2008-12-02

『民族という政治 ベトナム民族分類の歴史と現在』を読んで

:::引用:::
民族問題は、日本にとっても他人事ではない。単に、在日の人々や、アイヌ、沖縄の人々のみならず、移住労働者・移民問題にも関係し、ひいては産業振興にも関連するのである。諸問題を具体的に、ベトナムから提起し得たという意味で、本書は有意義だった。
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 民族問題は、どのような政治体制を目指すのかを問う。例をあげれば、連邦制か共和制か、といった形で立ち現われるのだ。それは如何なる国家を目指すの か、という問いでもある。日本にとっても他人事ではない。単に、在日の人々や、アイヌ、沖縄の人々のみならず、移住労働者・移民問題にも関係し、ひいては 産業振興にも関連するのである。

 民族という言葉を、私達も良く口にする。しかし、民族とは何か、と自問するやいなや、その実態は曖昧模糊としたものになるのではなかろうか。交通機関の発展や、国際交流の活発化によって現在、我々は民族各々の差異を語ることは、比較的容易になった。

 しかしだからといって、民族問題が簡単に片付くものでは無いことは、おのずと明らかであろう。殊に、近代国家が国境を画定し、国家主権を確立した後、それまで比較的自由に移動、交流していた人々の各地域に於ける自由度は、著しく制限されるに至った。

 成立した国家は国境を持ち、一種の「閉鎖系」を自ら作り出したと言える。その「閉鎖系」の中で、マジョリティを占める者達とマイノリティの関係は、差別 者と被差別者になりがちである。だが、差別・被差別を温存する社会は、暴動や反乱を招きやすく、国家として不安定である。

 ましてベトナムのように、長い間、独立の為に戦争状態を強いられてきた地域にあって、国民として、マジョリティとマイノリティが協力・協調しあうことは、焦眉の急であった。

 20世紀後半のベトナムのような状況では、政治的判断を優先させてあらゆる民族の平等を提唱し、その政策を推進することでマイノリティの国家帰属意識を高め、共通の価値観を持たせて、目前の戦争を戦い抜くことが必要だったのである。

 これらの施策を実際に運用してゆく為には、その前提として、誰がマイノリティでどのような状態にあるのかが、しっかり把握されていなければならない。更 にはマジョリティより貧困層が多く、また、識字率なども低いことが多いマイノリティを如何に援助し、彼ら自身の生活程度、教育レベルをかさ上げするかにつ いても具体的な支援が必要とされた。

 ベトナム政府は、補助金や教育施設への優先的入学などの優遇措置を取る。しかし、これらのことが各自治体レベルでの補助金分捕り合戦などに利用され、利害関係が複雑に絡み合って、民族問題をますます複雑なものにしてしまった。

 更に、国定民族を定めた時の判断が誤っていたり、不適切であったことなどが絡み合って、民族問題が国家を分裂させる危機に繋がることも懸念されるのである。更に悪いことには、少数民族を反国家勢力にして利用しようとする外国勢力にも、気をつけなければならない。

 諸問題を具体的に、ベトナムの歴史と現在から提起し得たという意味で、本書は有意義だった。

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