2008-09-12

日雇い派遣禁止の行方

:::引用:::
四面楚歌”厚労省改正案 企業圧迫、官製不況の懸念も

 日雇い派遣の原則禁止を目玉にした労働者派遣法改正論議が大詰めを迎えている。厚生労働省は法改正に向けて作業を進めているが、労働側の一部からは「拙 速な改正よりも議論し直した方がよい」(派遣労働ネットワーク)との指摘も出る一方で、経済界からは「日雇い派遣の原則禁止は中小企業への影響が大き い」(日本商工会議所)との反対論も根強い。違法派遣の続発や低賃金、劣悪な労働環境などをきっかけに見直しに入った同法改正の実現は、政治状況もからめ て不透明さを増している。(財川典男)

 ≪“名ばかり”批判≫

 舛添要一厚労相は「どこで解散になるか分からないが、派遣法改正案は臨時国会での審議を目標に法案を詰める」と言明。厚労省の担当者も「法改正に向けた作業を粛々と進めるだけ」という。

 厚労省が示した改正案の骨子は(1)30日以内の日雇い派遣を原則禁止し、労働者保護に問題がない業務に限定して認める(2)登録型派遣は常用雇用化促進(3)派遣労働者の教育訓練と就業機会確保の努力義務-などだ。

 なかでも、最大の争点となっている日雇い派遣については原則禁止とし、許可する業種は通訳・翻訳・速記、ソフトウエア開発、事務用機器操作など 専門性の高い26業務を中心に指定する方向で詰めの作業に入っている。だが、この改正案については各方面から反対の声が挙がっている。

 労働者派遣の雇用問題に取り組むNPO法人(特定非営利活動法人)「派遣労働ネットワーク」(派遣ネット)の中野麻美理事長は、「改正案は30 日以上の契約ならば日々派遣が可能。これでは禁止したことにならない」と憤慨する。改正案では、派遣元が30日以上の雇用契約を派遣労働者と結び、日々異 なる派遣先に派遣することが可能だからだ。派遣社員の労働組合である派遣ユニオンの関根秀一郎書記長も「派遣労働者保護につながらない“名ばかり改正”」 とあきれる。

 経済界でも、経済同友会は「日雇い派遣を禁止すれば雇用機会が失われる人が出る。危険を伴う業務への安全衛生教育強化や、そうした業務への日雇 い派遣禁止に限定するべきだ」と、原則禁止は必要ないと主張。低所得で不安定な雇用形態の改善には、「常用雇用への転換を助ける公的制度導入、失業保険や 健康保険など既存のセーフティーネットを日雇い派遣労働者が利用できるようにする」ことで解決でき、単なる日雇い派遣の禁止では解決できないとする。

 日雇い派遣を利用する機会が多い中小企業の全国団体である全国中小企業団体中央会は、会員団体にヒアリング調査を実施。市川隆治専務理事は「製 造業では電子機器、製本。サービス業では引っ越しなど運輸、倉庫、ディスプレー、イベント業が多い。日雇い派遣を禁止するならば短期労働力を集める日雇い 派遣を代替する仕組みを作ってほしい」とし、すでに日雇い需要が定着している実態を話す。

 厚労省の改正案は両者の主張を取り入れた折衷案ともいえるが、それでも“四面楚歌(そか)”の状態だ。

 ≪生みの苦しみ≫

 日商の佐藤健志産業政策部副部長は、「全部を日雇い派遣として認めてほしいという意味ではない。30日以内の派遣契約も日雇い派遣として禁止に なると、専門性の高い26業種以外でも、国家資格のある理容師・美容師、福祉・医療サービスや運輸業、倉庫業、製造業、農業・水産加工業など多岐にわたる 業種に影響が出る」と指摘する。

 日雇い派遣を禁止しても、そうした仕事のニーズはなくならない。厚労省が昨年6月中旬から7月末にかけて実施した日雇い派遣労働者へのアンケー トでも、45・7%が「現在のままが良い」と回答している。日雇い派遣の全面禁止は、こうした労働者の就業機会の減少につながり、救済措置も必要だ。

 1986年の施行以来、規制緩和の一方で進んできた派遣法は、初めての規制強化で“産みの苦しみ”を味わっている。もし原則禁止となれば、企業のコスト高にもつながりかねず、新たな“官製不況”の種ともなりかねない。

 政局が解散・総選挙ムードのため臨時国会で審議するのは難しい状況もあり、派遣法改正の実現はまだ波乱含みだ。

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 ■登録型にも波及? 市場縮小は不可避

 パソナグループやテンプスタッフなど人材派遣大手各社は、労働者派遣法改正を控えてユーザー企業を対象にした事業への理解促進活動を始めた。パ ソナグループは4月に「派遣コンプライアンス相談室」を設置。全国でセミナーなどを開催し、各企業を法務担当者が巡回する態勢にした。テンプスタッフも7 月から派遣活用の公開セミナーを隔月に開催している。両社とも派遣法改正の方向性などについて、企業の理解を深める内容にしている。

 厚労省が昨年暮れから開催してきた有識者会議の報告書では、派遣会社に登録し、契約期間だけ派遣元と雇用契約を結ぶという一般的な形態の登録型派遣について「禁止は不適当」と結論付けた。厚労省が示した改正案もそれを踏襲している。

 ただ、日雇い派遣の原則禁止だけでなく、派遣ネットは「登録型派遣は99年改正以前の専門性の高い26業務に限定するべきだ」と主張。同ネットは民主党など野党4党に共同で派遣法改正案を作成し、国会に提出するよう働きかけている。

 野党案が可決されるかどうかは国会情勢次第だが、日雇い派遣だけでなく、登録型派遣全体に業務制限が導入されると、産業界への影響は大きい。派 遣業者は「法律が改正されたら、その法律にのっとってビジネスを展開するだけ」(増山浩史フジスタッフホールディングス社長)というが、全国で4万社以上 に成長してきた人材派遣業が、規制が強化されれば市場が縮小することは間違いない。
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