2009-01-15

中国は大丈夫か[28]インテルが研究所を作った理由~中国ビジネスの勝ち組

:::引用:::

20倍の難関を勝ち抜いた優秀な頭脳

 インテル、マイクロソフト、IBM、モトローラ…。米国を代表するハイテク企業が最近新たに研究所を設けたのはどこの国か? この問いに答えられる人はめったにいないだろう。

 答えは中国だ。もちろん単に製品を現地化するための拠点ではない。米ハイテク企業は、インターネット、ソフトウエア関連の先端技術の戦略的研究開発拠点として、中国に熱い視線を注いでいるのである。

 なぜ中国なのか――。「そこに世界で最も優秀な頭脳があるからだ」。中国各地にある14の研究開発拠点に450人の研究者を抱える米半導体・通信大手、モトローラのデニス・ロバーソン最高技術責任者の答えは明快だ。

 中国の大学進学率はまだ2.3%だが、人口が12億人。大学生数は約300万人で、実は日本の270万人を上回っている。日本の大学進学率は44%なので、単純比較すると中国の大学生は20倍の難関を勝ち抜いた優秀な頭脳ということになる。

中核メンバーは米国への留学経験者

 シリコンバレーですでに数多くの中国人の研究者や技術者が活躍していることも、ハイテク企業が中国に相次ぎ研究所を設ける背景にある。

 米国に渡った中国人技術者の中には、自らベンチャー企業を起こす人も少なくない。同じく優秀なソフトウエア技術者を輩出しているインド人を合わ せ、IC(集積回路)産業をインディアン・チャイニーズ産業ともじるジョークがあるほど。米企業は中国人のレベルの高さを知り抜いている。

 ネットワーク技術の進歩も、ハイテク企業の中国への研究所設立を後押ししている。ネットを使えば、世界中のどこにいても研究の成果や進捗状況を共有できる。

 従来、シリコンバレーは世界中から多国籍・多人種の優秀な人材が集まることで革新的な技術を生み出してきた。しかし、ネットの普及した今では、 「たとえ何万キロ離れていようと、シリコンバレーと同様に様々なバックグラウンドを持つ優秀な頭脳が、刺激を与え合いながら研究開発できるようになっ た」(インテル中国のジェームズ・ジャレット社長)。だからこそ、米ハイテク企業は中国への研究所開設に熱心なのだ。

 米系研究所の中核メンバーは、米国への留学経験者だ。米国と米企業をよく知っているうえ、現地採用の中国人研究者の良き指導者、相談役になれるからだ。シリコンバレーと中国は通信ネットワークで繋がっているだけでなく、人的ネットワークでも直結しているのである。

2000年には100人程度の研究体制を

インテル

 格好の例がある。1998年12月、インテルが米国、イスラエルに続き、アジア太平洋地域に初めて開設した北京研究所の顔永紅主任研究 員。顔研究員は北京大学と並ぶ理工系で最難関の清華大学で修士号を取得後、米国に留学した。米国では特に音声認識の研究で高く評価され、大学院の準教授に まで上り詰めたところでインテルにスカウトされ、中国に戻って再び研究を始めた。

 現在、40人いるインテルの研究員のほとんどは、顔研究員のような米国留学経験者で、博士号や大学教授などの資格を持つ。「留学組を中核メンバー に据えて、現地の大学から優秀な学生を採用する。2000年には100人程度の研究体制を整えたい」。インテル中国研究センターの容志誠所長は意欲を燃や す。同センターで、インテルはとりわけインターネット、多言語処理、音声認識、半導体用アプリケーションソフトなどの研究開発に力を注いでいる。

ハイテクベンチャーにも積極投資

 優秀な人材を獲得するためインテルがとっている手法は、こんな具合だ

 まず現地の大学とテーマを決めてコンソーシアムを組み、研究テーマに対しインテルが助成金を支払う。そのうえで学生の研究成果を子細にチェック、優秀な人材と分かれば、すぐにスカウトする。

 「インテルの成長の原動力は研究所で生み出される革新的な技術だ。優秀な中国人研究者の力で中国で新たな技術革新を生み出したい」。インテル中国のジャレット社長は期待する。インテルは今後5年の間に5000万ドル(55億円)を中国の研究所に投資する予定だ。

 インテルは同時に、中国のハイテクベンチャーにも積極投資している。1998年から全世界で30億ドル(約3300億円)を設立後間もないベン チャーに投資することを決めたが、すでに中国では株式のオンライン取引会社など6社に投資、実業の世界での頭脳獲得にも余念がない。

世界で3番目の基礎研究所

マイクロソフト

 奇しくも、インテルと時をほぼ同じくして中国に基礎研究所を設けたのが「ウィンテル」のもう1つの雄、マイクロソフトである。

 北京市街北西部にある中関村地区。もともと北京大学、清華大学などの名門大学が集まる文京地区だが、ハイテク業界ではむしろ「中国のシリコンバ レー」としてその名を知られる。通りには何十ものパソコン店が軒を連ね、大勢の学生たちでにぎわう。中国の大手パソコンメーカー「連想」や「北大方正」 も、本社を中関村に構える。

 マイクロソフトは昨年11月、中関村の一角に「中国研究院」を設立した。同社にとっては、米シアトル、英ケンブリッジに続く世界で3番目の基礎研究所である。

 主な研究テーマは、中国語の音声認識や最先端の画像処理など。約50人の研究者のうち、米国などからの帰国組が約10人。中国の大学教授が10人弱。残りの約30人は清華大学など中国トップクラスの大学院の卒業生だ。

 「この研究所が他社の研究所と大きく違うのは、製品開発ではなく、先端的なソフトウエア技術の研究と人材育成に特化していることだ」と、同研究院の李開復院長は話す。

米国人に比べて数学的知識でも勝っている。

 運営方法はかなりユニークだ。研究者の契約期間は5年。海外から帰国した第一線の研究者や大学教授の肩書を持つ研究者が、若手研究者を指導する。 ウィンドウズOS(基本ソフト)などマイクロソフトのソフトウエア製品の開発は一切せず、基礎研究に集中し、成果はすべて公表する。しかも、研究者は契約 期間満了後に原則退職し、新メンバーに席を譲ることになっている。基礎研究に特化し、技術のブレークスルーを生み出せる人材を育てるためにはこのやり方が 最適と考えるからだ。

 「中国人の若手研究者は、米国人に比べてハングリー精神だけでなく、数学的知識でも勝っている。創造性の面でも、米国と変わらない研究環境を与えればすぐに追いつく。彼らに特別な教育プログラムは必要ない」。李院長は言い切る。

 マイクロソフトはこの研究所に、6年間で8000万ドル(約88億円)を投じる。利益に直結しない事業に大金を投じる背景には、人材育成を通じて中国のソフトウエア産業の発展に寄与することで、巨大な潜在市場に懐深く入り込んでしまおうという思惑もある。

12億人の中から選りすぐって採用できる

モトローラ

 一方、すでに中国で大規模な研究開発体制を築き上げたのがモトローラだ。現在中国に14ある研究開発拠点を2002年までに20に拡大、研究者の数も450人から900人へ倍増する。

 次世代携帯電話、ICカードとその読み取り機、車載コンピューター、モバイル端末用のOS…。

 モトローラの研究開発対象は、同社の中核事業の半導体と通信から次世代の先端技術開発まで、極めて広い。なぜモトローラはここまで中国での研究開発に力を入れるのか。

 「アジアの他の国と比較すれば理由はすぐに分かる。12億人もの人口の中から人材を選りすぐって採用できる国は中国だけだ」と、モトローラ中国のライ・ヘイエイ総経理は説明する。

 モトローラは2000年までに5億7000万ドル(約620億円)を中国に追加投資する予定だ。中国で積極的に事業を展開していることは、人材採用にも役立っている。

 「別の欧米企業からも内定をもらいましたが、中国に熱心に投資して、研究開発にも力を入れているモトローラを選びました」。こう話すのは、清華大 学でコンピューターサイエンスの修士号を取得後、1996年にモトローラに入社したプロジェクトマネージャーだ。入社後わずか2年でプロジェクトマネー ジャーに昇進。社費での米国留学話もあるが、「今は仕事が面白いのであえて断っています」と話す。

博士号、修士号を持つ研究員が60人

IBM

 IBMもモトローラと同じく、早い時期に中国に研究所を設立した。95年9月にオープンしたIBM中国研究センターには現在、博士号、修士号を持 つ研究員が60人おり、先端ソフトの研究開発に取り組んでいる。とりわけ力を入れているのは、音声認識のソフトウエアだ。中国語はアルファベットのような 表音文字でなく表意文字の漢字を使うため、同じ発音で別の意味を持つ言葉が多い。

 逆に言えば、中国語の音声認識の技術を確立できれば、それを他の言語に応用するのはたやすい。IBMは従来、同社製パソコンに音声認識ソフトを組 み込むなど、音声認識の技術開発に力を注いできた。だからこそ最難関の中国語へのアプローチで、最先端の技術を獲得したいと考えている。

 IBMの研究センターには、中国で開発し、すでに米国で製品化された技術もある。その名は「ホットビデオ」。

 簡単に説明すると、例えば消費者がビデオを見ているとする。そこへしゃれたスポーツカーが登場。消費者は画面上の車をクリックすればメーカー名か ら車の仕様、値段など詳しい情報を直ちに入手できる、という技術だ。米国では「ホットメディア」という名前で販売されている。「失敗してもいいから、チャ レンジして、革新的な製品を生み出そうという雰囲気から生まれた製品だ」と、葉天正・研究センター長は目を細める。IBMは同研究センターで、航空券の予 約、カタログ販売など、インターネットを利用した電子購買システムの開発にも着手した。

中国人がトップになる日も遠くはない

富士通

 先行する米国勢に対し、日本企業も手をこまぬいているわけではない。

 富士通は97年に日本、米国に次ぐ3番目の研究所を北京に設立した。現在の研究テーマは、携帯電話などの移動体通信と情報検索などだ。まだ10人 程度と規模は小さいものの、修士号や博士号を持つ中国人の研究者を採用して規模を拡大しようとしている。「米国企業との採用競争はますます激しくなってい るが、優秀な人材を確保して研究テーマを広げていきたい」と、蓮尾信也総経理は意気込む。

 研究所の設立は最近だが、富士通の中国におけるソフトウエア開発の歴史は古い。そもそも富士通は89年から中国人のソフトウエア技術者を毎年10 人ほど日本の研究所に受け入れ、1年間の研修プログラムを提供してきた。そこで生まれたつながりをビジネスに生かせないかと考え、93年秋に北京に設立し たのがソフトウエアの開発子会社である。

 設計用ソフトの開発に始まって、製造業や流通業向けのソフトウエア開発へ一歩一歩、事業を拡大。最近は、中国に進出している日系企業や現地企業向 けのパッケージソフトの開発でも実績を上げつつある。98年度の売上高は日本円にして、まだ3億5000万円と少ないものの、純利益は4000万円で順調 に業績を伸ばしている。

 現地社員の管理職も育ってきた。技術推進部の部長とシステム開発センターの副部長を兼任する孫英剛氏はそんな1人だ。

 孫氏は以前勤めていた国営ソフトウエア会社からの研修で日本の富士通に企業留学したが、その後、富士通に転じた。今では100人以上の部下を指揮 する幹部だ。現地企業に積極的に足を運んでは、ソフトウエアを売り込んでもいる。「中国人がトップになる日もそう遠くはない」。富士通中国の武田春仁総経 理の期待は大きい。

事業の拡大に社員教育が間に合わない

NEC

 マイクロソフトの研究所にほど近い中関村の一角に、NECも94年、中国科学院と合弁でソフトウエアの研究開発センターを設立した。従業員は 120人ほどだが、データベースの管理ソフトやシステム運用管理ソフト、インターネット関連など様々なソフトウエアの開発に実績がある。「平均年齢は27 歳と若い技術者が中心だが、個々の能力は高い。それを生かして独自性の高い製品を開発していきたい」。小久保靖世総経理は言う。

 NECはさらにシステム子会社の「日電系統集成」で、中国人のソフトウエア技術者を雇用し、現地企業や自治体向けに情報システムの構築事業を積極 展開している。売上高は日本円にして20億円、従業員は200人ほどだが、現地企業や自治体からの受注が、日系企業向けを含めた全売り上げの6割を占める までに急成長を遂げている。四川省、広東省などの地方政府と情報システム構築の契約を締結、さらに病院向けのパッケージソフトの販売も急拡大している。 「事業の拡大に、社員教育が間に合わないくらいだ」と、角田稔総経理は相好を崩す。

日本企業に対するイメージはあまり良くない

 米国勢に負けじと中国の優秀な頭脳獲得に力を入れる日本企業だが、目の前に立ちはだかるハードルは低くない。北京大学や清華大学の優秀な学生は、日本企業よりもむしろ米国企業を好む傾向があるからだ。

 「学生の日本企業に対するイメージは、はっきり言ってあまり良くない。トップは日本人で、自由がなく若い社員に仕事を任せない。しかも給料が安いという印象がある」。清華大学大学院を卒業し、モトローラの現地法人に勤める社員はこう打ち明ける。

 残念ながら、彼の指摘は大部分で正しい。中国にソフト開発拠点を設けた日本企業の多くは、工場進出と同じ感覚で安い賃金目当てだった。事実、多くの日系ハイテク企業は、米国企業と給与の差が開いていることを認める。

 その結果、人材の獲得競争で、日本企業は劣勢に立たされているのだ。ある日系ソフト開発会社の総経理は、「ヒットしそうな新製品の開発中に、グ ループリーダーから成功報酬を要求された。しかし日本型の賃金体系では対応できず、結局本人が米国企業に転職して開発が頓挫した」と嘆く。

 日本のハイテク企業が中国で成功するには、従来の日本型の仕組みを大幅に見直すことが必要だ。日本人中心の研究開発体制、年功序列の人事・賃金体系のままでは、中国の一流の人材は米国企業に流れてしまう。

(次号に続く)

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