2008-12-15

金融市場の混乱で見えないベトナムの今後

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 ベトナムの金融市場はインフレや貿易赤字の拡大などを背景に、2008年前半には株価、為替が大幅に下落するなど、ベトナム発の通貨危機を懸念する声が 広がった。しかし、韓国ウォンが一時約10年ぶりの水準まで下落するなど、グローバル金融危機の影響が新興国に飛び火する中、ベトナムの金融市場は危機的 な状況には陥っていない。

 今年9月に起こった「リーマン・ショック」以降、アジアの金融市場の動向を見ると、株価の下落幅(9月12日と11月28日の終値比較)は、ベト ナムは33.9%と主要アジア10カ国・地域の平均値の27.5%を上回ったものの、タイの38.6%やインドの35.1%とあまり変わらず、際立ってベ トナム株が下落しているわけではない。

 他方、同じ期間の為替レートの下落幅を見ると、韓国ウォンは25.8%、インドネシアルピアは22.3%と大幅に低下したのに対し、ベトナムドン の下落幅は2.2%にとどまった。これはそれ以前にドンが大きく下げていたことに加え、ベトナムの中央銀行がクローリング・ペッグ制を厳格に運用したこと が主因である。

 世界の金融市場が大きく混乱する中、ベトナムの金融市場も影響を受けているが、先行してベトナムドンが単独で下落していた時と比べると、むしろ落ち着きを取り戻している。

懸念されたベトナム発の通貨危機はこれまでのところ発生せず

 株価は金融危機の影響が本格化した9月以前の大幅下落の過程で、換金売りがほぼ終了したと推測される。また、為替は変動幅を徐々に拡大すること で、市場の需給に合わせ緩やかなドン安を容認してきた。こうしたことから、市場のベトナム売り圧力は相当部分の調整が済んでいると思われる。

 また、経常赤字の大半は長期性資金である海外からの直接投資(FDI)及び中長期ローンでファイナンスされており、短期間で大量の資本流出が生じ にくい構造であることも通貨危機を誘発しにくい要因と言える。2007年に流入した短期資本は63億2000万ドルと前年の2億8000万ドルから大幅に 増加したものの、FDIと中長期ローンを合計した長期資本は86億ドルと短期資本を上回った。

 2008年に入り、株価が大幅に下落していることから短期資本は流出超に転じた公算が大きいものの、2008年1~10月期のFDI実行額は91 億ドルと既に2007年通年の80億ドルを上回り過去最高を記録しており、長期資本の流入額は短期資本の流出額を上回っていると考えられる。

金融市場の混乱リスクが燻る中、高まる景気減速リスク

ベトナムの 実質GDP成長率

 もっとも、世界の金融市場は不安定な状況が続いており、金融市場の混乱リスクが燻っていることに加え、景気減速リスクも高まっている。実質 GDP(国内総生産)成長率の推移を見ると、2007年10~12月期の前年同期比9.2%をピークに2008年4~6月期は同5.8%まで減速、7~9 月期は同6.5%とやや持ち直したものの低迷が続いている中銀は10月以降4回にわたり合計4%の利下げを実施 、景気を下支えする姿勢を明示している。

 グローバル金融危機の影響を最も大きく受けるのは外需である。ベトナムの輸出先を見ると、日本・米国・EU(欧州連合)の合計シェアが半数を超えてい る。これらの国・地域は2009年の成長率は軒並みマイナス成長が見込まれており、輸出環境は大幅に悪化することだろう。加えて、主力輸出品である原油な ど資源価格が下落していることも逆風となろう。

内需は底堅い3つの要因

 他方、内需は減速するものの底堅い推移が見込まれる。その理由として、

(1)海外からの直接投資実行額は過去最高を記録した2007年の水準を上回るペースでの流入が続いており、2009年にかけても相応の投資が実行されること、

(2)インフレ鈍化や金融緩和効果により消費の失速は回避できること、

(3)12月に政府が公共投資や減税などGDP比1.4%に相当する10億ドル規模の景気刺激策を打ち出しており、財政面からも景気の下支えが期待できること、

 などが挙げられる。外需が減速する中、内需が下支え役となり景気の底割れは回避できると見る。2009年の成長率は6.0%と2007年の8.5%、2008年の6.2%から鈍化するものの、6%台を維持する見込みである。

リスクはインフレ率の高止まりや財政赤字

 ベトナム経済のリスク要因として、以下の3つが考えられる。1つ目は、経常赤字を背景にドン安圧力がかかりやすいことである。世界の金融市場が大きく混乱した場合、足元では小康状態にある金融市場が再び混乱する可能性がある。

 2つ目は、インフレ率の高止まりである。インフレは鈍化傾向にあるものの、2009年1月から最低賃金が外資企業で平均23.7%、地場企業で 30.0%と大幅な引き上げが実施されることから、インフレ率が高止まりする可能性がある。その場合、金融緩和の制約要因となり得る。

 3つ目は、2007年の財政赤字はGDP比5.4%と大きく、大規模な追加景気対策の発動余地が乏しいことである。

 こうした状況下、世界経済が予想以上に減速した場合は、金融・財政両面が制約されることから、難しい舵取りを迫られることになろう。


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