2009-03-24

急速に冷え込むIT人材市場 求人数が半年で半減

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昨年来の急速な景気悪化は、輸出系企業だけでなく内需中心のITサービスにも影響を及ぼしている。業績が悪化した顧客企業はIT投資抑制に動いており、ITベンダーもそれにあわせて人員を絞り込んでいる。

■求人は過去にないほど急減

 IT業界の厳しい見通しがすでに現れているのが求人市場だ。2009年2月に人材紹介大手のリクルートエージェントに寄せられた「IT通信・インターネット」関連の求人数は、前年同月比58%減の約1万人だった。08年8月までは1年半以上、月間2万人を超えていたが、半年で半減してしまった。

リクルートエージェント調べ

 リクルートエージェントでITサービス関連業界を担当している江川理絵首都圏第一ユニットITクライアントマーケット1グループマネジャーは「これまでも人材市場が冷え込むことはあったが、これほど急激な落ち込みはない。現在来ている求人も、実際には採用されないことも多く、実態はもっと減っている」と話す。

 1―3月は、通常であれば翌年度の受注が見えてきてITベンダーが人材の確保に動く時期だ。しかし今年については「顧客のIT投資意欲が冷え込んでおり、09年度の状況が不透明になっている。それに合わせてITベンダーも採用を控えている」(江川氏)。3月に入っても求人数に底打ち感はなく、減少傾向は続く見込みだという。

 半減したとはいえ、求人はあるにはある。しかし、江川氏は「ITベンダーごとに求める人材が異なり、かなりピンポイントな要求になっている。自社の中で穴になっている部分を埋めてくれる人材は採るが、どんなに優秀でもスキルセットが要望に合わないと採らない」という。要望に合わないと書類選考でほとんどは落とされてしまい、面接にたどりつくこともできない。

 スキルへの要望がピンポイントなだけでなく、「『or経験』ではなく『and経験』を求められる」(江川氏)ともいう。従来であれば、実績面の条件は「AまたはBまたはC」といった求め方だったが、最近は「AもBもCも」とハードルを上げているという。面接してから結果が出るまでの期間もこれまでは2~3日だったが、1週間程度に延びるなど、企業の採用姿勢がかなり慎重になっていることがわかる。

 IT業界はどの分野もおおむね厳しい状況だが、「唯一元気なのがネット関連」(江川氏)だ。100人近い人員増を考えているところもあるという。ただし、ネット業界の求人も以前のように間口が広いものではなくなってきた。業界が成熟し、人事や採用戦略をしっかりと立てるところが増えてきたためだ。

 「ネット企業はマネジメントもプログラミングも何でもできるタイプの人材を求めており、システムインテグレーターからの転身は簡単ではない」(江川氏)という。

 そのほか多少明るい兆しがあるのは、東証の次期システムへの対応をにらんだ証券関係や、大企業が導入しているERP(統合基幹業務ソフト)のリプレース(置き換え)について経験や知識がある人材だ。

 新卒採用についても、今のところ大きく減らす動きは出ていない。日本経済新聞社が主要企業を対象に実施した 2010年春の採用計画調査では、NTTデータが09年比で6人増の550人、野村総合研究所も前年並みの360人を計画している。富士通は前年より 145人少ない440人を予定しているが、半導体や電子デバイス関連の技術職の採用抑制が中心で、システムエンジニアなどの要員は確保していくという。

■厳しい生活を強いられる中国人技術者

 ITサービス業界は、派遣や中小業者が雇用の調整弁となりやすい構造になっている。そのしわ寄せを真っ先に受けてきたのが、中国から日本に来た技術者だ。

 ここ数年の人手不足で、IT各社は中国などでのオフショア開発や中国人技術者の日本への受け入れを増やしてきた。中国人技術者の人材派遣業務に関わっていて、現在日本で働く中国人のWさんは「2005年ごろに一気に人数が増えた」と話す。主には「Java」や「.NET」関連のプログラマーで、システムの設計ができるSEや組み込みソフトの技術者も一部派遣されていた。

 それが、07年末にサブプライムローン問題が表面化し始めたころから頭打ちになり、08年9月のリーマンショック前後からは逆に人減らしに動き始めた。なかには中国からきてわずか1カ月で仕事を失った人もいるという。「プロジェクトのメンバーが丸ごと仕事を切られてしまうこともある」(Wさん)

 失業後は、中華料理店の皿洗いといったバイトなどで食いつないでいる人が多いという。契約解除にまでは至らないが、給与が月5万円程度に減ったという人もいる。会社に行っても仕事はない状態で、午前中に出社して日本語の勉強をし、午後2、3時には帰宅するような生活だという。

 中国人技術者の中には帰国する人もいるが、それは一部でしかない。Wさんが派遣に関わった50人のうち帰国した人は5人だけだという。なぜ、そうまでして、日本で働き続けようとするのか。

 1つは、中国に戻っても必ずしも仕事があるわけではないからだ。中国政府は景気対策としてIT投資の促進などを掲げているが、中国国内も雇用環境は厳しく、スキルが相当に高くなければ、採用されるのは難しい。2つ目の理由としてWさんが挙げるのが「マンションを買うため」だという。

 中国では最近、「男性がマンションを持っていることが結婚の必須条件になっている」(Wさん)という。しかし、例えば中国北東部の大連市で60平方メートルのマンションを買おうとすると、48万元(約720万円)は必要になる。

 中国では2年以上の経験があるエンジニアでも月収3000~4000元(4万3000~5万7000円)程度。一方、日本で契約社員として働けば、手取りで少なくとも月二十数万円にはなる。1年前までの人材不足の状況下では月収40万円ということもざらだったという。

■09年はマイナス成長

 IDCジャパンが2月に発表した市場予測によると、09年の国内IT市場は12兆3788億円で前年比1.7%減少する見通しだ。08年9月時点から3000億円近く下方修正している。また09年度のIT投資について企業のCIOに聞いた調査では、62%が前年度に比べて投資を減らすと答えている。

 業種別では自動車を中心とした製造業が投資を抑制する傾向が強い。トヨタ自動車が急速にIT投資を控えた影響で、同業他社にもその動きが広がったという。少なくとも09年度前半は厳しい状況が続くという見方もある。

 経営者の実感はどうだろうか。日本ユニシスの籾井勝人社長は17日の同社の事業方針説明会で足元の市場動向について「ハードウエアとソフトウエアの落ち方はすごい。ただし、SIは急激に下がるものではない」と話した。

 景気は過去に経験がないほどの勢いで悪化し、IT投資はまっさきにコスト削減対象になっている。景気の底入れが長引けば、マイナス幅がさらに拡大する可能性もありそうだ。
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