【バンコク=田原徳容】タイの空の玄関スワンナプーム国際空港占拠事件は1日で1週間を迎えるが、収拾のめどは立たず、ソムチャイ政権は機能不全を世界に露呈した。
爆発で負傷したのは首相府占拠者ら。一方、政権を支えるタクシン元首相派は30日夕、首相府付近で2万人(警察発表)集会を行い、PADの暴挙を批判。PAD排除まで連日集会を開くとしており、衝突の緊張が高まっている。
邦人約1万人を含む足止め状態の観光客ら約10万人に対し、バンコク南東約150キロの軍用空港を使った代替空輸が11月28日に始まったが、完 了に1か月かかる。また、1390万人(2006年実績)にのぼる観光客のうち、約160万人が年末までのタイ旅行をキャンセル。観光関連で100万人が 09年に失業するとの予測が出た。
タイ政府は混乱による経済損失を最大1000億バーツ(約2700億円)と見積もる。タイは日本の自動車産業の生産拠点で、部品の空輸停滞など影 響が出始めた。政情混乱が続けば09年の国内総生産(GDP)成長率は当初予測の約4%を下回り、約2%にとどまるという。財界は11月29日、首相に退 陣を要求した。
ソムチャイ首相は11月27日、2空港を対象に非常事態宣言を発令した。しかし、陸軍は既に首相退陣を勧告して造反しており、排除の任を命じられ た警察は及び腰だ。陸軍は06年のクーデターで元首相を放逐。元首相派が07年末の総選挙に大勝し、政権に返り咲くと、政権と距離を置いた。PADが、8 月下旬の首相府占拠に始まる数々の違法行為を展開しても、軍は「容認」。これが異例の空港占拠を許した。
打開が困難なのは、最大与党「国民の力党」の解党が12月上旬に想定されるからだ。党ぐるみの選挙違反事件を裁く憲法裁判所は11月28日、実質審理をせず12月2日の結審を決めた。解党と首相ら党幹部の公民権停止の判決が見込まれ、その場合、内閣は総辞職する。
PADは、12月5日で81歳となるプミポン国王を頂点とする立憲君主制の擁護を主張する守旧派エリート集団。タクシン政権後期の05年後半から、新興エリート集団のタクシン派の打倒を図ってきた。今日の対立は国民を無視した新旧エリートの利害衝突の表れだ。
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