2008-10-30

最新カーナビを見て考えた「技術者不足」の意味

:::引用:::

 「知の共有」。最近,あるメーカーのWebサイトで最新カーナビの機能について調べていたところ,こんな言葉に出くわした。

 これはカーナビを搭載して走行している自動車同士の情報共有の仕組みのこと。高度道路交通システム(ITS)の一環としてセンターから提供される渋滞情 報などと違い,走っているもの同士が “生”の情報を提供し合うことで、渋滞回避の精度を高めるというものだ。人間同士の情報共有ではないが,Web2.0的な考え方を機械に適用したと考えれ ば,「知の共有」というコピーを付けたくなる気持ちも分かる気がする。

 この機能を以前から利用している人は「何を今さら」と思われたかもしれない。しかし,これまで古いカーナビを使い続けてきた筆者でなくとも,最近 のカーナビのあまりの多機能ぶりに驚かされた読者も多いのではないか。ナビゲーション機能やAV機能が進化していることはもちろん,あるメーカーの製品で は,カーナビから自宅のカギやエアコンを操作できるというから恐れ入る。カーナビ→携帯電話→インターネット→家庭内LANという経路で,情報を制御する のだそうだ。

 もちろん,こうした機能を製品が備えていることと,機能が実際に活用されることとは別問題である。携帯電話の例を持ち出すまでもなく,このことは 情報端末やデジタル家電全般に言えるだろう。実際に使われるかどうかに関係なく,製品の基本機能からかけ離れた高機能を付加価値として競争が行われてい る,とさえ言えるのではないか。

 そんな状況に思い至り,以前から製造業を中心に大きな問題となっている「組み込み技術者の不足」とは,いったいどういう意味だろうと考えてしまっ た。ご存知のように,こうしたデジタル家電の付加価値のほとんどは,今やソフトウエア(いわゆる組み込みソフト)によってもたらされているからだ。

 経済産業省が今年5月に発表した「2008年版組込みソフトウェア産業実態調査」の結果に よると,組み込みソフトの産業規模は,前年比7.5%増の約3兆5100億円に拡大。その一方で,ハイレベル(熟達者)の技術者の不足率(不足している技 術者数÷現状の技術者数)は48.4%に上るという。実は不足率自体は2006年をピークに徐々に下がってきているのだが,高付加価値を生み出すうえで主 導的な役割を果たすハイレベルの技術者が,本来必要な数の3分の2しか存在しないことは,組み込みソフトにかかわる業界全体の構造的な問題と言えるだろ う。

 技術者不足の背景を理解できるデータもある。経産省の調査によれば,製品出荷後の品質問題の最も大きな原因は「ソフトウエアの不具合」で,全体の 46.3%を占めた。この数字は「ハードウエア設計の不具合」の2倍以上,「製造上の不具合」の4倍近くに当たる。品質問題を起こした製品の比率は,この 2年で徐々に改善してきているが,それでも「20%以上」の企業が全体の3分の1を超えている。

 こうした結果を見るにつけ,家電製品のユーザーである筆者は,スキルレベルの高い優秀な組み込み技術者が,製品の中核的な機能,言い換えれば,その製品をその製品たらしめている基本機能の改善にこそ、力を発揮してほしいと期待してしまう。

 もちろん,目新しい機能を欲するユーザーがいることは否定しない。筆者自身も,冒頭で紹介した「知の共有」の機能については,情報を提供する利用者が多くないと十分なメリットを得られないという限界はあるものの,目の付け所は面白いと思う。

 だが,基本的にユーザー企業のニーズに沿って開発を行う企業情報システムと違い,不特定多数のユーザーを相手にするデジタル家電の世界では,(必ずしもニーズとは合致しない)シーズとして目新しい機能の開発競争が行われている気がしてならない。

 それがメーカーのマーケティング戦略だと言われてしまえばそれまでだが,どうせ競うなら基本機能を洗練させることで競ってほしい,そのために優秀な技術者を投入してほしい,とつい願ってしまう。

 カーナビで言えば,地図が見やすく,情報が正確で,操作しやすい,という3点をとことん追及した製品ほど魅力的なものはないと思うのだが。


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