2009-01-27

これからの不況を勝ち抜くのはオフショア担当者?

:::引用:::
今回は、IT業界におけるオフショア開発にかかわる人材の位置付けについて、日本が担う発注側と、ベトナムや中国が担当する受注側に分けてそれぞれ検証する。(→記事要約へ)

 今回と次回にわたり、IT産業におけるオフショア開発人材の位置付けを、オフショア開発の発注側と受注側の双方から見ていきます。

これからのIT企業に必要な人材とは?

 筆者が2009年の年明けを過ごした場所は、ベトナムのホーチミンでした。

  ベトナムは旧暦を重視するため、以前ハノイで過ごしたときは、何となくいつもどおり過ぎていってしまった感じでした。しかし、ホーチミンは雰囲気が違い、 若者が集まる場所を中心にさまざまなイベントが催され、うるさ過ぎるくらいでした。近代化が進むにつれていろいろな文化が交じりあい、発展していく過程を 目の当たりにしているようです。

 さて、前回の「日本企業にお勧めなのはハノイ、ホーチミンどっち?」では、ベトナムの地域ごとの違い(と中国との違いを少々)に焦点を当てて解説しました。

 他国と日本との違いや、相手国自身のことをより深く知ると、前提条件がそもそも違うことに気付きます。そういった前提条件が、相手と自分のそれぞれの話の中で省略されてしまうと、意見も食い違ってきてしまいます。

 例えば、(社会的影響の小さい)何らかのし好品が「品質が高いこと」「壊れないこと」「細部まで作り込まれていること」など は日本では当たり前のようになっています。しかし、先進国でも途上国でも、ほかの国ではし好品のような非クリティカルなものに完全性を追求することはあま りありません。

 『オフショア開発PRESS』(オフショア開発PRESS編集部、技術評論社刊)からの一節を抜粋しますと、「品 質やパフォーマンスをソフトウェアの価値の1つとするのか、もしくは前提とするのか…(中略)…『意識』を共有しておく必要がある」(19ページ)という 点に表れているように、無意識に「当たり前だから」という理由でオフショア受託側に品質を求めることはできません。

 また、 2008年12月1日に東京で開催されたシンポジウム「オフショア開発フォーラム2008」でも、オフショア発注側である日本、受注側である中国、イン ド、ベトナムのそれぞれの人材のレベルアップが必要であり、また、前述のように相手のことを理解することが必要であるという単純かつ明確なメッセージが出 されました。


 オフショア発注側である日本のIT産業では、海外人材とうまく協業できる人材が重要になっています。それはつまり、企業としてもそのような人材を明確な意識を持って育成していくことが必要であるということです。

 反対に、企業側からの視点ではなく、各現場個人の視点に注目してみるとどうでしょうか?

 これからの各個人は自分がオフショア開発の担当者になることで、自身のテクニカルスキルの成長の停滞や、トラブルになる可能性の高いプロジェクトに放り込まれたという被害者意識に悩む必要はありません。

  なぜなら、前述のような理由で、これからは“海外人材とうまく協業できる人材”が重要になるため、オフショア開発を担当する人材はこれからの日本のIT企 業・IT産業に必要な人材であり、海外人材と協業ができることは“誇るべきスキル”として認知されていくこととなるからです。つまり、スキルアップする チャンスなのです。

もっとオフショア開発スキルが認知されていく

 想像してみてください。

  海外チームに的確な指示を出し、効率的に仕事をしてもらっている自分を。現地のメンバーと技術的な話で盛り上がっている自分を。海外チームのことを把握し ていることから、海外チームの代表のような立場で日本の社内で振る舞う自分を(責任が伴う場合も当然ありますが)。ちょっと格好良いと思いませんか?

 例えば入社4、5年目の同期社員の間でこのような場面が出てくるとします。

Aさん 「俺、最近オフショア開発の担当やっているんだ」

Bさん 「へぇ、そうなんだ。オフショア開発ってなんだか面倒くさそうだよね」

Aさん 「確かにいままでの考え方のままじゃ通用しないところもあるね。苦労も多いよ」

Bさん 「やっぱり?」

Aさん 「だけど、いままでやってきたことが正しい、ということにはならないからね。これがいいきっかけになって、日本側の悪かった部分を見つけることができているから、ずいぶん改善につながった部分があるんだよ」

Bさん 「確かにそれは日本側企業にとってもメリットがあるね」

Aさん  「それに、現地へ出張したときなんか、俺の片言で単語を連発しているだけの英語でも、現地メンバーが一生懸命こちらのいいたいことを分かってくれようとし て聞いてくれるんだ。そうしているうちに、こっちももっと多くのことを伝えたいと思って、英語もちょっと覚えてきたし。だんだん、どうやったら現地のメン バーが楽しく、一緒に良いモノを作っていけるかって考えるようになってきたよ」

Bさん 「マネージャみたいな考え方を持っていて、なんだか成長しているね」

 BさんはAさんと別れた後、思いました。

Bさん  「そういえば最近社員食堂でも外国人を見掛けるようになってきたし、うちのパッケージ製品も英語版を作るっていってたっけ……。いつの間にか国際化の波が そこまでやってきているのかもしれないな……。自分の部署でも、もしかしたらオフショア開発に取り組み始めるかもしれないな。今度Aにもっと詳しく聞いて みよう……」

 Aさんは苦労していることを認めつつも、明らかにオフショア開発でステップアップしています。また知らず知らずのうちにAさんは、Bさんのような周りの人間にも影響を与える存在になっています。

 さらに、日本企業が各社競争力を持って独自パッケージやサービスを持ち、世界展開していく流れが加速する可能性は大いにあります。その際に、オフショア開発によって外国企業、外国人エンジニアとの仕事経験を持つエンジニアの価値は高いです。

 オフショア開発に取り組むことによって、現地のリソースの調達やコスト削減などの直接的メリットを享受していることもさることながら、将来の企業にとっても重要な人材も育っているのです。

 将来的に、国際経営の時代に向けてオフショア開発経験や海外出張・駐在経験が、部門長や幹部社員の登用の際の判断基準の1つになる日がくるかもしれません。今後はスキルとしての体系化や認定としても整備されていくことでしょう。

 ベトナムにも進出し、2007年と2008年にベストベンチャー100に選ばれているソフト開発会社である株式会社ヘッドウォータース代表の篠田庸介氏は、次のようにいいます。

「オ フショア開発に取り組む最大の目的を自社のエンジニアの育成とした。(中略)英語環境での開発、世界標準での開発を経験したエンジニアの価値は高まるはず だ。(中略)また、オフショア開発に取り組むことによって、自社の採用力が格段に上がった。ここ数年は日本国内のエンジニア不足が深刻であり、エンジニア の確保は各SIerの命題だった。そんな中で小規模の自社が年間50人ものスキルのあるエンジニアたちを採用できた一因には、このオフショア開発がある。 エンジニアの育成。エンジニアの採用。この2点において、十分な費用対効果を実現できたと認識している」(Global Sourcing Review、2008年12月号、オフショア大學刊)

 篠田氏はエンジニアの育成のみならず、結果的に採用でもオフショア開発が好影響を与えたといいます。

 ベトナムなどへの海外出張や常駐、海外エンジニアとの開発や交渉を通し、エンジニアをモノづくりのプロフェッショナルのみならず、ビジネスパーソンとしてのプロフェッショナルに育つことを目標とすることで、多くの人が集まってくるのでしょう。

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逆にいえばそれだけ、オフショア開発を「成長のために役立つもの」と心のどこかで認識している人や、オフショア開発に挑戦したい人の潜在数がいるということです。

 ちなみにですが、新卒採用の話になってくると、大学での教育レベルの話は避けて通れません。

 大学では、理系学生は研究や実験に熱心ですが、SEとして顧客とコミュニケーションを取ったり、要件を抽出したり、もしくは、人材のマネジメントをしたりといった、いわゆるビジネス教育はほとんど実施されていません。

  このような状況では、上流工程を国内で実施できるような即戦力を養成するのは不可能です。これはある程度経験が必要なので、仕方ないといえますが……。そ もそも、製造工程などでも即戦力にできるような教育とはなっていません。さらにいえば、理系はまだ良い方で、文系学部などは徹底的に遊ぶ意識で最初から入 学してくる学生も大量にいます。


  それでもまだ、文系出身者が得意とするであろう、顧客や海外とのコミュニケーションスキルやビジネススキル、広く視野を持つことなどは、日本のIT産業に とっても上手に取り込み、生かしていく必要があると考えます。オフショア開発に対する適応度も、より高い可能性があります。

 話を元に戻すと、オフショア開発に対する興味を持つ人の潜在数は多いとする仮定が正しいとします。すると、首を突っ込んでみたい人も多いということになります。ただし、その段階ではどのような苦労があるのか、まだあまり把握していません。

 そして、オフショア開発は成果を出すまでには何よりも継続、つまり根気が必要なものです。何となくで始めてしまった人には想像以上の苦労で、オフショア開発推進への反対派になってしまうかもしれません。

 企業側としては、前述の篠田氏のように、オフショア開発に対する長期的計画と信念を持って、オフショア開発へ興味を持ったエンジニアにどれだけ説明できるかが、企業とヒトを強くできるかどうかの分岐点になってくるのではないでしょうか。

ベトナム人材の実力は?

 前述したシンポジウムでは“Global Sourcing”、つまり世界における最適地での仕事の振り分けが大事であるという点も議論されました。

 受注先が中国だけではリスクが一極集中してしまい、何かあったときに危険でもあります。ベトナムは、その意味で存在感を急速に高めています。それではベトナムの人材とはどのようなものでしょうか?

 次回は、引き続きGlobal Sourcing時代の人材について、特にベトナムに焦点を絞って執筆したいと思います。

筆者プロフィール
霜田 寛之(しもだ ひろゆき)
オフショア大學 講師
Global Net One株式会社代表

日立ソフトにおいて、ベトナム最大手ソフト開発企業とのブリッジSEとしてオフショア開発プロジェクトに参画。現地ベトナム人の人間性の体験や優秀なエンジニアたちとの出会いを通してベトナムの可能性と魅力に取りつかれ、Global Net One株式会社を設立。
ベトナム活用のメリット、注意点をより多くの日本企業とシェアしてオフショア開発を成功に導くために、ベトナムに特化したオフショア開発コンサルティングやオフショアベンダ情報の提供と選定支援、ベトナム進出サポートなどを行う。
オフショア大學ではプロジェクトへの影響要因としてのベトナムの地域特性、文化特性について教鞭(きょうべん)を執る。

 ベトナムIT企業総合マッチングサイト:http://outsource2-vietnam.net/
 Global Net One株式会社:http://www.globalnet-1.com/j/
 オフショア大學:http://www.offshoringleaders.com/

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