2008-09-16

日中双方の会社が山梨県で繰り広げる「中国人女工哀史」

:::引用:::

8月22日の早朝、山梨県昭和町の一角では鋭い悲鳴が響き渡った。そこの2階建て建物のなかで10名ほどの男女がもみあいになっており、数名の中国 人女性を無理やり引きずり出そうとしていた。女性たちはテーブルの脚などに必死にしがみついて連れ去られないよう抵抗しながら、大声で助けを求めていた。 中国人女性が、自分たちは日本へ働きにきた技能実習生で、劣悪な労働条件と環境に耐えられないので会社側に改善を求めたところ、社長ら数名が朝早くに宿舎 に乗り込んできて自分たちを強制的に帰国させようとしている、と訴えた。

この女性労働者は湖北省黄石市の出身で、2005年12月に黄石市の“東創境外就業有限公司”(以下、東創とする)の派遣で、婦人服及び子供服の縫製という名目で来日した。しかし、実際には、昭和町にあるテクノクリーンというクリーニング会社に派遣された。

彼女たちは毎日10数時間もの労働を強いられ、給料は月わずか5万円だった。残業代は形ばかりであった。土日もなく、日本人従業員が休暇をとる正月 休みすらも与えられずに働かされていた。07年9月から08年3月までの半年間で、休みはたったの3日であった。過度の疲労から、ある女性は深夜に自転車 で帰宅する途中に転んで怪我を負った。しかし、会社は病院に「スーパーに買い物に行ったときけがした」とウソを言い、労災である事実を隠ぺいした。

外国人研修・技能実習制度の監督機関である財団法人国際研修協力機構の担当者が巡回チェックに来たとき、不当に安い賃金で彼女たちを酷使しているこ とが明るみに出るのを恐れた会社側は、よそからミシンや縫製済の服を借りてきて、彼女たちにいったんその服をほどかせた後、再度縫製させてあたかも婦人服 や子供服の縫製作業をしているかのように装わせた。さらに、出勤カードを偽造させ、違法な長時間残業を課しているという事実を隠匿した。また会社側は、残 業代を含めて給料は毎月11万円、月の残業時間は法定範囲内の33時間である、という偽の証明書を書くよう彼女たちに強制した。

過酷な労働環境とあまりに低い賃金に耐えかねた彼女たちは、会社側に労働環境と待遇の改善を求めたところ、冒頭のように、会社側は、契約期間がまだ満了に達していないにもかかわらず強制的に帰国させようという強硬手段に出た。

彼女たちが必死に抵抗したことで、その日のうちに強制帰国させるという会社側の目論見は果たせなかったが、宿舎の入口に見張りの男たちがいるのを見 て、彼女たちは会社側があきらめたわけではないと知った。そこで彼女たちは宿舎から逃げることに決めた。張という名の女性は2階の窓から飛び降りた際に足 を骨折してしまった。段という女性と胡という女性はブドウ畑に逃げ込んで野宿し、翌日に近所の住民によって発見された。傷だらけで泥にまみれたふたりを見 て、何が起きたのかを知ったその住民は、彼女たちに同情して東京まで車で送りとどけてくれた。

外国人研修生・技能実習生の問題に関心を寄せる全統一労働組合と国会議員がただちに彼女たちの保護に動いた。すぐさま彼女たちは病院に送られ、ある 者は全治10日の怪我、ある者は骨折部分を手術する必要があるとの診断が下った。逃げ遅れた3名は会社側によって強制帰国させられた。

8月25日、テクノクリーン社の内田正文社長が上京し、毎日新聞の記者と全統一労働組合の職員の前で、「もし相手が日本人であったら、強制的に帰国 させるような行動にでることはなかったと思う。彼女たちには怪我を負わせて申し訳なかった」と認めた。また、社長は賃金支払いに不当な部分があったことを 認め、改善することを承諾した。賠償金の額については検討して後日回答するとした。だが、回答期限がきても内田社長は誠意ある回答をしないばかりか、暴行 の事実を否定し、賃金にも問題はなかったと全統一労働組合に対して文書で主張した。

テクノクリーン社と内田社長に問題解決への誠意が見られないことから、9月2日に張さんら3名は弁護士を通じて、社長らを逮捕監禁致傷および傷害の 罪の容疑で刑事告訴した。同日午後、国会議員、市民団体、労働組合が衆議院会館にて記者発表を行い、この悪質な事件を公表した。

ここで指摘しておかなければならないのは、湖北省出身の彼女たちを日本に派遣した「東創」の態度と役柄だ。私は東創の王香社長に電話し、女性労働者 たちの合法的な権益を守るとともに、会社の利益を守るためにも、日本側に働きかけてほしいと伝えた。だが、王社長は逆に「たとえ日本で賠償金を払ったとし ても、湖北に戻ったら彼女たちに全部吐き出させる。湖北省では誰がえらいか、あいつらの家族にわからせてやる」と言った。事実、女性労働者たちからも、家 族が王社長の夫に「黄石では表でも裏でも顔がきく。張り合おうったって勝ち目はないよ」といって脅されたと報告されている。私は王社長に、冷静になるよう 説得を試みた。だが王社長は、「日本政府のブラックリストに載ってしまってこの会社では派遣業務はできなくても、別の会社があるからそちらで業務を続けて いく。女性労働者の彼女たちなど怖くはない」と言い放った。

全面的に非を認めていたテクノクリーンの内田社長が数日後に態度を180度転換したことが、東創の王社長のこの強硬な態度と関係があるようである。

メディアの報道によれば、この事件に対して法務省入国在留課は、「賃金未払いや人権侵害などは不正行為に該当し、(日本企業には)3年間の(研修 生・技能実習生)受け入れ停止処分に当たる可能性がある」としている。しかし、肝心な国際研修協力機構は他人事のように態度を表明していないし、傷害を受 けた女性たちへの見舞もしていない。

一方、中国メディアの報道によると、中国政府側は企業を監督する役所の商務部が調査を開始するとともに、商務部外事弁公室、労働社会保障庁、黄石市政府などもこの問題を重要視しているとしている。

9月2日の記者発表に招かれていた私は冒頭発言のなかで、「日本には大正時代の紡績工場で働く女工たちの悲惨な境遇を描いた『女工哀史』という名作がある。現在、世界第二位を誇る経済大国となった日本で、いまなお女工哀史が続いていることに強い憤りを感じる」と述べた。


●●コメント●●

0 件のコメント: