2009-03-25

産学連携事業による研究成果発表「高齢者の生活意欲推定のための運動量収集に関する実証実験」――立命館大学

:::引用:::
株式会社ゴビ(京都市下京区)と立命館大学は、産学連携事業による研究成果発表として「高齢者の生活意欲推定のための運動量収集に関する実証実験」を実施した。同研究は、高齢者の日常生活で生じる運動量の推移を測定し、危険な状態及び生活意欲減退の検知を実現するシステムを構築し、その有効性を検証するというもの。
 

1. 共同研究概要

テーマ名: 高齢者の生活意欲推定のための運動量収集に関する実証実験(京都府 平成20年度環境産業等産学公研究開発支援事業)
実証実験等期間: 2008年11月から2009年3月末まで

2. 担当研究者
■株式会社ゴビ
住 所: 600-8813 京都市下京区中堂寺南町134
役 職: 代表取締役
氏 名: 島田幸廣 総括研究代表者(プロジェクトリーダー)
TEL: 075-315-3621        
FAX: 075-315-3653

■立命館大学
所 属: 立命館大学総合理工学院・情報理工学部 情報システム学科
役 職: 教授
氏 名: 島川博光 副総括研究代表者(サブリーダー)
TEL: 077-561-5037        
FAX: 077-561-5037

3.  共同研究に至る背景

 高齢化社会が進む中、子供と離れて生活する高齢者世帯が急増しており、子供や介護者、医師などが生活状況を見守る手段が強く望まれている。これまでに、電気や水道、家電製品などの使用状況から安否を確認したり、センサで転倒や健康状態を検知するなど、主に身体的に危険な状況が発生したことを検知・通報するシステムが開発されているが、精神面の状況をも検知するシステムは実現されていない。大きな病気やけがではなく、老化による衰えや孤独感を日々の生活で感じるといった精神的な要因が積み重なって身体に影響を及ぼし、延いては要介護状態となることも多いが、その状況を把握することは困難であり、高齢化社会において解決すべき重要な課題となっている。

 株式会社ゴビと立命館大学は、電子タグを利用して接触物からユーザの行動の意図を推定する研究を2004年から共同で実施してきた。その研究成果をいろいろな有識者に諮ったところ、高齢者支援に応用することがもっとも有効であろうという意見を多く得た。そこで、接触物のみならず、歩行情報、姿勢情報もセンシングすることで、高齢者の生活に対する意欲を推定する手法を共同で開発している。

4. 産学連携事業の内容と取組目標

(1) 内 容
 日常生活における運動量の推移は、高齢者の状況を示す重要な指標となっている。そこで運動量の推移を測定し、危険な状態および生活意欲減退の検知を実現するシステムを構築して、その有効性を検証する。床に電子タグを敷き詰め、掃除機や照明スイッチなど生活活動で触れる物体にも電子タグを貼付した空間を構築し、被験者には手と足にウェアラブルな電子タグリーダを着けて生活行動をとってもらう。これによって生活行動において触れた物体や移動の履歴が記録でき、そこから運動量を測定する。

(2) 目 標
■第一段階
 高齢者の接触物体や移動の履歴における特性から運動量の推移を測定し、その統計値を計算する手法を確立する。

■第二段階
 得られた運動量の推移の特性から危険な状態を検知する機能を実現する。

■第三段階
 清掃や布団の上げ下げなど、生活上不可欠でなく面倒だと実施しないような活動の実施状況が生活意欲の減退を反映することに着目し、その頻度から生活意欲を推定する機能を実現する。

■第四段階
 実験を通して手法の有効性を示すとともに、実用化に向け、新たに追加するべきセンサやリーダなど装置の最適な形状・装着方法等を探る。
   
5. 本研究の先進性について

 従来の高齢者見守りシステムは、主に身体的に危険な状況が発生したことを検知・通報するシステムであるが、本システムは精神面の状況をも検知する。また、状況の検知にカメラや多くのセンサを用いるシステムが多いが、導入コストや高齢者の心理的負担等を考慮すると、これが実用・普及が進まない原因のひとつと考えられる。

 本システムでは電源不要の電子タグと最小限のセンサに止めることで、より低コストで意識せずに利用できるシステムとする。また、映像コミュニケーションを用いて精神面を支援する手法があるが、コミュニケーションを必要とするタイミングの検知に本システムの手法を用いて実効を高めるなど、本事業で開発・実証する手法は既存の技術やサービスなどと組み合わせて活用することも可能である。

 本システムや本システムの技術を活用したシステムが普及することにより、精神面の状況をも見守るという「介護予防」の観点を取り入れた高齢者見守りサービスの基盤が確立される。このような基盤が確立されれば、危険な老化のサインを早期発見して対処し、高齢者が充実感をもって毎日を過ごせるように、医師、ケアマネージャ、遠隔の家族と相談しながら、自立して生活する手段を策定できる環境を構築することができる。

6. 本研究の市場性について

 高齢者にとっては何気ない日常生活の中にも危険が潜んでおり、従来の見守りシステムは主にこうした家庭内の不慮の事故の検知を主眼として開発されているが、現実にはこうした明確な事象ではなく、精神的な要因から徐々に要介護状態となるケースも多い。厚生労働省は2020年にはすべての都道府県において高齢者世帯の割合が30%を超えると推計しており、要介護者の増加による社会的コストは計り知れない。

 精神面に関しては人的支援によるところが大きいが、介護福祉の業界では人材や施設が不足しており、在宅介護を支援するサービスの必要性が高まっている。在宅介護においては介護者不在時のケアが重要であり、精神面の状況を検知し通報するシステムは非常に有効である。

 また、先進性の項で述べたように、本システムの手法は他のシステムと組み合わせて活用することが可能であり、家庭内の見守りシステムだけでなく医療システムはもちろん、外出時の行動を反映する交通機関やショッピング関連のシステムのデータから、さらに細かく精神面の状況を検知できるようになるなど、さまざまなシステムと連携しながら幅広い分野へと展開していける可能性を有している。

7. 今後の取り組み・本研究の実現可能性について

 本研究でシステムの有効性と実用性を検証し、その結果を広く公開することによってパートナーを増やし、早期事業化を目指す。

 本研究の成果をベースにして初期システムを開発する。初期システムは、高齢者の接触物、歩行情報、姿勢情報から、日常生活における行動をどれほど丁寧に実施しているかを推定できるシステムとする。たとえば、精神力が減退しているときには掃除などの、生活に必須でない行動はぞんざいになりやすい。これらの行動がどれほど丁寧に実施されているかを初期システムは推定する。初期システムは老人ホームや介護施設など、類似した生活空間が多数存在する施設での利用を前提とする。できるだけ生活空間の違いを排した環境でテスト稼動を行うことによって属人的な要素を洗い出すとともに、多数の事例を収集・解析することによって検知アルゴリズムの精度を高めていく。これと並行し、住宅メーカ、住宅機器メーカや警備会社などの協力を得て、一般住宅への導入を踏まえた製品版システムへと発展させる。

 また、本システムを実用化する上では、装着時に違和感のない大きさ、形状の電子タグリーダを実現する必要がある。いくつかの試作品を独自に開発しているが、既製部品の組み合わせでは小型化・省電力化に限界がある上に、姿勢を検知する加速度センサなどさらに有効性を高める部品の追加も想定される。

 製品版開発後、まずは老人ホームや介護施設への販売を進める。本システムの導入により、人手不足のために高齢者の状態を把握しきれないといった問題を軽減することができ、また、一度に多くの利用者にメリットを享受してもらうことができる。さらに、電子タグの検出履歴を蓄積し高齢者の状態を検知するサーバや遠隔で見守るための通信回線などが必要になるが、複数の利用者が一箇所に集合していることでこれらの資源を共有することができるとともに、スケールメリットによって電子タグによる空間構築コストも下げることができる。このように販売を展開しながら、機能・性能の改善はもちろん、一般家庭で導入しやすい価格の実現に向けてコストダウンを図る。

 導入形態としては、既存の施設や家に導入する場合と新規に建てる建物にあらかじめ組み込んでおく場合が考えられるが、後者については住宅メーカの商品として販売し、本システムの普及拡大を目指す。

8. 施策関連性について

 京都府は、高齢化対策の推進を府政の重点課題のひとつに位置づけ、高齢者福祉対策をはじめとした各種の施策を実施している。高齢化に関する課題にはさまざまなものがあるが、中でも老人医療費の増大や要介護者の増加は、喫緊の対策が必要となっている。

 過去の国民生活基礎調査による要介護度のデータの分析結果によると、要支援者への介護保険の予防給付や軽度の要介護者への給付が、必ずしも要介護度の改善につながっていないとされており、その要因の一つとして、高齢者の生活機能や意欲の低下の早期把握と早期対応などがなされていないことを挙げている。軽度の要介護者が重度化するか、心身の機能を回復し自立した生活へと戻るかは大きな違いであり、予防が進めば財政面のメリットはもちろん、高齢者が自立と尊厳を持って住み慣れた地域で生活を継続していけるという大きなメリットを生じる。

 全国的に要介護者が急増し、それに伴って介護保険料が上がり、老人保健施設、特別養護老人ホームの待機者があふれている。こういった問題を根本的に解決するためには、やはり要介護者を増やさないことが肝要である。

 本システムが実用化されることで、高齢者の精神面の状況を把握し早期に対応をとることができるようになり、要介護者の重度化を抑制し、延いては誰もが住み慣れた地域で安心して生活できる社会の実現に寄与できるのではないかと考える。

9. 地域貢献について

 本システムの実現は、地域に対して下記のように貢献することができる。

■直接的
・精神的な要因が積み重なって身体に影響を及ぼし、延いては要介護状態となるといった従来は把握、対応が難しかった状況になってしまうことを抑制し、老後も安心して生活できる地域社会を実現することができる。

■間接的
・老人医療費増大、要介護者増加の抑制
・老人保健施設、老人ホームなど高齢者福祉施設の不足の軽減
・介護福祉士や介護支援専門員、ホームヘルパーといった人材不足の軽減
・自立した元気な老人が増えることによる労働力の確保
・上記労働力を活用した新しいビジネスの創出
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