中国人留学生を争奪
9月初め、北京市中心部の天安門広場から9キロ北西の首都師範大学研究棟内にある「広島大学北京研究センター」。10月から広島大大学院に留学する常暁倩さん(22)が、副センター長の李均洋・首都師範大日本語学科教授から入国や在留手続きの説明を受けていた。今年7月に同学科を卒業。日本語能力1級試験は中国で約6万人中8位の実力を持つ。昨年12月にセンターで行われた入試に合格した。広島大では日 中交流史を専攻する。「身近で留学の相談や受験ができ、広島大で学びたいという思いが強まった。将来は日系企業で働きたい」と話す。
急速な経済成長を続ける中国・北京に、日本の有力大学が相次いで進出している。オフィスを持つ国公私立大は21校に上る。優秀な留学生の獲得が大きな目的だ。
広島大は首都師範大と学術交流協定を結んだ2002年、留学希望者の窓口、研究交流拠点として他大学に先駆けてセンターを設けた。これまでに現地入試を経て文学、理学研究科に28人が留学した。
来日前の日本語教育やインターネットによる研究指導など手厚いケアや、李教授らの地道な広報活動が功を奏し、昨年は受験者が36人に急増。10月にトップレベルの北京大や清華大など11大学から21人を迎える。
少子化のなか、大学院の定員確保の狙いもあるが、センター長の佐藤利行教授(国際担当副理事)は「日本人学生に刺激を与え、研究教育の質も向上する。帰国後、各界で活躍してくれれば、広島大の国際的評価にもつながる」と話す。
日本学生支援機構の調べでは、日本で学ぶ留学生は約12万人。国・地域別では中国が6割を占め、韓国、台湾と続き、アジアが9割を超える。大学院在籍者約3万1千人の半数も中国人だ。
しかも、高等教育を拡大し続ける中国には日本の約10倍、約2500万人の大学生がいる。科学技術分野での国際競争が激しくなるなか、研究力をアップするための人材源として、中国は日本だけでなく欧米からも注目を浴びる。
日本からは、04年に神戸大、05年に東京大や九州大、早稲田大などが、今年4月には東北大が北京にオフィスを開設。留学希望者から連絡を受ける「待ちの姿勢」からの転換を図る。
一方、世界中から優秀な頭脳を集め、高い研究力を維持してきた米国の大学も数年前から、豊富な資金力を背景に人材獲得に力を入れる。英国やフランスも留学生への奨学金政策の強化に国を挙げて取り組むなど、中国では国際的な人材獲得競争が起きている。
東大の「北京代表所」は、IT関連産業が集積する北京市中関村にある。東大でも大学院の留学生約2千人のうち中国人は3割を占める。各地の説明会 では「英語で学べる専攻も多く、奨学金も充実」とPRしているが、「中国での東大の知名度は高くない」と、宮内雄史所長は言う。優秀な学生の多くは欧米に 流れているという危機感がある。
中国政府は今年度、49の「重点大学」から大学院生を毎年選抜、生活費などを援助して海外の「一流大学」に派遣する事業を始めた。初年度約4千人のうち、日本への派遣は約100人にとどまるとみられる。
福西浩・日本学術振興会北京研究連絡センター長は「受け入れに必要な授業料免除をめぐる学内手続きに手間取る大学もあった。優秀な留学生の授業料は元々無料という欧米の大学とは勝負にならない」と嘆く。
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中国での学生募集
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