2008-04-21

中国人観光客受け入れ体制整える山梨県果物の里

:::引用:::

最近読んだ本で、竹中平蔵さんと幸田真音さんの対談集『ニッポン経済の「ここ」が危ない!』(文芸春秋刊)というものがある。そのなかで、日本の産業構造をGDPの構成から論じている個所がある。以下はその大まかの内容だ。

ものづくりは大事だが、500兆円経済のなかで、製造業は四分の一しか占めていない。文化、観光、金融、情報などが四分の三となっている。GDP全 体で今後2%または3%の成長を達成するためには、製造業だけ努力しても限界がある。文化、観光、金融、情報などの産業を大きくしないといけない。

これは、竹中さんの主張だ。ごもっともだと思う。今回のコラムでは観光をテーマに、海外から日本への「インバウンド観光」と、日本から海外への「アウトバウンド観光」の2回に分けて、最近体験したことと感じたことを取り上げてみたい。

赤、ピンク、白……春欄間の山梨に咲き乱れる桃の花

3月中旬、土曜日を利用して大学教授、研究所の研究員、会社経営者、メディア関係者らからなる中国人の友人たち約20人とともに山梨県を訪れた。日 帰りができること、そして桃の花が咲き誇るベストシーズン。これは山梨県を選んだ主な理由だ。気軽に行けるところだからと、ちょうど親族訪問で一時的に来 日した年配の両親を連れてきた人もいた

友人たちには言わなかったが、私にはひそかにもうひとつの目的があった。このコラムでも以前、山梨県の観光事業に対して提案をしたことがある。昨年10月にアップした「山梨県に『世界果物の里サミット』開催を提案する」というものだ。

私自身は、この提案はなかなかいいところに目をつけている、とやや自惚れている。読者からも「非常に面白い提案でした」「世界果物の里サミット是非 実現して頂きたいと思います」といった感想が寄せられた。しかし、私の提案が果たして実行可能なのか。そして、はじめて山梨県を訪れた中国人観光客の心を 本当に掴むことができるだろうか。それを観察したかったのだ。

今回の訪問でまず胸を撫で下ろした。果物を中心とした交流の試みは本当にすでに開始されていた。私たちが最初に訪れたのは、笛吹市一宮町だった。同 町のホームページによれば、桃の木約20万本が植えられ、その敷地面積は合計440万平方メートルに達する。桃源郷との異名があるほど桃の花の名所だ。

町内の観光農園「金桜園」を訪ねてみた。園内では、いろいろの種類の桃の花が透き通る空と青い山々を背景に咲き乱れている。赤、ピンク、白に新 緑……色が競い合う春光爛漫の空間に、風に乗って漂ってきた花見の人たちの歌声と笑い声。見慣れた桜の花の花見とは一味違うところに新鮮感を覚え、思わず 桃の花を詠む唐詩を思い浮かべた。

「去年の今日 此の門の中/人面 桃花 相映じて紅なり/人面 祗ただ今 何れの処にか去る/桃花 旧に依りて 春風に笑む」(日本語訳はNHKライブラリー 漢詩を読む「春の詩100選」石川忠久著による)。

春に日本人は桜の花を見る習慣があるが、中国には桃の花を見る民俗がある。それだけに、一緒に訪れた中国の友人たちからは見事に一面に広がる桃の花に歓声を上げた。

出迎えてくれた金桜園の堀内圓代表からうれしい話を聞いた。「この間、北京の平谷に行ってきました。桃の栽培面積が世界最大の平谷と交流しています。日本の観光農園の経営ノウハウを先方に教えたり、平谷から日本にない桃の品種を提供してもらったりしています。」

平谷と言えば、北京市内から北東へ1時間ほど車で走ったところにある。人口40万人の町だが、桃の栽培面積が約1万4000ヘクタールと中国一を誇るばかりでなく、研究栽培する桃品種も約240種に上るほど多彩だ。

報道によれば、笛吹市は農業従事者らをメンバーにした市中国農業交流協会を2006年に発足させ、北京市平谷区と民間レベルで桃栽培にかかわる情報 交換を行っているという。白鳳などの桃を栽培し、収穫量が全国一を維持している笛吹市と中国最大の桃農園をもつ北京市平谷区との交流は、ある意味では私が 提案した「世界果物の里サミット」のミニチュア版のようなもので、提案の実現有効性が確認できたと思う。

そこから山梨市に移動して、郊外の高台にある笛吹川フルーツ公園から眺めると、桃の花が織り成したピンクのじゅうたんに覆われた甲府盆地が広がり、 南アルプスなどの山々がその遠景に聳え立つ。同行の友人たちはみんな口々に、今度、学会や学生の合宿の候補地として山梨県を選びたいと喜んでいた。私はに んまりとした。第2の観察目的も達成した。

その後、フルーツ公園にある富士屋ホテルの裏をさらに頂上へ進んでいくと、開けた山の頂上に「ほったらかし温泉」がある。甲府盆地を見下ろすことが できるその雄大な眺望を飽きなく眺めながら、露天風呂の温泉に浸って談笑する友人の両親も笑顔を絶やさなかった。さりげなく感想を確かめると、最高だと連 発した。

夜9時半、家に着いて荷物を整理していると、笛吹市産業観光部からもらった資料の中に同市の観光紹介DVDがあることに気づいた。何気なく目をやってびっくりした。DVDには日本語による紹介内容のほかに、中国語の紹介内容も入っている。

そう言えば、昼ごろに訪ねたワイナリー「中央葡萄酒」も中国語の紹介資料を用意してくれた。地方でも中国人観光客のことをかなり意識していることが わかった。そして、私たちが楽しんだコースは、初めて日本を訪れる中国人観光客にも十分満足してもらえるだろうと思った。今回の旅行に対する私のひそかな 観察活動がこれで終了した。

休日を利用した日帰りの小旅行だったが、期せずにして地方のインバウンド観光のためのインフラがかなり充実してきたことを確認できた。今年四月下旬 には、横内正明山梨県知事が松沢成文神奈川県知事、石川嘉延静岡県知事と共に上海などを訪れ、富士山をテーマとした観光客誘致キャンペーンに出かけるとい う。

次回はアウトバウンド観光を取り上げる予定だ。

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