偽装認知には罰金
日本人と外国人の間に生まれた子どもの国籍取得要件から父母の婚姻を外すことを柱とする改正国籍法が、5日午前の参院本会議で、与党や民主党などの賛成多数で可決、成立した。
父親の認知があれば、外国籍の子どもが日本国籍を得られる道が開かれた。
採決では国民新党や新党日本の田中康夫代表など9人が反対し、自民党の有村治子、衛藤晟一両氏、同党出身の山東副議長(無所属)の3人が棄権した。
これまで国籍法は国籍の取得に出生時に父母が結婚していることを要件としており、未婚の日本人男性と外国人女性の間に子どもができた場合について は、出生前に父親が認知すれば日本国籍の取得を認めている。改正により父母の結婚の有無にかかわらず、父親が認知すれば日本国籍が得られることになり、出 生後に父親が認知した場合でも国籍取得が認められる。
ただ、外国に住む女性は子どもの国籍取得によって自らも在留資格を得られやすくなることから外国人女性が、父親とは別の日本人男性に虚偽の認知を 依頼する偽装認知が増加する懸念がある。このため虚偽の届け出には、1年以下の懲役か20万円以下の罰金を科すことも盛り込まれた。
参院法務委員会は法案可決に際し、偽装認知防止策として、〈1〉施行状況を半年ごとに国会に報告する〈2〉DNA鑑定導入の必要性を検討する――ことなどを求める付帯決議が行われた。
改正法は、母親が外国人で、日本人の父親から生後認知された子どもに国籍を認めない国籍法を違憲とした6月の最高裁判決を受けたもの。
[解説]国籍法改正 審査厳格化の徹底を
成立した改正国籍法の施行にあたっては、偽装認知の横行をどうやって防ぐかが最大の課題となる。
与野党の一部から改正案への慎重論が噴き出した背景には、偽装認知を懸念する声がメールやファクスで、相次いで国会議員の元に寄せられたことがある。慎重派議員らは「父子のDNA鑑定を義務づけるべきだ」などと訴えた。
しかし、法務省は「日本の親子関係は生物学的な要素だけで決めているわけではない」として、DNA鑑定の導入に一貫して否定的な姿勢を取ってき た。各地方法務局の窓口で鑑定の信用性を判断するのは難しいという実務上の問題があるうえ、母親が外国人の子供だけに導入すれば差別につながることも懸念 している。
法務省は偽装認知への不安を解消するため、国籍審査の厳格化を図る方針だ。省令改正や通達を通じて、父親への聞き取り調査を行ったり、父子が一緒 に写った写真の提出を求めたりする。国籍取得届の提出先となる法務局の数は全国で264に上る。審査状況にばらつきが生じないよう、各法務局に防止策を徹 底させることが求められる。(政治部 横山薫)
国籍法改正、関係者ら喜び「やっと父の姓名乗れる」
法務省「偽装防ぎたい」
日本人の父親と外国人の母親を持つ「婚外子」の国籍差別は「法の下の平等に反する」とした最高裁の違憲判決から半年が過ぎた5日、改正国籍法が成 立した。子供の日本国籍を求めてきた家族たちは「やっと日本人の父の姓を名乗れる」と喜びに沸く一方、無関係の日本人男性に認知をさせる「偽装認知」が横 行するとの懸念は消えず、法務省は重い課題を背負った。
「うれしい。我が子がやっと父親の姓を名乗れる」。千葉県茂原市に住むフィリピン人のリエズル・ハスペさん(39)は、感激した様子で話した。日 本人男性との間で、長女ノブコさんが生まれたのは10年前。男性の認知は得ているが結婚はしていないため、ノブコさんはリエズルさんと同じ姓で、小学校に 入ったころは、クラスメートから「外国人だ」といじめられた。ノブコさんは「ずっと日本人として日本に住んで、将来は看護師になりたい」と笑顔を見せ、近 く国籍取得の届け出をするつもりだという。
婚外子訴訟の原告を支援するNPO「JFCネットワーク」(東京)では6月の違憲判決後、同様の問題を抱える人たちに手紙で「法が変わるので国籍 取得を」と呼びかけた。日本とフィリピンから「申請する」という連絡が約70件あったが、国会審議の停滞で法改正は延び延びになっていた。
違憲判決後、各法務局や在外公館にあった国籍取得の申請は4日時点で129件。法務省民事局の担当者は「これで動き出せる」とほっとした表情。し かし、今回の法改正には、DNA鑑定などで確認する規定が盛り込まれず、不正に日本国籍を得ようと偽装認知を図る可能性は残る。同局では「父子で撮った写 真があるかなど、あらゆる方法で偽装を防ぎたい」としている。
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