金融危機の影響で、世界的に雇用への不安が高まっている。日本もその例外ではない。今後は経済のグローバル化や知識経済化が進む中で、他人と差別化 できる才能を「世界標準」で持つ人材へのニーズは一層高まるはずだ。個人のタレント(才能)やブランドがますます重要になるだろう。企業側としても、こう した人材をグローバルで引きつける努力をすることが必要だ。
今回は、そうした優秀な中国人のホワイトカラー人材をベースにキャリアの「世界標準」と「価値観の多様化」について話を進めてみたい。中国に進出 している日系企業からは、「中国人社員はせっかく育ててもすぐに辞める」という話をよく聞く。働くことに対する日本人と中国人のメンタリティーは本当にそ んなに違うのだろうか?
実は似ている日中ホワイトカラーの価値観
人材紹介サイト大手の中華英才網が2007年に実施した「中国人大学生の就職希望先ランキング」調査によると、就職希望先を選んだ理由の第1位は 「研修・発展の機会」(61.6%)だった。発展の機会というのは、会社内だけではなく、業界の中でも通用するようなポータブルな能力を身につける機会と いうことだ。中国人はよく「発展空間」という言葉を使うが、これは自分の成長、またキャリア発展の可能性がどれだけあるかということである。この調査で は、就職先を選ぶ際に、個人が成長し、社内外で昇進する機会が多いことを最重要視するということが示されている。なお、就職先を選んだ理由の第2位は「知 名度・影響力」(55.1%)、同じく第3位は「競争力のある給与水準」(53.8%)だった。
似たような例をもうひとつ。最近、中国で5本の指に入る有名大学に在籍する中国人学生数名に話を聞く機会があった。その中で、自分のキャリアを考 える上で大切な条件について聞いてみると、「達成感や職場の仲間との関係」という声が真っ先に上がった。ひとつの仕事をやり遂げた時の感覚が大事、自分が どこまでできるか仕事を通じて確かめてみたい、など成長意欲や達成意欲の強さが印象的だった。また、職場の同僚との関係というのは、中国では「関係」と呼 ばれる人脈が大事で、問題があった際など物事を上手く進めやすいからという意見があった一方、大家族のような雰囲気が好きという意見もあった。一昔前の日 本的な感覚とも言え、意外に社員旅行などの人気が高かったりするのも納得できる。
このように程度の差はあれ、キャリアを考える際に精神面と物質面があると考えると、精神面では日本の優秀な若者と変わらないと感じる。少し違うとすれば、彼らのキャリアの時間軸は1~2年と非常に短いため、転職を決めるタイミングが早いという点だろう。今回、給与の話はそれほど出なかったが、これまで話を聞いた中では給与や肩書きを重要視する人も少なくはなかった。ただ、これも優秀な人材の場合、 精神面も物質面も大事と考えているということだろう。仕事は何でもいいから給与が高い方がいいというよりは、自分が達成感を感じられる仕事をした上で、自 分の能力を認めてもらう基準として給与水準があるということだ。つまり、日系企業にいる時と同じ仕事をして5割増の給与が欧米系や国有企業でもらえるのな ら、転職も厭わないということだ。
日本では、中国人は給与が高ければすぐに転職すると言われることも多いが、その背景をきちんと理解しないと見誤ることになる。逆に言えば、業績評 価などの制度が導入されたとはいえ、日本企業はまだまだ給与差が少ないのではないか。欧米人も中国人も優秀な人材の考え方はそれほど変わらず、そうした キャリア観の方が「世界標準」と言える。つまり20代・30代くらいの日本の若者や中国人の若者の考え方の方が「世界標準」だということだ。
企業側からみると、中国に進出する日系企業に多い過ちは、まだ中国の人材を安価な労働力として見る考え方だ。今後中国やアジア市場に販売していこ うとすれば、商品開発、提案営業、マーケティング、PRなどますますクリエィティブな現地人材を活用する方向に向かわざるを得ない。つまり、人材を安価な 「労働力」ではなく、「資産」と見て優秀な人材にはそれなりの対価を払う必要が出てくる。
しかも、「新・富裕層(ニューリッチ)」などと呼ばれる30~45才位の世代は、これまで中国経済の発展の波に乗って、起業するなど猛烈に働き、 それなりに成功しマンションや車も既に持っているケースが多い。そのため、彼らが欲しい商品やサービスはどんどんソフト化しており、商品開発やマーケティ ングなどによりクリエィティブな発想が求められるだろう。そうしたニーズに対応できる優れた人材には例えば倍の給与を払う、といった発想の転換ができるの かが、中国で人材を活用するためのカギとなる。
日中にも広がる「ワールドオブダイバーシティ」
しかし、こうした価値観も世代と共に「多様性」を増しているのも事実だ。1つは最近の中国企業、特に優良国有企業への就職人気だ。先に述べた調査 の中で、就職希望先ランキングが50位まで発表されているが、中国企業の割合は年々増加し、2007年は25社と2003年の16社と比べて5割強増加し ている。トップ4社は全て中国企業で、国有企業大手の中国移動(チャイナモバイル)は第2位に入っている。これは中国企業の業績向上による給与増、充実し た福利厚生や欧米系と比較した安定性などが人気の理由のようだ。これら企業への人気が今回の金融危機の余波を受けて今後どのようになるかは注目すべき点 だ。
また、学生へのインタビューの中で、起業についての話も出たが、国有企業や外資系企業などの大企業に勤めたいという学生が大半の一方で、起業はリ スクがあるため難しいという声が上がっていた。数年前までは中国人は独立心が強いというイメージ一色だったため、今回の変化には驚いた。こうした学生はい わゆる「80後」と呼ばれる。「80後」とは、1979年の1人っ子政策導入後の80年以降生まれの若者で、特に20代を指すことが多い。この世代の若者 は、中国が成長し始めたのと同じタイミングで成長し、一人っ子のため、お金をかけて育てられ、俗に両親・祖父母の「六つのポケット」を持っているといわれ る。
その上の世代である30~45歳位の世代と比べて、物質的にも豊かな環境で育ってきたと考えられ、より安定志向になる傾向があるのだろう。
中国だけではなく、既に日本国内でも価値観の多様化が起こっている。例えば、例えば、日本人の50代の上司と20代の部下を見てみよう。ベストセ ラーになった「若者はなぜ3年で辞めるか(城 繁幸・光文社新書)」では、終身雇用や年功序列などをベースとした昭和的価値観が崩壊したと述べられている。そうした状況下で、転職組、留学組、契約社 員、派遣社員、日本採用の外国人社員など日本にいても様々な価値観を持つ人々が増えているのだ。日本人でも同じ価値観を持てない時代に既に入ってしまって いるということだ。これも私が連載の第1回で書いている「ワールドオブダイバーシティ(多様性の世界)」の一面を表していると言える。
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