総合人材育成大手富士通ラーニングメディアは11月13日、人材育成でベトナムホーチミン市工科大学との 提携を発表した。同社は現在、親日的で勤勉さを兼ね備えたベトナム人技術者の育成に注力しており、主にIT技術及び数学力に長けた学生を対象に組込みソフ トウェア関連研修コースのオフショア開発などを通じた人材の育成を進めるとともに、本年度からはベトナム人技術者を職場に受け入れ、実務研修も開始してい る。
富士通ラーニングメディア執行役員コーポレート本部長兼社長室長の青木敦氏および現地で人材教育に携わった同社金融・公共ソリューション本部グローバルソリューション部長佐島広秋氏に、ベトナムでの人材教育、および同社人材教育の今後の方向性について聞いた。
Q.海外での人材育成提携先としてベトナムを選ばれた理由は?
青木氏: まず我々の会社が30年以上の長い期間海外でのITを中心とした人材教育に携わってきたという背景、ビジネスの機会に恵まれていたということが挙げられま す。これまでも日本政府のODA活動の一環としてヨルダンなどいくつかの国々で人材教育を既に行ってきました。JICAさんが運営されていらっしゃる沖縄 国際センター(OIC)では、世界中の技術者の方々が集まられて人材教育がなされております。我が社もそこでIT教育を行っております。
かたやITの世界は米国が中心になって動いていますから、グローバルに情報収集して様々な企業にタイアップすることがビジネスの競争上重要であると考え ており、米国・英国・シンガポールでさまざまな人材教育にかかわってきているという背景も我々の会社にはあります。そのような海外ビジネスを行ってきたと いうことが基盤にあります。
またたとえば、人材育成の提携先の候補としてインド・中国なども挙げられますが、これらの国々に関しましては、既に自分で力をつけられるようになってき ており、技術者が豊富に存在しております。またオフショア開発を委託する場合の費用も比較的高額になってきております。そのためこれからはベトナムなどの 地域の方がビジネスの可能性としてはあるという判断が一つにはあります。ベトナムには富士通も工場を保有していますが、他にも多くの企業が開発系の工場を ベトナムに保有しています。またベトナムもインドや中国などと同様に、国の政策によってホーチミン市工科大学等を通じて技術者を積極的に育てようとしてい ます。
ベトナムでの人材教育に関しては、当面は我々の教育コンテンツをともに開発していただく方針です。現にすでに東京本社に来て働いているベトナムの人たち がおります。ベトナムの人たちは非常に真面目でひたむきです。国も個人も成長していきたいということを純粋に考えており、何と言うかずるいようなところが あまりありません。非常に信頼できますし、日本にも好意をもっているように見られます。
Q.ベトナム人の技術者育成について具体的にどのような市場のニーズが期待されますか?
青木氏: もともとの技術とか数学的な能力がしっかりとしたベトナムの方々、しっかり学問を修めた人に教育・テクノロジーの実務と日本語をしっかりと身につけていた だきたいと考えております。オフショアの開発以外にも、最終的には日本で教材開発をしていくこともベトナムの人たちにやっていただきたいと思っておりま す。段階を踏んで実務をしっかり教えていきたいと思っています。そのように教育されたベトナム人たちがベトナムでも活躍していくでしょう。即戦力として彼 らと共に仕事をやろうという方法でなくて、しっかりと技術のベースがある人が日本に来ていただいて、日本人の中に入っていただいて我々と同じようなスキル をつけていただきたいと思っております。ベトナムの人たちにずっと日本にいていただくということは想定しておりません。教育を受けた後はベトナムに帰って いただいて、開発などを行っていただくことを想定に人材教育を提供しております。そのようにして向こうでしっかりとしたビジネスのコアを作っていただくこ とを願っております。
富士通ラーニングメディアが開催したワークショップに参加したホーチミン市工科大学情報工学部3年生の様子(富士通ラーニングメディア提供)Q.今後の富士通ラーニングメディアの海外展開戦略について、ベトナム以外に人材育成でターゲットとされておられる地域は?
佐嶋氏: 今回ベトナムでの人材開発セミナーの後、フィリピンを視察してきましたが、フィリピンでは富士通や米国企業などが積極的にオフショアの開発を委託していま す。また首都マニラにある名門フィリピン大学と富士通フィリピンがビジネス上でも人材交流においても親密な関係にあります。今後フィリピン大学の学生向け に人材教育を行う前段階として、優秀なフィリピン大学の学生や卒業生の力をお借りして、たとえば我が社の研修コースに関して、英文での教材作成や、海外英 語圏での講師を務めていただくことなどを視野に入れております。
それに対してベトナムはどちらかというと日本語のコース開発、コンテンツ開発などの世界で、彼らの数学力などをうまく引き出して活用していきたいと考え ています。将来的には欧米も見ていかなくてはなりませんから、英語圏の世界にビジネスとして本格的に参入するためにもフィリピンの方々の英語力を大いに活 用した展開をしていきたいと思っております。
Q.今後の海外支社設立のご予定は?
青木氏: 将来的には、ベトナムにはビジネスの拠点として海外支社を作っていかなければいけないと意識しています。ホーチミン市には拠点的なものを設立していきたい ですね。人材の交流はすでに始まっておりますし、具体的に支社設立について決定しましたら改めて発表させていただきたいと思っております。
Q.「IT人材育成のトップカンパニー」としてこれから社会にどのような役割を果たしていくご予定でしょうか。
青木氏: これまでは技術についてお教えするのが中心でしたが、今後は企業ビジネスにおいて現場で改革がなされたり、プロセスが変革したりできないと、利益を出すこ とが難しいと思います。我が社においてもどんどんシステムや体制を変えていく努力をする必要があると思っております。単純に技術者育成のお手伝いをすると いうよりは、ITがベースになりつつも改革や改善を担えるような人を輩出できる人材教育サービスを提供していきたいと考えておりますし、そういうサービス を提供する中で会社の価値を高めていきたいと思っています。イノベーションをしっかり担当していける人が会社の中で一番価値があると思います。それをIT のベースで実現できるような人を育てていくことに貢献していければと思っております。
ホーチミン市工科大学情報工学部学生へのワークショップ修了証授与式の様子(富士通ラーニングメディア提供)§-取材後記-§
世界金融危機の影響により、国内企業でもコスト削減に励む傾向がみられる。このような中、ベトナムのような海外新興国に目を向けると、若者たちが純粋に国を発展させ、個人もともに成長していきたいという熱意と純粋さが感じられるという。
人材教育は新興国以外にももちろん日本国内でも重要な役割を担っている。企業として継続的に利益を計上して発展させていくためには、いくら個々人が優秀 な人材であっても、それぞれの良さを引き出し、組織として「知」を共有・新たな次元へと成長していくプロセスが不可欠である。コスト削減を考える際も、本 当に投資すべき分野まで削減してしまっては組織全体の弱体化につながる。社員ひとりひとりのモチベーションを高め、ともに組織として成長・改革していく会 社の在り方が求められており、それを促すひとつの鍵が、「人材教育」への投資にあるのではないだろうか。
-IBTimes 編集局―
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