2009-01-29

部課長訪問を行うSEにはどんなプラスがあるか?

:::引用:::
ある中堅SEから「私はお客様の部長や課長の方と話す機会がほとんどありません。どうすればよいでしょうか」という質問を受けた。それに答える意味で“SEの部課長訪問”について筆者の考えを書いてきた。今回がその3回目だ。

 これまでの2回は“部課長訪問のきっかけ作りと部課長訪問のポイント”について述べてきた。その中で「SEが現在取り組んでいるプロジェクトやSEに対 する顧客の部課長の考えや意見を十分把握しているか,また,いかに部課長にプロジェクトに参画してもらうかは極めて重要なことである。とりわけプロジェク ト・マネージャやリーダーにとっては不可避である。それがプロジェクトの進捗や正否を大きく左右するし,顧客の満足度や今後のビジネスにも影響する」と部 課長訪問の重要性を述べ,SEは顧客の部課長を積極的に訪問すべきであるという主旨のことも説明した。

 5~6年前のことだが,筆者はある大手SI企業のプロジェクト・マネージャやリーダークラスを対象に講演したことがある。講演には約 80人の出席があった。そのとき「顧客の部長か課長を積極的に訪問して,プロジェクトの進捗や問題点などの話をしている人は手を挙げてください」と質問し たところ,挙手をされたのは約30%だった。

 筆者が思うに,この数字はあまりにも少なすぎる。プロジェクトに責任を持つSEなら,もっと顧客の部長や課長と積極的に会いプロジェク トの状況などを話し意見を聞くべきだ。そうでなくても顧客の部課長はベンダーのプロジェクト・マネージャやリーダーの率直な意見を直接聞きたいと思ってい るものだ。ぜひSEの方々は顧客の部課長を訪問して話せるようになってほしい。さて,今回はまとめの意味も込めて部課長訪問の効用について読者の方と考え てみたい。

部課長訪問の7つのプラス

 SEが部課長訪問を行うと,顧客の部長や課長に“プロジェクトの状況などを分かってもらえる,プロジェクトに参画してもらえる”など直接的な効用 についてはこれまで再三述べてきた。そのほかにも,部課長訪問には様々なプラスがある。SE自身の仕事のやり方が変わったり,社内の発言力が増したり,ま たSE自身が大きく成長したりする。以下,筆者が特に強調したい7点について具体的に説明する。部課長訪問の経験が乏しいSEの方々の参考になれば幸いで ある。

(1)自分の日頃の仕事振りに自信が持てる

 部課長訪問を行なえるSEは,自分の仕事振りが顧客に評価されていると考えてよい。言い換えれば,日頃顧客と壁を作ったり,「与えられた ことだけやればいいや」などという気持ちで仕事をやっているSEには,部課長訪問は決して出来ない。もちろん,担当者の評判が悪いSEは言うまでもない。 そんなSEは仮に部課長訪問をやってみても,せいぜい1~2回は付き合ってもらえるが長続きはしない。日頃顧客と一体感をもって一つのゴールを目指して仕 事やっているSE,やるべきことをしっかりやっているSE,時には顧客の担当者と口論したり顧客の課長に「こうしないとプロジェクトがうまくいきません」 などときちっと言ったりしているプロらしいSE,そんなしっかりした姿勢で仕事に取り組んでいるSEこそが部課長訪問が出来る。敢えて言えば,SEの部課 長訪問は顧客とSEの信頼の証でもある。部課長訪問をやっているSEは「自分はお客様に信頼されている」と自信を持ってよい。逆にそうでないSEは自分の 仕事のやり方を自己点検してみるのも一策である。

(2)仕事を効率的・効果的に進めることが出来る

 部課長は担当者より権力がある。社内で顔も効く。担当者が出来ないことでも手を打てる。ユーザー部門を動かすことも出来るし,経費の決済 権限などもある。言い換えれば,SEが担当者に頼んだことで,担当者ではできなくても部課長なら出来ることがある。従って,SEは困ったときには部課長を 訪問してそれを頼んでみることだ。するとプロジェクトで助かるケースもままある。仕事がより効率的に進むし,より効果的な仕事ができる。もちろん,ピンチ にも強くなる。SEの中には担当者とばかり仕事をするSEがいるが,一生懸命やるだけが能ではない。

(3)担当者に対して発言力が増す

 プロジェクトをやっていると,いろんな問題が起こる。そんな時に顧客の担当者が「こうやりたい...」と思っても,上司の部課長に言い難 いこともある。それを第三者のSEが代わりに言ってあげると担当者は助かる。SEの株も上がる。また,担当者が素晴らしいことをされたときなどには部課長 に「○○さんはすご腕ですね~。○○さんがいないとプロジェクトがうまくいきません」などと言ってあげると,担当者は悪い気はしない。こんな類のことを SEが行うことで,担当者に対するSEの発言力は増すものだ。なお,担当者はSEが部課長と親しく話している姿を見るだけでも気になるものだ。そんな姿を SEが見せるだけでも,SEに対する担当者の見方も変わる。

(4)顧客でのSEの発言力が増す

 顧客の部課長に「○○SEはうちのことをよく考えてくれている」と分かってもらえると,顧客に対するSEの発言力は増す。筆者が知る限り,そんなSEは 往々に部課長のスタッフ的存在になって自由闊達に仕事をしているものだ。SEが心でいかに顧客のことを思っていても,顧客に分かってもらえないと意味がな い。そのためにも,部課長訪問は重要である。

(5)販売活動に貢献できる

 顧客は,営業担当者に言わないことでもSEには言って下さる。その情報は販売活動をしている営業担当者にとって助かるものだ。その上,信 頼されているSEが競合時などに「このシステムを受注いただければ私が責任持ってやります」などと顧客の部課長に言えば,販売合戦も有利に進む。すると営 業部長や営業担当者は喜ぶ,営業担当者に対する発言力をSEが持てる。

(6)社内の発言力も増す

 顧客の心をつかめばシステム開発もうまくいくし,販売活動にも貢献できる。すると必然的にSEの社内での発言力が増す。いい加減な上司や 営業担当者を“飛ばす”ことさえも可能だ。もちろん,そんなことをやるべきではないが,社内で顧客の利益代表として行動するには,その位の気概をもって仕 事をすることもまた重要である。

(7)マネジメントの勉強にもなる

 顧客の部課長と付き合うと,いろんな仕事観や人生観を学ぶことが出来る。また視野が広がる。政治力も身に付く。分かりやすく説明する力なども身に付く。筆者自身もSE時代に,顧客の部課長から教えられたことは少なくない。今でも多くの方に感謝している。

 以上,SEにとっての部課長訪問の効用をいろいろと述べた。このように部課長訪問をするとSEの仕事のやり方そのものが変わってくる。し かも成長もする。従って,SEの方は最初は冷や汗をかくかもしれないが,プロジェクトをきちっとやるためにも自分の成長のためにも部課長訪問をぜひ積極的 にやってほしい。いろんな顧客で,その経験をすると「顧客とは何か」という普遍的な考え方も身に付き,どんな顧客も怖くなくなるものだ。

 筆者が考えるに,第一線のSEの仕事,とりわけプロジェクト管理はSEの総合力でやる仕事である。プロジェクトをきちっとやるにはIT スキル,アプリケーション力,開発手法やPMBOKなど技術力を身に付けることも重要だが,部課長訪問のような仕事のやり方,立ち回り方を身に付けること も極めて重要である。

 3回にわたって部課長訪問について書いたが,このテーマはITproのアクセスランキング上位にもしばしば登場している。読者の方の関 心が高いように思える。拙書「信頼されるSEの条件」(日経BP社)に,部課長訪問のやり方やSEの実践的な仕事のやり方,その事例などを具体的に書いて いる。

 これで部課長訪問の説明は終える。最後にSEの方に「部課長訪問は,SEがお客様に評価されている証であり,日頃のSEの仕事振りの集 大成である」「別に取って食われるわけではない。恥をかいてもよい」と考えて「裸になって部課長訪問をすることをぜひ勧めたい。明るく仕事ができ自分も成 長するはずだ」と言っておきたい。


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