一方、2つ目のテコである安い労働力は事実です。このテコは既に変化を始めています。労働力の不足で、賃金は既に上昇を始めています。今年になってイン フレ率も高まってきました。中国は賃金と物価が同時に上昇する新しい時代に突入しつつあり、これは経済成長に有利に働きます。 むしろ、2つのテコが同時に上がると、中国はその衝撃に耐えられず景気が失速しかねません。それは他国にとっても利益にならないはずです。反対に 2つのテコがどちらも働かなければ、貿易黒字はますます拡大し、諸外国の不興を買って人民元切り上げを余儀なくされるでしょう。しかし賃金は既に上昇中で あり、人民元の大幅な切り上げは必要ないと思います。
賃金上昇が環境問題解決の契機に
―― 賃金上昇が経済成長の重しにならないためには、労働生産性の向上が不可欠です。
蔡 中国は人的資本を大量投入することで高度成長を実現しました。しかし、経済の成長は必ずしも労働力に よるものだけではありません。例えば、日本は(1950年代の)余剰労働力が豊富な時期にも急成長しましたが、60年代以降に労働力が不足するようになっ ても成長を続け、90年代に入ってからようやく成長が止まりました。
重要なのは「ルイスの転換点」を過ぎても(生産性の向上を通じて)経済成長を続けられるか否かです。自分の労働生産性を高めれば賃金をアップでき るという条件なら、労働者は受け入れるはずです。日本やアジアNIES(新興工業経済地域)はそれに成功しました。中国にも可能なはずです。
生産性の向上を通じた経済成長は、我々学者や中央政府が一方的に主張しても実現するものではありません。それは地方政府、企業、労働者そして一般の人々の理解と協力が必要です。
例えば、ある工場が環境汚染を引き起こした場合、それは労働者にとって耐え難いはずですが、労働力が余っている時代は賃金がもらえれば文句は言えません でした。しかし「ルイスの転換点」を過ぎて賃金が上がり始めれば、労働者はようやく自分の生活の質を重視できるようになり、不満を訴えます。企業の経営者 はそれを無視できなくなり、工場の移転を考えるでしょう。しかし次は、産業の流出を恐れる地方政府が引き留めにかかります。経営者は、工場を持続的に発展 させるためには資金を投じて浄化処理を施すべきだと総合的に判断するかもしれません。
この段階に至れば、中央政府、地方政府、企業、労働者のベクトルが(環境にやさしい経営という方向に)一致します。
つまり、「ルイスの転換点」は中国の環境問題を解決する要素の1つでもあるのです。環境汚染の防止は社会の要求次第であり、それがなければ企業が この問題に真剣に取り組むことはまずありません。政府は政策や規制を打ち出すことはできますが、徹底させることは困難です。しかし、一般の人々や企業の経 営者が環境問題を無視できなくなれば、解決に向けて本格的に動き出すはずです。この変化は比較的速く進むと見ています。
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中国の労働力
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