2008-07-28

産学官連携によるIT人材育成で国際競争に打ち勝て

:::引用:::
日本IBMは6月3日、企業の経営層や大学関係者などを対象としたセミナー「IBM IT人材育成フォーラム」を開催した。フォーラムでは、同社のソフトウェア開発研究所所長で執行役員の岩野和生氏をモデレーターにパネルディスカッション が実施され、新日鉄ソリューションズの常務取締役で日本経済団体連合会(経団連) 高度情報通信人材育成部会 戦略・企画チーム座長を務める大力修氏、東京大学大学院情報理工学系研究科の今井浩教授、筑波大学大学院システム情報工学研究科の田中二郎教授が「日本に おけるIT人材育成と産学官の取り組み」をテーマに議論を深めた。大力氏は「(産学官の連携で)即戦力となる人材をつくるのではなく、5年後、10年後の トップ候補生を育てるべきだ」と意気込んだ。
新日鉄ソリューションズの大力修常務取締役

 日本におけるIT人材不足は深刻だ。少子化に加えて若者の理数系離れが進んでおり、ITエンジニアを志望する人数は減少傾向にある。一方で、人口 増加を続けるインドや中国ではIT産業が花形となりつつあり、毎年数十万人の学生が業界を目指しているという。この状況が日本の国際競争力の低下を招くと みる意見も多い(関連記事:北城最高顧問の講演)。

 「最近の学生はソフトウェア開発をはじめIT業界の仕事に対して良いイメージを持っていない。もはや(きつい、帰れない、給料安い)3Kではな く、『身体を壊す』や『会話がない』などを含めた42Kだという声も聞く。しかし、今やソフトウェアは自動車業界や医療業界などあらゆる産業で基盤になっ ており、この技術力を失えばすべての分野で国際競争に負けることになる」(大力氏)

 こうした危機意識から、経団連は2005年6月に意見書「産学官連携による高度な情報通信人材の育成強化に向けて」を発表し、上級レベルの技術を身に付けた高度ICT(情報通信技術)人材の育成に乗り出した(図1参照)。2007年4月には、経団連の重点協力校となる筑波大学および九州大学の大学院修士課程において、産業界のニーズに対応したICT人材を育成する新コースを開設し、カリキュラム作成や常勤講師の派遣、インターンシップの受け入れなどで積極的に支援する。

<図1>従来と将来のICT人材の育成過程(日本経団連「高度情報通信人材育成の加速化に向けて―ナショナルセンター構想の提案―」資料より抜粋) <図1>従来と将来のICT人材の育成過程(日本経団連「高度情報通信人材育成の加速化に向けて―ナショナルセンター構想の提案―」資料より抜粋)

即戦力ではなく将来のリーダー

 筑波大学で新コースの立ち上げに携わった田中氏は振り返る。「大学教育は教授の研究テーマが優先になっており、特に修士課程ではコースワークが不 十分だった。そこで修了に必要な単位数を30単位から50単位以上に引き上げたほか、ロジカルシンキングやコミュニケーションなどコンピテンシースキルを 重視したカリキュラムを導入した」。新コースはスタートからわずか1年しか経っていないが「当コースの学生は実務経験2年に匹敵するスキルを持っていると 企業人事も評価する」(田中氏)という。

 産学官による高度ICT人材の育成に向けた取り組みは、最初の段階であったモデルコースの立ち上げと当座の運営にはめどが付き、今後は現在の取り 組みを安定的かつ持続的な体制で運営し、全国に普及させていくことが急がれる。そのためには、産学官が個々に活動するのではなく、予算、カリキュラム、人 材などの資源を一カ所に集約し、国家戦略として横断的な組織の構築が必要だという。そこで浮き上がった構想が「ナショナルセンター」である。

モデレーターを務めた日本IBMのソフトウェア開発研究所所長、岩野和生氏

 ナショナルセンターでは「実践的ICT教育に関する研究」「モデルカリキュラムの策定」「全国の大学と支援企業のコーディネーション」「教育アセットの展開」「ファカルティ・ディベロップメント(FD)機能」「融合型専門職大学院の開設」という取り組みを行っていく。

 大力氏は「ICT人材育成に関して、このように業界を横断した形での取り組みはなかった。期待も責任も大きい。即戦力というよりも将来トップに立つような人材を育てたい」と強調した。

 産学官連携に期待することとして、今井氏は「東京大学ではCIO(最高情報責任者)やCISO(最高情報セキュリティ責任者)といった産業界で活 躍できる人材を育成したいと考えている。そのためにも人材交流を盛んにし、企業の技術者と学生が直接話す機会を増やしてもらいたい」と述べた。


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