2008-12-09

「アジア30億人市場」をどう攻略するか

:::引用:::
米国発の金融危機がBRICsなど新興国の経済成長に及ぼす影響について話題になっている。中国を含む東アジア・インド・ASEANを中心とした約 30億人の人口を持つアジア地域の消費も一定の打撃を受けると見られている。しかし、この世界の人口の4割以上を占める「アジア30億人市場」は中長期的 に見ると大いに成長が見込まれる。

 一方で、この金融危機に対応するため、欧米系企業が体力回復のためのリストラなどを行っているのとは逆に、日本企業は円高を背景にM&A を進める動きも見られる。野村證券のリーマン・ブラザーズアジア事業買収、キリンビバレッジのオーストラリアの企業買収など積極的に海外企業を取り込む動 きといえる。また、今の円高はアジアなど海外進出するのに非常に良いタイミングとも言える。ユニクロは中国、香港、韓国に続いて2009年春にはシンガ ポールに進出予定だ。

広域アジアという「面」と大都市の「点」でとらえる

 この市場を考えるときに、「面」「線」「点」の3つの複合的な視点が重要だ。中でも、今後グローバル化が進む中で、「面」と「点」の視点が大事だ ろう。「面」とはまさにアジアを広大な市場として地域全体でとらえることだ。AFTA(ASEAN自由貿易地域)では2010年にASEAN6(タイ、シ ンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ブルネイ)の域内関税が基本的に撤廃され、その後後発のベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアを 加えて10カ国の間で2015年には関税が基本的に撤廃され、巨大なアジア市場が完成する予定だ。最近の海外進出の際にアジア全体を比較する動きというの はこうした流れも踏まえてのことだろう。

 「線」は日本企業がこれまでやってきた2国間での進出・取引などの考え方だ。例えば、日中、日印などの間で進出を考えることだ。また、最近、このコラム(関連記事:「中国を追う人口11億人の巨大市場、インド」、「ベトナム進出には中長期的視点が必要」)でも書いているように、その延長にチャイナプラスワンやポストチャイナの動きがあるだろう。

 そして、最後の「点」とは、都市別、エリア別で進出先や攻める市場を考えることだ。トロント大学ビジネススクールのリチャード・フロリダ教授は、 グローバル化が進んだことによって、シリコンバレー、関東圏、パリ、上海、シンガポールなどその恩恵を受けている「メガ地域」が世界に40程度あるとい う。彼は、グローバル化が進むことによってこうしたメガリージョンとそうでない都市の差は拡大していて、「世界はフラット化していない」という興味深い説 を出している。私も、インターネットの普及や世界的な製造サプライチェーンなどによってグローバル化が進んでいるのはその通りだと思うが、必ずしも「フラット化」は進んでおらず、むしろ色々な場面で「凸凹(デコボコ)化」というべき状況が起こっていると思う。このコラムの第1回(「中国ビジネスはグローバル化の試金石」) でもグローバル都市と地方都市との格差が、国内はもとより国際間でも生まれていることを書いた。また、色々な国々の人々が同じ組織で働くようになって、 「凸凹した」価値観の違いを一層意識しながらビジネス活動やビジネスコミュニケーションを進めていく必要も出てきている。

 この現象は、アジアでも基本的に同じだと考えられる。日本の東京と地方の格差がよく話題になるが、それ以上のとてつもない大きな格差がアジアリー ジョンで生まれているのだ。特に中国、インドなどの新興国では、地方都市とグローバル都市の所得や発展の度合いが大きく異なるため、国だけではなく都市や エリア単位で比較する必要がある。国全体の情報だけを見ていると大きく見誤ることになるからだ。

 例えば、アジアでも上海(1845万人)、香港(696万人)、シンガポール(448万人)、ムンバイ(1191万人)など様々な大都市がある。 まずはそうした都市の市場を中心に攻めることが必要だろう。また、各都市にはそれぞれ特色があり、至上の特性も気質も大きく異なることに注意が必要だ。例 えば、上海は中国国内でも外資系企業の進出が多く、販売本社も多い。また、最先端の流行もすぐに取り入れる気質があるため、日本で流行っている商品も受け 入れられやすい傾向にある。一方、世界各国からこのマーケットを狙って自社製品を販売しようとしているため、競争は日本と比較にならないほど激しい。

 次に、香港、シンガポールを見てみよう。この国・地域が面白いのは、この場所自体の所得が拡大していると共に、その市場以外に、近隣の国や都市を 攻略するのに良い立地にあるということだ。つまり、そこから他の国の都市へも広がりが出てくるのだ。また、香港・シンガポールともに初めてアジアに進出す る場合には、インフラの整備状況がよいことや英語が通じるなどの点で安心な場所とも言えるだろう。これまでは、大手メーカーのアジア進出が多かったが、こ れからは中小企業やサービス業などこれまであまり海外進出の経験がない企業が出て行かざるを得ない状況もありえるからだ。

 香港は、大中華圏(グレーターチャイナ)の統括拠点という位置づけだ。1人当たりGDPで見ると、上海の2007年1人当たりGDPは8,949 米ドルに対して香港は約3万米ドルと3倍以上である。実際、中国本土では香港・台湾の音楽、ドラマやテレビ番組が非常に人気であり、そこから日本など海外 の情報を得ていることも多い。また、中国本土から香港に観光や買い物に来る数も年々増えている。2007年に中国本土から香港への観光客は1,549万人 で観光客全体の5割以上を占めている。香港の人口の倍以上もの観光客が年間訪れていることになる。彼らの主な目的は買い物と食事であり、香港で流行ってい るものが大陸に波及するということは十分考えられる。テストマーケットとしての香港の位置づけもあるだろう。

 シンガポールはASEAN・インドを広く見る拠点として多くの外資系企業の地域本社が置かれている。香港が中華圏を中心に見るのに対し、こちらは それ以外のアジアを広く見るのに最適な場所ということになる。実際、フライトで飛ぶにもここから近隣のマレーシア・インドネシア・タイなどは1~3時間で 行け、少し遠めのインドのムンバイまで5時間半で、このエリア全体をカバーするのにちょうどよい立地と言える。また、シンガポールは既にIMFによると 2007年の1人当たりGDPで3万5000ドルを超えて日本を抜いており、アジアでは第1位である。

アジアで注目される「日本ブランド」

 こうした都市が消費市場として伸びている中、日本企業が持つアドバンテージは何か?まず、消費市場としてクローズアップされるようになった背景に は、所得が向上するにつれ、「日本ブランド」や「日本製」が注目されていることがある。値段が割高になっても、アジア人の体や感性に合ったものが欲しいと いうことだ。また、食品では、「日本食」も「安全、安心」をベースとしてブームとなっている。これは、アジアを超えてロシアなど新興国や欧米にも拡大して いる流れだ。また、ファンケルの健康食品が中国人や香港人にも非常に人気があることなどから、「食」が「健康」「美容」「ロハス志向」などとつながってき たと言える。

 香港では、驚くことに日本語カタログのみでアパレル製品やおしゃれ雑貨などの通信販売を行っている日系企業もある。あえて「日本語」にすることで かっこいい、おしゃれという印象を与えるのだそうだ。ここまでくると、日本語自体がブランド化していると言える。しかも、前金払い、返品不可、月1回のみ の配送なのにお客さんが絶えないという。もちろん、それでも質問があることを想定して、顧客対応窓口を設置して、広東語、英語でも受付している。商品も香 港で販売されていない、メイドインジャパンまたはデザインインジャパンのものにこだわっている。

 こうした「日本製」や「日本のデザイン」というのは今や大きなブランド価値を持っている。中には、日本には買い物のために来るというくらい日本の 商品が好きで、ユニクロや無印良品などが自国にあるにもかかわらず、日本でしか売っていないデザインのものを購入していく人もいる。それでも飽きたらず、 わざわざ原宿にあるアパレルショップのオンラインサイトを香港で見て、日本にいる友人経由で送ってもらっているというから驚きである。

 中国本土・香港など漢字圏の場合は日本のウェブサイトを見ても想像がつくだろうが、それ以外のアジア人の場合はそうはいかない。それでも日本製品 が欲しくて色々日本のウェブサイトなどを探したがお目当ての商品にたどりつかなかったという声も聞かれ、日本語サイトしかないために、こうした潜在的な顧 客を失っているケースもあるだろう。このコラムでも何度かグローバル進出の話をしてきたが、進出するのではなく日本から海外向けに日本製製品を販売するこ とを考えることも大事だろう。最近の円高の影響も出てくるだろうが、それでも購入する層は存在すると思われる。


●●コメント●●

0 件のコメント: