充てたお陰だ。授業では、教員がわざと乱れた文字を板書したり、早口でしゃべったりもする。

 化学、数学、物理など、一般教養的な授業を経て、2、3年目になると、「電気回路理論」「流体工学」など、日本の大学のカリキュラムに基づく科目が並ぶようになる。

 学生は応募者約2000人の中から、マレーシアの全国統一試験での成績、日本人の教授による面接などで選抜された約90人。マレーシア滞在2年目になる芝浦工業大学の水野俊夫教授は「学生の意欲が高いので、授業を詰め込んでも集中力がとぎれない」と驚く。

 日本の大学に入るためのマレーシアでの予備教育のプログラムは、1993年に始まっている。ただ、当初は2年間、日本語などを学び、日本の大学1年に入学させるものだった。現地で3年、日本で2年という新方式は05年から。これだと、留学費用が安く済み、日本に来てから日本語で苦労する心配もない。事前に日本の大学の情報も十分に得られる。

 このプログラムを使って、十数年で約600人が日本に留学しているが、今年度、新方式で教育を受けた75人が初めて、日本の15の大学に編入した。6月11日からは、各大学の担当者がマレーシアを訪れ、来年、編入する学生向けに説明会を開いた。

 15校は、06年3月に「日本国際教育大学連合」を設立した早稲田大学、慶応大学など私立12校と、埼玉大学など国立3校。実際には、幹事校の芝浦工業大学と拓殖大学両校だけが、教授3人を含む教員10人をマレーシアに送り込んでいる。

 日本では近年、留学生を巡る事件や不祥事が社会問題化したことや、大学間の国際競争の激化から、各大学が個々に海外事務所を設け、現地で優秀な学生をリクルートし始めている。そうした中、マレーシアでのプログラムは一貫して、日本政府の円借款事業としてマレーシア政府が行ってきた。学生には奨学金が、教員には給与や滞在費が、マレーシア政府から支給されている。

 事業の期限は14年3月まで。もし、その後に同様の仕組みが出来ないと、現地にいる間から授業料を徴収し、大学側も負担をする必要がある。「現在のアジア諸国の経済水準では、高額な授業料は取れない。参加校を増やして会費をもらうのも限界がある」と「大学連合」の事務局機能を分担しているNPO法人アジアシードの浜野正啓さん。

 「大学連合」は、マレーシアでのノウハウを生かし、他の国でも、共同で海外拠点を設け、海外の大学と連携したいと考えている。だが、留学生を増やすために、費用がかかることは間違いない。(石田浩之、写真も)

 円借款 発展途上国のインフラ整備などのため、日本政府が国際協力銀行を通じて、低利で長期に貸し付ける制度。政府開発援助(ODA)の一種で、有償資金協力とも呼ばれる。累計融資額は4兆2703億円のインドネシアが最多で、中国、インドが続く。マレーシアは9171億円で7番目。

現状12万人 首相「30万人」提唱

 「留学生受け入れ10万人計画」が提唱されたのは1983年。提唱者は当時の中曽根首相だ。留学生数は同年の1万428人から、2007年には11万8498人まで増加した。ただ、ここ数年は12万人前後で推移している。

 福田首相は1月の施政方針演説で、「世界の活力を日本の成長のエネルギーとしていく」として「留学生30万人計画」を提唱した。政府の審議会などでは、これまでに具体策として、〈1〉国内30大学を政府が重点支援〈2〉留学生の国内就職率(現状は3割)を5割に引き上げ〈3〉日本留学に関する情報提供や留学生選抜にも活用できる海外拠点の整備――などが提案されている。

 07年5月現在、出身国・地域別留学生数は、中国が7万1277人で全体の約6割を占めている。韓国(1万7274人)、台湾(4686人)、ベトナム(2582人)と続き、マレーシアは2146人で5位だ。6位タイ(2090人)、7位米国(1805人)となっている。

(2)業界の人材 産学で育成

JALのビジネスプランをまとめるため、議論を引っ張る初さん(左)

 大学と企業がタイアップした取り組みが始まっている。

 壁の白い模造紙には「燃料費増」「高級志向」「女性進出」などと小さな紙がたくさん張ってある。埼玉県新座市にある立教大学観光学部で、土曜1限目に行われている「観光ビジネスプロジェクト」。中国、ベトナム、韓国からの留学生計8人と日本人学生9人が、3グループに分かれて議論を続けていた。

 中国人留学生、初延安さん(23)が中心になったグループのテーマは「女性の社会進出が進むと航空業界ではどんな変化が起きるか」。「取り出した情報から何が想定できるか、もっと深掘りして」と経営コンサルタントで兼任教授の那須一貴さん(42)の声が飛ぶ。

 2週間前には、日本航空(JAL)の中堅社員から同社の中期経営計画について説明を受け、同社を巡る環境について意見を出し合った。グループごとに、JALの新たなビジネスプランを、1年間かけてまとめ、社員の前で提示する。

 学生たちの議論は、この日の授業後も夕方まで続いた。

 同学部では昨年度から、シェラトン系ホテルなどの運営会社スターウッド(米国)、JAL、JTBなどと共同で、日本の観光産業で活躍する人材を育成するプログラムをスタートさせた。日本政府がアジアの懸け橋となる人材を育成するために始めた「アジア人財資金構想」の一環だ。

 JALは「エアラインビジネス論」、JTBは「観光情報論」などを提供、社員がそれぞれ1年間、授業を担当している。JALの職場見学なども行われ、現役社員の声を聞く機会もある。

 「ここでしっかり勉強すれば、就職につながる道が見えるので力も入る」と中国人留学生、沈和さん(23)。

 日本ツーリズム産業団体連合会によると、日本人の海外旅行先と、日本に旅行で来る外国人の出身国はともに7割近くをアジア諸国が占める。日本語が話せ、日本の文化を知っているアジアの人材が日本の観光産業の中で活躍する場はたくさんある。

 濱島孝企画部長は「人口減少社会の日本では、海外からの交流人口を増やして活性化させることが重要。このプログラムの卒業生が日本に観光客を呼び込む役割を担ってもらえれば」と期待する。

 ただ、留学生の卒業後の採用となると、参加企業の間に温度差も見える。

 スターウッドの岩田陽子日本・韓国・グアム地区統括人事部長は「即戦力としてすぐに採用できる人材を」と期待する。一方、JALの河合真吾人財開発センター長は「魅力ある人材を育てられると思うが、優先採用は今のところ考えていない」。参加企業を増やすことについても、企業側から同業他社の参入には消極的な声も上がる。

 留学生を日本での就職にどう結びつけるのか。その点に、このプログラムの真価が問われることになる。(石田浩之、写真も)

 アジア人財資金構想 優秀な留学生を日本に招き、産業界と大学が一体となり、留学生の募集・選抜から専門教育・日本語教育、就職活動支援までの人材育成プログラムを一貫して行う事業。2007年から始まった。名古屋工業大とトヨタ自動車などで自動車産業、立命館大と松下電器産業などでIT産業といった20の共同事業が進行中だ。

(3)海外展開 見据えて採用

宇佐美社長(左)を前に、これまでにまとめた分析を説明する陳さん(東京・渋谷のECナビ本社で)

 ベンチャー企業と留学生をつなぐ取り組みがある。

 慶応大学大学院に留学中の中国の陳実さん(24)は、価格比較サイト運営会社「ECナビ」(従業員180人)でインターンシップ(就学体験)生として働く。チームで競合他社の動向を分析するのが仕事だ。9月から正社員になることが決まった。

 「留学生仲間で、日本のベンチャー企業の話題はほとんどなかった」と陳さん。仲を取り持ったのは、経済産業省関東経済産業局が関東地域のベンチャー企業に参加を呼びかけた「Career Gateway to Asia」だ。留学生フェアや経営者の講演を開き、留学生のインターンシップを進めている。

 ECナビも、この事業で2人の留学生をインターンシップで受け入れた。昨年度、同社の採用試験を受けた約2000人のうち留学生はわずか数人。これまで留学生の採用はゼロだった。昨年、海外に留学している日本人学生を採用しようと米サンフランシスコの留学フェアに出展したが、海外からの留学生には目がいっていなかった。

 しかし、中国への本格進出を考えているだけに「試験を受けに来た人から選んで採るという受け身の採用から、中国でどうビジネスを展開するかに合う人を選ぶ攻めの採用をするいいきっかけになった」と宇佐美進典(しんすけ)社長(35)。陳さんの採用をきっかけに留学生を積極的に採用していく。

 「これまで積み上げてきた目に見えないノウハウを、海外で軌道に乗せるには、両方の文化を分かっている人を教育した方が成功の確率も上がる。留学生は待遇に不満があればすぐ辞めるとも言われるが、我々は仕事のやり方を1、2年で教え、すぐ発揮できる場を提供する。留学生からも選ばれる会社になればいい」

 大々的に留学生を募集するインターネット商社「イー・クラシス」では、今年度の新卒採用者60人のうち留学生が35人を占めた。留学生だけの会社説明会も実施、100人規模で学生が集まった。宮下崇俊社長(34)自身が約130人の留学生を面接、負けん気が強く向上心の強い、社風に合う留学生を採用した。

 新入社員は研修で2週間合宿し、早朝マラソンから穴掘りまで体力の限界に挑む。「社会とはいかに理不尽なことが多いか実感してもらうため」というが、合宿によって「留学生も日本人も関係なく、うちの社員として一体感が出た」。

 留学生の採用増は、やはり事業の海外展開を予定しているからだ。3年前から支店を出す上海では現地採用スタッフを使ってきたが、「本社の社風を身につけた上で送り込んでほしい」という声を受けて、日本で留学生を採用して育成する方法に切り替えた。

 「2年ほどで海外支店のそれなりの立場になってもらう。立場が人を育てることもある」と宮下社長。来年度は50人程度採用する方針だ。

 海外進出を目指すベンチャー企業の留学生争奪戦が始まっている。(石田浩之、写真も)

 日本企業の海外進出 製造業の海外現地法人数をアジア全体で見ると、1995年の4543社が2005年には8319社と急増した。特に中国には3585社で10年前の3倍に増えている。また、海外展開する中小企業は過去10年で4割近く増え、06年に7551社。このうち情報通信やサービス業などの非製造業が54%を占めている。

2008年6月19日 読売新聞)

(4)社員寮に入り 企業知る

三井物産平和台寮の食堂で社員と談笑する謝さん(右から3人目)

 企業の社員寮を、留学生に提供する取り組みがある。

 東京都練馬区の東京メトロ平和台駅から徒歩約10分。三井物産平和台寮は閑静な住宅街にある。立教大学大学院で学ぶ中国人留学生、謝善鵬さん(27)は、この寮で社員に交じって生活している。

 会社から帰った社員3人と食堂で夕飯を食べながら「今就職活動中なんですよ」「へえ、どんな状況?」「なかなか難しいですよ」。そんなやりとりが気軽にできる。寮費は社員と同じで1万円足らず。朝夕付く食事も割安だ。

 謝さんがこの寮に入ったのは2006年。それまでは大学近くで一人暮らしをしていたが、家、大学、バイト先の居酒屋を行き来するだけで、日本人との交流は少なかった。「単に『おはよう』と毎朝あいさつするだけでほっとする」と謝さん。寮対抗のスポーツ大会にも参加し、「家族のような感じになれた」という。

 日本で就職を目指す留学生にとって、社員寮は日本の文化を知る上でも重要だ。謝さんは「この寮の人は、平日朝早くから夜遅くまで働いているのに、休日はしっかり遊びを満喫している」と驚く。「大学やバイト先で見た日本人とは全く違い、日本の会社で働くイメージが膨らんだ」

 留学生への社員寮の提供は、経済同友会が参加企業を募る形で1987年から始まっている。当初は、参加企業も提供部屋数も増えたが、バブル経済の崩壊後、社員寮を売却する動きが目立ち、提供部屋数は98年の838室をピークに減少、07年には592室となっていた。

 ただ、好転の兆しもある。社員寮の賃貸業務を全国規模で展開する「共立メンテナンス」によると、ここ2年で社員寮の契約部屋数は6~7%伸びているという。「社員研修の場として考えているところや、身近に相談出来る相手を置いて離職を防ぐ狙いもあるようだ」と同社の担当者。1棟丸ごとの賃貸契約も増えているという。

 03年に若手の寮制度を廃止した三井物産も3年後には復活させている。部署間のコミュニケーション不足を補い、会社としての一体感を醸成するには必要不可欠だという声が社内で強まったからだ。特に共同の風呂やトイレがある施設を優先的に探し、より寮内での連帯感を強めるよう工夫している。

 現在は8棟で18人の留学生を受け入れている。古東(ことう)誠・給与企画室長は「社員と学生の生活パターンが違うこともあり、そんなに接点が作れているわけではないが、海外赴任が前提の社員にもよい刺激になるはずだ」と前向きにとらえている。

 「グローバル展開が当たり前となってきている日本企業にとって、留学生を受け入れる意義は大きい」と社員寮の活用を進める財団法人「留学生支援企業協力推進協会」の太田篤事務局長。

 社員寮の活用に、もっと知恵を絞りたい。(石田浩之、写真も)

 日本での就職率は上昇傾向 文部科学省によると、2006年度の留学生3万2099人のうち9411人(29.3%)が日本国内で就職した。04年度は2万4961人中5705人(22.9%)で、増加傾向にある。政府の教育再生懇談会は5月の1次報告で、「留学生30万人計画」実現のため、国内就職率の目標を5割にすることを提案した。

(5)専門分野の日本語強化

センターを訪れた元研修生から、テキストの内容について、聞き取り調査をする野畑さん(右)

 大学で必要な能力に特化した日本語教育が進化している。

 「いろいろな」は「様々な」。「だんだん」は「次第に」。「リポート作成」のテキストは、話し言葉から書き言葉への変換が練習問題になっていた。「口頭発表」のテキストでは「一般的には」など、発表でよく使う表現が並ぶ。独立行政法人・国際交流基金が、日本で大学生活を送る留学生向けに2006年に開発したオリジナル教材だ。

 「会話」のテキストでは、教授とのやりとりが中心。「今よろしいですか」「お手伝いしましょうか」など、普通の日本語教育なら、上級レベルの敬語も登場する。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)にバングラデシュを加えた11か国から選ばれた18人が毎年、日本の大学院に進学する前に、この教材を使って、同基金の研修施設、関西国際センター(大阪府田尻町)でゼロから日本語を学ぶ。期間は7か月。文法学習は最低限にとどめ、必要な日本語を最短で学ぶことが目標だ。

 研修生は、食堂や図書館を備えた宿泊棟で生活し、茶道体験や地元の家庭へのホームステイ、京都、奈良、広島への研修旅行など、日本理解を深める行事に参加もできる。

 「リポート作成は、理系と文系を分けて指導した方がいいのでは」。11日、同センターを訪ねると、3人の日本語教育専門員が、指導法について協議していた。日本の大学院に進学した元研修生の声を聞きながら、テキストを日々、刷新している。

 それぞれの研究テーマに合わせた個別指導のため、専門的な語彙(ごい)リスト作りや、研究分野に関する論文の読解指導もする。「カリキュラム作りのために、我々も担当する学生の専門分野の勉強もしている」と日本語教育専門員の1人、野畑理佳さん(36)。

 センターを訪れる元研修生から聞き取り調査もする。三重大学大学院に進んだインドネシア人留学生、ナワウィさん(31)は「授業にしっかりついて行けるし、研究の準備が十分にできる」と絶賛した。

 国際交流基金は、事業の柱の一つに外国人に対する日本語教育を掲げており、関西国際センターは、日本に赴任予定の外交官や公務員、若手研究者らに、それぞれの専門に役立つ日本語を教えてきた。このノウハウを応用し、1996年からは、日本に留学予定の学生に対して、現地での日本語教育を手がけてきた。

 最近では、学内での日本語教育に頭を悩ませる大学から問い合わせが増えている。同基金日本語事業部の嘉数(かかず)勝美部長(57)は「多くの留学生を迎えたい大学には利用価値は高い」とアピールする。

 同基金では、海外での日本語教育拠点の設置も進めており、現地の大学と協定を結ぶなどして、31か国40か所まで増やしてきた。こうした拠点でも、このテキストを使い、日本への留学を考える学生を増やしたいという。

 留学生と大学双方の負担を減らすためにも、短期間に必要な日本語を習得する仕組みは欠かせない。(大広悠子、写真も)

 語学教育拠点 英国のブリティッシュ・カウンシル(113か国213か所=2007年5月現在)やドイツのゲーテ・インスティテュート(83か国147か所=08年1月現在)が目立っている。04年から展開する中国の孔子学院も08年3月現在、69か国238か所と急増している。国際交流基金は、海外の日本語教育拠点を2010年までに100か所以上にする計画だ。

2008年6月21日 読売新聞)

(6)早大 8000人受け入れ戦略

4月に新設された田無寮。斉藤さん(右から2人目)のような学生が留学生との交流などに工夫を凝らす

 私学の雄が戦略的に留学生増を図る。

 キャンパスを見渡せば、様々な人種の学生がすぐに目に付き、日本人学生と留学生が英語で会話する光景が見られる――。これは内田勝一副総長がイメージする早稲田大学の5年後の姿だ。

 昨年5月1日現在での留学生数2435人は、日本の大学でトップに立った。同年10月に迎えた創立125周年を機に今後10年以内の指針を定めた「早稲田ネクスト125」を発表。その中で「留学生の受け入れと、日本人学生の海外への派遣を、それぞれ5年以内をめどに、8000人に増やす」という目標を掲げた。

 早大の狙いは明快だ。「留学生を入れることによって、研究、教育水準を高めること」(内田副総長)。高等教育熱の高まる中国などアジア諸国から、優秀な学生を獲得しようというわけだ。

 そこで必然的に英語での授業に力が入る。すでに1998年に開設した大学院アジア太平洋研究科では、英語による授業だけで修士課程修了に必要な単位が得られる。2004年にできた国際教養学部は、すべての授業を英語で行っている。来年度から理工学部も1年生から英語だけの授業を新設する。

 留学生のための日本語集中講座もある。「アジアで仕事をするなら日本語、英語、中国語が今後50年は中心的な言語となる。留学生にプラスアルファで日本語がついてくると思わせるメリットは大きい」と内田副総長。

 早大では、海外での情報提供や学生のリクルートを担当する海外オフィスの整備も進める。今月には上海オフィスを新設、今年中にニューヨーク、ソウル、台北でも開設し、10か所体制にする。すでに、バンコク、米オレゴン州、北京、シンガポール、独ボン、パリに拠点を持つ。

 留学生が入れる学生寮はすでに13棟(546人収容)、交換留学生専用寮が5棟(442人収容)ある。現在東京・中野の警察大学校跡地に900人収容可能な大型寮を建設中だ。日本人学生と留学生を一緒に生活させ、困った時の相談相手となる「レジデント・アシスタント(RA)」を配置するのが特徴だ。

 4月に新設された西東京市の田無寮には160人の学生が入居する。5階建ての建物には各階に共通台所がある。

 昨年1年間英国の学生寮で過ごした国際教養学部4年斉藤隼人さん(21)は、「海外での楽しい寮経験を日本でも実現させたい」とRAを引き受けた。サッカーに寮生を誘ったり、七夕イベントを企画したりしている。

 韓国人留学生の同学部1年キム・ムンジョンさん(18)は「料理を一緒に作ることなどで友達が増えた。同じ学部の人には授業のことも聞けていい」と評判は上々だ。

 ただ、様々な施策を取っても、8000人という数字は大きい。学部と大学院で4000人ずつ増やすのが目標だが、その実現には、より具体的な数値目標も必要だろう。(石田浩之、写真も)

 英語による授業 文部科学省によると、2006年度に、英語で授業を実施している大学は227校ある。このうち、英語による授業だけで卒業出来る大学には、早大国際教養学部のほか、国際教養大、上智大国際教養学部、立命館アジア太平洋大などがある。また、英語による授業だけで修了出来る大学院は、57校101研究科。

2008年6月24日 読売新聞)


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