2008-09-30

第3回 学生諸君、「就活としての勉強会」に参加せよ

:::引用:::
先日、「エンジニアの未来サミット」というイベントに、パネリストとして参加した。

 そもそものきっかけは、『「10年は泥のように働け」「無理です」――今年も学生と経営者が討論』という記事だ。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が開催した討論会で西垣浩司理事長の言葉にかみついた形の記事。IT産業で働くとはどのようなことなのか、考えるきっかけになる。

 本連載「初めての勉強会」では、技術者としてどのようにサバイブしていくか、その手段として、「勉強会」をどのように利用し尽くすのかということをテーマの1つとしている。

 上記のようなイベントも、どのように技術者としてキャリアアップしていくか、どのようにサバイブするかという観点からの議論を含むので、あながち無関係というわけでもない。

 今回は、勉強会の参加・開催という本来の連載の趣旨とはちょっと離れて、技術者としてサバイブするためにどのように勉強会を利用し尽くすのかを、「学生の視点」から考えてみることにする。

学生だって勉強会へ行こう

 今回のようなテーマを書く直接的なきっかけは、上記のイベントに参加して、ギークのおじさんたちが勝手なことを話しまくり、学生の言葉を十分聞けなかった、という反省点からきている。

 ここでは、就職活動をしている学生向けに、勉強会をどのように利用するのかを個別具体的に説明する。

  就職活動時は、情報が必要だ。だが、組織と個人という軸で考えた場合、情報の非対称性、すなわち、必要な情報の量や質はどうしても組織の中に蓄積される傾 向にある。個人で入手できる情報には限りがある。まして社会人経験のない学生にとっては、何が必要な情報なのか、どのようにして必要な情報を入手するの か、その方法論すら十分明らかになっているとはいえない。

 自ら積極的に「エンジニアの未来サミット」やIPAの イベントに参加するような学生は、どのような情報が必要か自ら気付き、情報入手の必要性を理解し、実践しているのだから、問題はない。しかし、そうではな い普通の学生には、就職活動時にどんな情報が必要で、どのようにして入手すればよいかは分からないだろう。

 そこで今回は、IT業界へ就職を希望している学生向けに「初めての勉強会」を考えてみた。題して「就活(就職活動)としての勉強会」だ。

就活メソッド

  OB/OG訪問で入社2~3年目の先輩を訪ね、お話を聞くというのが定番の就活メソッドである。企業説明会やWebなどのフォーマルな情報と違って、先輩 から話を直接聞けるというのは大きなメリットだ。しかし、OB/OGといっても、会社から「あまり業務に踏み込んだ話をしないように」「ネガティブな話題 はしないように」などとくぎを刺され、いかにその会社が素晴らしいかを売り込んでこい、といわれている可能性がある。

 サークルの先輩後輩であれば、学生時代から人となりをよく知っているので、「本音と建前だな」というのも分かる。しかし、ほとんど知りもしない先輩であると、その話のリアリティをどう評価するか、難しい部分がある。

 実際問題、入社2~3年の社員が会社全体の仕組みをどのくらい理解しているか、会社の上司がどのような仕事をしているのか、厳密に理解しているだろうか。心もとない部分がある。

 そこで勉強会である。

 勉強会は就活のためにあるのではない。何かを学びたい人が、学びたい項目について、自らの時間とエネルギーを割いて、自主的に集まって勉強する、そんな場である。普通はなかなか会えない人々がいる場である。

学生が勉強会に参加するメリット

 学生にとって、勉強会に参加するメリットとは何か。

  もちろん、勉強会には、対象としているテーマについて学べる、という直接的なメリットがある。しかしそれ以上に重要なことは、その問題についてのエキス パートと知り合いになれることや、さまざまな社会人、例えば経験豊富なベテラン中のベテランにも、社会に出て2~3年の若者にも、もちろん初心者にも、出 会うきっかけが得られることだ。

 OB/OG訪問だけではなかなか出会うことができない、幅広い層の社会人と知り合いになれるのである。このメリットについて学生はもっと意識した方がいいと思う。

  社会に出て働くとはどういうことなのか。会社で仕事をするというのはどういうことなのか。技術はどのように使い、どのような問題があるのか。なぜ勉強会に 参加するのか。なぜ勉強を続けるのか。多様な観点からさまざまなことが学べる。これは就活で得られる経験以上のなにがしかを、学生であるあなたに与えてく れるはずだ。すでに内定を得た人でも、そうでない人でも、勉強会に参加する価値はある。

 そして、勉強会での出会いをきっかけに、ひょっとしたらアルバイトやインターンの口を得るかもしれない。それが縁で就職が決まるかもしれない。

 そのような機会が勉強会には満ちているのである。

主催者・参加者にとって学生が参加するメリット

 勉強会も長いこと続けていくと、だんだんマンネリになる。参加者も固定化してくる。そうすると参加者のモチベーションも下がり気味になる。コミュニティとしての勉強会の平均年齢も少しずつ上がってくる。

 こんなとき、学生が参加すればどうなるか。初心者の参加により、勉強会本来の目的である「当該の話題について勉強をする」という原点に戻れるし、活性化にもつながる。ひょっとしたら、参加者の所属する企業で、必要としている人材が確保できるかもしれない。

 人材確保という観点からいえば、勉強会に参加するような学生であるから、その時点ではるかに積極性があると評価できるし、向上意欲が高いと見ることもできる。目的意識も高いであろう。人となりも勉強会での態度で大体分かるし、マッチングの機会としても悪くない。

 ただし、主催者側は意識して学生をリクルートしないと、なかなか彼らのアンテナに引っ掛からない。なんらかの仕組み作りを考えないといけない。

 勉強会を活性化するためには、適度な新陳代謝が必要である。そのために、意識して初参加の人をリクルートする必要がある。参加のハードルを下げるために、「学生さん大歓迎」というスタンスを取ることは、主催者にとってもメリットがある。


学生のうちに、企業の本音を見ておく

 このように、主催者・参加者・学生、すべてのプレーヤーにとって、「学生が勉強会に参加する」ことのメリットは存在するのである。

  就職して2~3年くらいの若手は、後輩に「学生時代は遊んでおけよ、海外旅行でもしておけよ」なんてアドバイスをする。しかし、勉強会に来ている30歳前 後の社会人、あるいは企業の中堅でバリバリ仕事をこなしている社会人は、学生時代にもっと勉強しておけばよかった、語学もちゃんとやっておけばよかった、 こういう勉強会が学生時代にあれば参加したかった、などという(あくまで、わたしの実感だが)。

 30歳前後の中堅の技術者の 話を信じるとするならば、学生時代に勉強会に積極的に参加して、いろいろな会社の人と知り合いになることは、メリットこそあれデメリットはほとんどないこ となのではないか。これほどローリスクな社会勉強はないのではないかと思う。就活としての勉強会参加メソッドを、ぜひ試してみてほしい。

 さらにいえば、学生であるメリットを十二分に生かし、プログラマとしてアルバイトをするというのも、一歩進んで社会を知ることになる。

  世の中には、いい会社もあればブラックな会社もある。アルバイトのいいところは、その実情を自分の経験として得られることである。アルバイトは就職してか らではできないので、いろいろな会社で、それこそ小さな会社から大きな会社まで、働いてみることは絶対に無駄ではないと思う。

 うわべだけの建前論ではない、企業の本音の姿が垣間見られるだろう。

参加すべき勉強会の見つけ方

 学生にとって、IT系の勉強会をどうやって発見すればいいのだろう。ITといっても、

  1. 基盤系技術(OSやコンパイラ、RDBMSなど)

  2. エンタープライズ系(企業の情報システムなど)

  3. ミッションクリティカル系(勘定系や、電力送電網などの社会基盤系)

  4. Webサービス系(Web 2.0?)

  5. 組み込み系(いろいろ)

など、いろいろある。

 自分が興味を持っている領域についての勉強会を選べば、その業界の専門家が参加している可能性は高い。とはいうものの、Linuxの勉強会に行ったからといって、仕事でLinuxを開発している人と必ず会えるというわけではないが。

 勉強会参加の方法については、本連載の第1回から目を通してほしい。

 あまり難しく考えずに、「IT勉強会カレンダー」 でも眺めながら、自分の興味とスケジュールに合う勉強会を見つけよう。主催者に、学生でも参加が可能かどうか聞いてみよう。通常、学生の参加は上述したと おり、主催者にとっても大歓迎のはずなので、特に問題はないと思う。その際、自分は初心者で専門的な事は分からないかもしれない、などと簡単な自己紹介を 付加しておくといいかもしれない。

勉強会当日

 課題の参考書があるのであれば、購入し、予習をしておく。勉強会によってはポジションペーパーを書くことが要求される場合もあるが、あまり固く考えることはない。主催者に詳細を問い合わせよう。特にそのようなものがない場合は、肩の力を抜いて参加しよう。

  学生の場合、名刺を持っていないことが多いが、プリンタで自作した名刺などを持っていくと自己紹介のきっかけになる。初対面の人と会うので緊張するかもし れないが、何事も経験である。大きめな文字で書いた名札を持参し、首から下げたり、自作の名刺を持っていって、初対面の人と名刺交換をしたりしよう。

 「ごあいさつをさせてください」といいながら、自分の名刺を相手に見えるように渡す。社会人であれば名刺をくれるので、元気よく「××です」と名前をいう。

 自分が学生であることをアピールしよう。話のきっかけになる。

 勉強会の席では可能な限り積極的に質問をする。あまりにもチンプンカンプンであって、どんな質問をしていいのかすら考えつかない、という人もいるだろう。だが、恐れることはない。

 君にも質問はできる。例えば、「わたしはこの分野にまったく詳しくない素人なのですが、お薦めの参考書や入門書があったら教えてください」というのはどうだろう。

 専門家が選んでくれるものは定番の教科書だ。素人が書店の本棚で、どれを読んでいいのか目まいを覚えながら立ちつくす必要はない。専門家に教えてもらうのが一番だ。

 次回までに、薦められた参考書を読んでおく。疑問点、分かったこと、分からなかったことなどを、また専門家に聞いてみよう。話がどんどんふくらむ。

 勉強会では質問するのが鉄則である。最低1回は質問をするように心掛けよう。

懇親会

 勉強会によっては懇親会がつく。アルコール付きの場合、未成年は参加できない。これは仕方ない。主催者に相談してみるのも手だと思うが、ケースバイケースだ。

  歓談の機会があれば積極的に参加しよう。参加者の人となりを知る機会にもなる。いくつかの質問も用意しておくといい。メタな質問として、「なぜこの勉強会 を始めたのか」「勉強会を開催していて良かったこと、悪かったこと」「失敗談、成功談」などもいいだろう。失敗談や苦労話に真実が宿るので、ぜひ聞きたい ところである。

ブログに感想を書く

 本連載でも何度か強調しているが、勉強会は帰宅後、ブログなどにまとめることによって完結する。名刺交換をした人にはお礼メールを書こう。その際に、感想を書いたブログのURLなどを記しておくと、いろいろなフィードバックがくるかもしれない。

  ブログに記すことによって、勉強したことの復習や、理解の整理になる。また、十分理解していないこと、誤解していることなども明らかになる。仮に間違った 理解をしていたとしても、ブログに記すことによって、勉強会の参加者や有識者から突っ込みや指摘が入るかもしれない。いずれにせよ、ブログを書くことは自 分にとってメリットが大きいので、欠かさないようにしたい。

 いろいろな勉強会に参加し、いろいろな人と出会う。勉強できて、人とも出会える。一石二鳥である。学生にとっても、勉強会の参加はとてもメリットのあることである。

まとめ

 就活としての「初めての勉強会」を記してみた。勉強会に積極的に出席することは、IT技術の勉強になるだけではなく、一線で活躍する中堅の技術者と会う機会が得られる。

 漠然と考えていた「就職」というものに対する明確なイメージを、勉強会の参加者は与えてくれる。

 就活としての「初めての勉強会」、ぜひその一歩を踏み出してほしい。

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