2008-07-31

大使館の視点:中国進出の日本企業の社会貢献

:::引用:::
井出敬二・前在中国日本大使館広報文化センター長が語る中国への取り組み 第2回

   四川大地震の後、日本企業も含め多くの中国ビジネスに携わる企業が被災者支援のための寄付をしている。日本経団連会員各社からの支援総額は37億 2618万円にのぼるという(経団連ウェブサイト。7月7日時点)。このような社会貢献活動について、小生も北京の日本大使館で働いていた時、日本企業の 皆さんといろいろ意見交換を行ってきた。

  中国各地で多くの日本のビジネスマンが活動していることは前回述 べた。彼らは、中国各地で日本人会、日本商工会といった組織を作っているが、年1回、北京に集まってもらい、日本大使館も交えて丸1日、情報交換、意見交 換の会合を開催している。小生が北京で勤務していた時には、小生自身も議論を聞かせていただいていた。そこで交わされたやりとりで、興味深く、中国ビジネ スに携わる日本のビジネスマンたちにも参考になるであろう話を以下の通り紹介したい。

  この会合は、過去10年ぐらい開催されていると いうことであるが、当初は、まずは日本人ビジネスマンの組織を中国の地方都市で立ち上げたこと自体の紹介、そして活動の紹介といっても、ゴルフなど、日本 人駐在員だけで集まっての親睦活動を行っていることの紹介が多かったということである。

  しかし、2005年4月に中国各地で反日デモ が行われたこともあり、それ以降は特に、時には緊張した日中関係の中で、各地において日本人がどのように中国当局及び地元の中国人たちとつきあっていくべ きなのか、危機管理のあり方はどうあるべきか、そして各地の日本人組織をどのように現地に根付かせていくのか、組織自体の展望をどう考えていくのか、日本 人組織を各地において法的に登録していくことが可能なのかといった諸点で真剣な議論がなされた。

  その際、日本大使館側からは以下のよ うな問題提起をした。すなわち、日中関係は経済面では、貿易・投資額も伸び、大いに関係が拡大したと言われてはいるが、しかし、一朝事があれば、地元と企 業との関係を信頼関係が支えてくれるとは限らず、日中関係の底は実は浅いと言わざるを得ない。日米関係と比較すれば、米国の地方に進出した日本企業は、各 地で社会貢献活動なども通じて、地元の米国人たちと信頼関係を築き、日米政治関係の動向とは関係なく、各地で良好な関係を発展させている。日中において も、各地でそのような関係を構築することが期待されている。

  出席していた日本人ビジネスマンからは、逆に、日中政治関係を悪くしない ように日本政府、日本大使館にはもっとしっかりやってほしいという希望、注文も出された。同時に、日本人ビジネスマン達の間で、各地において日本企業、日 本のビジネスマン達が社会貢献活動などをもっと行い、地元にとけ込む努力をすることが重要だとの認識が急激に広まっていったように思う。小生が北京にいた 3年5カ月だけをとっても、各地で中国の地元の人たちとの信頼関係を構築するか、という点で、日本企業、ビジネスマン達の問題意識が急速に高まったように 感じる。

  反日デモの前にも日本企業は中国において各種の社会貢献活動をしていた。しかし、反日デモの後は、それらの社会貢献活動を隠 れてひっそりとやる(「陰徳」)のではなく、それを中国人にも分かってもらう努力が必要ではないか、との認識が高まっていったように思う。印象的だったの は、反日デモの後に訪中された日本の某有名企業の幹部が、小生と北京駐在の支店長との懇談会の席上、「中国の地方で植林活動をしているが、中国では知られ ていない。これまで必ずしも中国国内での広報をしてこなかったが、もっと広報面で努力するように頭を切り換えた方が良いのだろうか」と問題提起されたこと である。筆者も日本の対中ODA広報に携わっていたので、共通する問題意識を持ったものである。

  北京進出の日本企業が作っている組織 「中国日本商会」は、社会貢献活動に対して、意識的に取り組みを強化しだしていった。会員企業を対象にアンケートを行い、日本企業がどのような社会貢献活 動をしているのかについての調査を行い、それを2006年3月に発表した。調査結果は中国日本商会のウェブサイトに掲載されているので、ご参照願いたい。 この調査は、これまで類似のものがなく、かなりの手間暇をかけて行われたものであり、画期的な調査だったと思う。この調査は、社会貢献活動の分野などを分 析しており、非常に興味深い。発表した当時、中国の新聞でも取り上げられたりして、反響があった。次回は、日本企業の社会貢献について、留意すべきと思わ れるポイントについて述べたいと思う。(執筆者:井出敬二・外務省大臣官房参事官(国会担当) 注:本稿の中で、意見にわたる部分は、筆者の個人的意見で あり、筆者の所属する組織の見解を代表するものではない)

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