2009-09-09

クローズアップ2009:アジア初「第三国定住」 難民受け入れ準備加速

:::引用:::
◇ミャンマー30人、来秋にも来日
 日本がアジアで初めて、難民受け入れの「第三国定住」制度に乗り出す準備が、本格化している。まずはミャンマー難民90人を3年がかりで受け入れる計画で、第1陣約30人を、外務省が11月にタイのキャンプで面接して選び、来年秋にも来日させる。その集団定住先として、長野県松本市の市民有志が “誘致”に名乗りを上げた。自治体はまだどこも正式に立候補しておらず、研修後の就労先の確保など課題は多いが、試験的事業の成果が期待される。【黒岩揺光、花岡洋二】

 ◇松本市民「誘致」名乗り
 政府は既に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に約60人の候補者名簿作成を依頼。その中から第1陣約30人を決める。予定では来日後、日本語・文化・社会制度などの研修を6カ月、施設で受ける。その後の定住先は本人が決める。在留資格は当初は「定住」資格だが、「永住」資格や日本国籍を得ることも可能だ。

 難民認定数が欧米よりはるかに少なく、国際社会から「応分の負担」を求められてきた日本は、事業成功により受け入れを拡充したい方針だ。

 UNHCR駐日事務所のセルス代表は、定住先について、日本語学習など社会適応への支援があることに加え、「一人一人の特性に合った働き口があることが鍵だ。日本国内のミャンマー人社会との連携も考えないといけない」と話す。外務省人権人道課も「難民自身が社会貢献していると実感でき、社会全体が豊かになることが大事だ」と言う。

 松本市の市民有志は今春、市民団体「信州発国際貢献の会」を設立し、国内で初めて定住先に立候補した。支援方法を考える勉強会や資金集めの音楽会を開き、提供できる住宅を探している。11月には難民キャンプを視察する。市側も音楽会を後援するなど側面支援している。

 同会は、長野県出身でUNHCR前駐日代表、滝澤三郎さん(61)が、高校の同級生ら30人と設立。世話人の横内義明さん(60)は「世界に貢献したい」と語る。一方、同地域で農・林業、織物、高齢者介護などの各分野で後継者・人手不足を解消したい考えもある。

 外務省によると、受け入れに関心を示す自治体は複数あるが、表立って手を挙げた組織があるのは松本のみ。「継続して受け入れるために、一つでも多くの自治体に手を挙げてほしい」と呼びかける。

 ◇懸念される言葉の壁 国際貢献、課題多く
 “難民鎖国”と批判されてきた日本は、大きな政策転換で国際貢献のアピールを狙うが、課題は多い。UNHCRに受け入れ候補の条件として、若い▽ 家族連れ▽健康▽犯歴なし--などを提示。グテーレス難民高等弁務官は「立場の弱い難民受け入れを検討してほしい」と話すが、これは建前とされ、関係者は「この試験的事業は必ず成功させなければならず、最も条件の良い人を選ぶ」と明かす。

 また、90人が最終的に自立した社会生活を送れるかが、事業の成否を決める。日本政府は難民条約に加入前の75年以降、ベトナムなどインドシナ難民と家族を1万人以上受け入れた。語学研修もあったが、多くは言葉の壁で進学・就労ができず困窮した。その後も状況は変わらない。既に来日して難民申請している大勢の人たちへの認定が少ないという、そもそもの問題については、門戸が広がる見通しは立っていない。

 松本の前向きな活動は注目されるが、都市圏に比べ、ミャンマー人人口と雇用市場が小さく、厳しい冬も弱点だ。キャンプで長年、支援に依存して暮らしてきたことも懸念される。

 政権交代が現実味を帯びる中、民主党は09年政策集で「UNHCRが認定した難民は原則として受け入れる」と積極策を打ち出した。自民党はマニフェストで難民問題に触れていない。

 ◇高校卒業しても職が見つからない 「日本に行きたい」--タイのキャンプ
 ミャンマーでは政府と少数民族の武装組織「カレン民族同盟(KNU)」との内戦が60年以上続く。カレンは80年代から国外へ逃れ始め、タイ国境沿いの9キャンプに約15万人が暮らす。うち約5万人がいるタイ北西部のメラ難民キャンプが、選定対象の地だ。

 同キャンプを記者(黒岩)は今春訪れた。山の斜面に、竹や木を組んだ家屋が連なる。米や塩、教育、医療は欧米の非政府組織(NGO)などの支援があるが、野菜や魚、生活用品購入のために斜面を耕し、市場でわずかな現金を稼いでいるのが現状だ。

 UNHCRメソト(タイ)事務所の税田(さいた)芳三所長は「キャンプ内で高校を卒業しても、進学も就労の機会もなく展望が開けない」と話す。米国移住が決まったノーノーさん(29)は7月、「キャンプはもう耐えられない。看護師になりたい」と電話で声を弾ませた。難民の間には「なぜ日本は受け入れてくれないのか」という声があるという。


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