2008-10-29

技術を超えたSEになれ

:::引用:::
前々回,筆者は「SEマネジャの中には『SEは技術屋だ。俺たちは技術の仕事だけすればよい』と考えているように見える人が少なくないが,それでは ダメだ。だから,営業担当者や経営者から『SEはビジネスに無関心過ぎる。何を考えているのか分からない』と見られるんだ云々」と述べた。きっとSEマネ ジャの中には筆者の意見に賛同する人や異論がある人などいろんなSEマネジャがいるはずだ。それは筆者が考えるに,そのSEマネジャが「IT企業の中の SEのあり方やSEの仕事をどう考えるか」によると思う。そこで今回は「IT企業の中でのSEのあり方」について考えてみたいと思う。

 筆者は第一線のSEの任務は「会社のビジネス目標の達成に貢献し,顧客の満足度を向上する」ことであると考えている。そのためにSEと いう職種がある。これが筆者の考えるSEのあり方の原点である。もちろん,SEの仕事はIT企業の性格,ハードウエア・メーカー,ソフトウエア・メー カー,システム子会社,独立系SI企業,ソフト会社,元請け,下請けなどによって微妙に異なる。また,企業の中でもSE一人ひとりの仕事はアサインされた 仕事によって異なる。だが,SEはIT技術の専門家として販売活動やシステム開発,保守活動,コンサルティングなどの仕事を通じてビジネスに貢献し,顧客 に満足してもらうために仕事をするのには何ら変わりはない。そのためにIT企業はSEに給料を払っているのである。筆者はそう考えている。

 SEの多くの人は「会社にとってビジネスや顧客にご満足頂くことはに重要だ」ということは頭では分かっていると思う。事実,若いSE時 代は誰しもそれを意識して仕事をしている。だが,会社で営業担当者がビジネス目標を持って仕事をし,そのためにSEが働くという構造の中で働いていると, だんだんと「ビジネスや顧客の満足は営業担当者や経営者の仕事だ。俺たちには直接関係ない。俺たちは技術の仕事をすればいいんだ」と考えたくなるのだと思 う。

 筆者は某メーカーのSEだったが,SE時代の3~4年生のころから第一線で仕事をしていたとき「SEの仕事とは一体何だろうか?SEは 技術だけの仕事をすればよいのだろうか?」と悩んだ。特に,営業担当者がSEの筆者に相談も無く顧客と勝手にいろんな約束をするのを見て「顧客のシステム をよく知っているのはSEなのに,なぜ俺に相談しないのか」と思ったものだ。そんなときには疎外感さえ感じた。

 また,営業部長が「この契約を頂ければSEを何人付けます」と言うのを見て,ビジネスとは言え将棋の駒のように扱われるのが面白くな かった。何人付けるという言葉には,身売りされるような響きがあり,抵抗があった。そんなつもりでSEになったのではないと思ったものだ。そして「営業担 当者のSE軽視ははなはだしい。頭に来る。SEは営業担当者の言う通りにすればよいのか。いや違うはずだ」と葛藤していた。また,顧客の課長や担当者は営 業担当者以上にSEを頼りにしていることも知った。それはSEがいないとシステム構築や保守などの仕事が上手く行かないし,技術について相談できる人がい なくなるからだろう云々と思った。

 一方「会社はSEに何を期待しているのだろうか」ともよく考えた。そして,先輩のSEや仲間ともよく討議した。親しい顧客の方にもSE のあり方について個人的に相談した。営業担当者ともよく話した。営業部長や営業担当者とお酒を飲んで,言いたいことを言ってけんかもした。営業の厳しさも 知った。それらの経験を通じて考えた揚げ句,筆者は「IT企業の中のSEのあり方」について,こう考えるのが正しいようだと自分なりに結論付けた。当時, 筆者が考えたSEのあり方の基本は,次の3点だった。

 (1)SEはITの専門家とは言え,ビジネスの世界の中でのSEである。IT企業は会社である以上,売り上げと利益を上げなければなら ない。いかにSEが技術だけの仕事をしても,会社が赤字になっては意味がない。SEも企業人である以上技術屋として会社の売り上げや利益に貢献すべきあ る。

 (2)SEは営業担当者とともにビジネスの車の両輪である。営業担当者だけでビジネスができればよいが,そうはいかない。IT企業のビ ジネスは顧客の業務を分析し,ITベースの新システムの提案・設計・開発・保守・運用などを行うことが不可欠だが,それは技術屋抜きにはできない。電気洗 濯器や冷蔵庫を買って電源を入れれば動くのとは訳が違う。IT企業では営業担当者とSEが双方それぞれの役割を果たして初めてうまくいく。すなわち,営業 担当者は会社の代表者であり,SEは技術の代表者である。SEはSEらしい仕事をすることが重要であり,システム開発・導入などはもちろんだが,営業担当 者が「これをやりたい」と言っても技術的に間違っていればそれを指摘するのもまたSEの義務である。

 (3)顧客から受注したシステム開発・導入や保守をするのはSEしかいない。SEはそれをきちんと行い顧客に満足してもらうことが重要である。それがリピート・オーダーにつながり継続的にビジネスができ会社が発展する。 筆者はIT企業のSEのあり方をこのように考えた。そして「SEの任務は企業のビジネス目標の達成に貢献し,顧客の満足を向上させることである」と 結論付けて仕事を行い,SEマネジャになってからもその考えで部下を指導した。SEには「技術屋らしく行動せよ。ビジネスと顧客のためになることなら何を やってもよい。一流のITスキルは持て。ビジネスに積極的にかかわれ。顧客の部課長とも話せ。営業担当者には迎合するな。馬鹿な営業担当者に馬鹿にされる な」などと要求していた。

 また,筆者自身はぶら訪問はもちろんだが,顧客や営業担当者からどんなに要求されても「SEは駒でない」と考えてSEの体制図は出さな かった。時には営業部長とけんかもした。ビジネスの目標は営業部門と協力して毎年達成した。当時,SEグループは営業部門に対し結構発言力があった。わが ままな営業担当者には「売れるものなら売ってみろ」とも言えた。

 今は筆者の現役時代とは違う。だが,時代は変わっても第一線のSEのあり方の基本は同じである。前述の3点は何ら変わりない。ビジネス や顧客関係を疎かにしているSEに言いたい。確かに,SE一人ひとりの仕事はビジネスや顧客に無関心でも,マンパワーとしてシステム開発や保守活動などは それなりにできる。だが,筆者はそんな腰を引いて仕事をするSEには賛成できない。それでは前述の“SEの任務”が果たせないからだ。

 いずれにしてもSEは技術屋の立場で常にビジネスと顧客を意識して仕事をすることが重要である。システム開発をするにしても顧客と良好 な関係を作り,技術力を発揮して生産性と利益を上げるやり方を心がけることが必要だ。赤字にならなければよいという発想ではダメだ。販売活動するにしても 顧客のニーズを把握し売れる技術的ソリューションを創造したり,競合したときには技術的な視点で競合相手を分析し販売戦略を考えたりすることも重要だ。ま た,ある顧客で1年仕事をしたら顧客に自分の単価を昇給分位上げてもらえないと恥だと思うくらいでないとダメだ。

 また,顧客には迷惑をかけない,約束は守る,顧客の立場で考えることも不可欠である。それをSEマネジャがリーダーシップを発揮して先 頭にたってやればSEの発言力も増し「SEのマンパワー扱い。受身的姿勢。ビジネスに無関心な体質」などSEが抱えている諸々の問題などが解決するはず だ。

 以上,IT企業のSEのあり方について筆者の基本的な考え方を述べた。IT企業にとってSEは非常に重要な職種である。SEの方々は もっと「俺たちはビジネスを担うIT技術の専門家である」という誇りと自信を持って堂々と仕事をやるべきだ。そして,SEマネジャやSEは,IT技術のみ ならずビジネスや顧客にも強い“技術を超えたSE”になってほしい。それはSEマネジャが会社の中でSEのあり方をどう考え,どう行動するかにかかってい る。それが今日の一言である。

 今回で,このブログは50回を迎えた。これまでSEの変革読者の方々に訴えてきたが,次回からはSEマネジャやSEの方々の質問に答える形で「SE一問一答」を執筆する。


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