サブプライム問題はアメリカ経済が深い危機にあることを明らかにしましたが、この問題が起こる前にアメリカの凋落(ちょうらく)を予見したフランスの歴史家、エマニュエル・トッドの洞察力は恐ろしいものだと思います。
トッドの議論は基本的に世界の政治・経済・社会的な動向を民族の家族構成から説明するものです。アメリカの絶対核家族制度は個人を国家よりも優位に置く考 えにつながりますから、個人が国家の安定をこえて野放図に金融で蓄財することも正しいと、まあ荒っぽくいえばそういう議論になるわけです。
一方、日本は権威主義的家族制度で、世代の継承と時間的連続性を重視します。核家族ではなく、子供が結婚しても親と同居し、祖父母から孫まで3世代同居が基本的な形でした。
これが近代的な経済原則と反するため、戦後日本は核家族制度を無理やり導入しました。小津安二郎が『東京物語』や『麦秋』で描いた家族崩壊の危機は、日本固有の権威主義的家族が核家族の攻勢にあってあげる滅びの悲鳴だったわけです。
そんな状況下、男は家族から目をそむけ、経済活動に邁進(まいしん)しました。分裂する家族をなんとか引きとめてきたのは女だったのです。少年マンガが努力と勝利という経済発展の寓話(ぐうわ)を好んだのに対し、少女マンガの主題は恋愛と〈家族〉でした。かつて『バナナフィッシュ』で一世を風靡(ふうび)した吉田秋生がいま書き継いでいる短編連作『海街diary』は、崩壊してしまった家族をなんとか引き とめる4人姉妹の感動的な物語です。ここに新時代の小津安二郎がいる! と胸をうたれました。(学習院大学教授 中条省平)
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