2008-07-28

外国人と日本の年金制度(1)永住ビザ取得はカラ期間算入の切り札になるか?

:::引用:::
最近、連日のように年金問題が報道されている。5000万件にのぼる年金の支払い記録消滅、役人による保険料着服や不正受 給など、年金をめぐる国民の怒りは頂点に達している。日本国民ですら不当な扱いを受ける例が後を絶たない日本の年金制度。まして、筆者の夫のように25年 の最低加入年数が大幅に不足している外国人の場合、その扱いはいったいどうなるのか。はたして夫は将来年金をもらえるのか、不安でいっぱいだ。

 夫はガーナ人で1956(昭和31)年に生まれ現在52歳。1986(昭和61)年6月来日。1999(平成11)年3月、日本人の配偶者のビザ取得と 同時に、それまでアルバイトで働いていた鉄鋼会社に就職し、厚生年金に加入。それ以前はいずれの年金にも加入していない。2005年6月、夫は大麻取締法 違反で逮捕され、同年7月退職し厚生年金から離脱。2005年8月以降現在まで国民年金保険料を支払い続けている。

 以前私は夫が年金をもらえるかどうか、いろいろな機関に問い合わせたところ、職員によってまちまちな答えが返ってきた。ある社会保険事務所の職員は厚生 年金のみ加入している場合は、15年間支払えば支給されると言う。またある職員は1979(昭和54)年以降に来日した外国人には、特例として25年間の 加入期間を満たしていなくても未加入の分は保険料を支払った期間とみなされるため、年金は支給されると回答した。

 ところが、ある役所でたまたま応対に出た職員によれば、夫は60歳まで保険料を支払っても25年間の加入年数に満たないから年金は支給されない、どうし ても年金がほしければ67歳まで保険料を支払うか日本国籍を取るしかないそうだ。67歳まで保険料を支払うのはかなり大変だ。年金額が少なくてもかまわな いから、年金のカラ期間参入を認めてもらえないかどうか、私は再び調べてみた。

外国人と日本の年金制度(1)永住ビザ取得はカラ期間算入の切り札になるか? |
 夫のような外国人の場合、永住ビザを取得すればカラ期間算入は認めてもらえるという説が非常に有力視されているようだが、はたしてそれは本当か? 私は 念のため外国人問題に詳しい法律の専門家にこの件について尋ねたところ、彼はこの「永住ビザ万能説」を以下のように否定している。

 「永住ビザを取得すればカラ期間算入ができるという説は信憑性に乏しい。もしそれが本当ならその根拠を示さなくてはならない。例えば、国民年金法の条文に、年金のカラ期間算入には永住ビザ取得が条件だとはっきり示されているなどだ」

 では国民年金法の規定はどうなっているのだろう。以下2つの条文を見てみよう。

・国民年金法第7条1項1号
 次の各号のいずれかに該当する者は、国民年金の被保険者とする。
1.日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であつて次号及び第3号のいずれにも該当しないもの(被用者年金各法に基づく老齢又は退職を支給事由 とする年金たる給付その他の老齢又は退職を支給事由とする給付であつて政令で定めるもの(以下「被用者年金各法に基づく老齢給付等」という。)を受けるこ とができる者を除く。以下「第1号被保険者」という。)

 この条文では国民年金の被保険者の条件を「日本国内に住所を有する」と規定しているだけで、国籍や在留資格は問題としていない。さらに、次の条文では、

・(支給要件)第26条
 老齢基礎年金は、保険料納付済期間又は保険料免除期間(第90条の3第1項の規定により納付することを要しないものとされた保険料に係るものを除く。) を有する者が65歳に達したときに、その者に支給する。ただし、その者の保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年に満たないときは、こ の限りでない。

 と、あるように老齢基礎年金の支給要件としても「25年」の要件があるだけで国籍や在留資格は問題としていない。従って、「永住ビザ万能説」はやはり根拠がないと言うべきだろう。

 その後、その専門家の方から来たメールによれば、外国人である(あるいは定住ビザがない)という理由のみで年金が受給できないという理由はない。ただし、夫の場合は25年間保険料を支払う必要はあり、カラ期間算入は難しいという回答だった。

 ちなみに、カラ期間算入ができる場合は以下のとおり(国民年金法昭和60年附則第8条5項)。

1.1961(昭和36)年4月から1986(昭和61)年3月までのサラリーマン(厚生年金や共済年金等の加入者)の配偶者であった期間(別名配偶者期間)

2.日本国民で海外に居住していた1961(昭和36)年4月以降の20歳以上60歳未満の期間

3.1991(平成3)年3月以前の学生であった期間のうち20歳以上60歳未満の期間

4.2000(平成12)年4月以降の学生等の納付特例制度の適用を受けて、保険料を追納していない期間

5.2005(平成17)年4月以降の30歳未満の保険料納付猶予をされた期間で保険料を追納していない期間

6.厚生年金や共済組合の加入期間のうち20歳未満の期間、または60歳以上の期間

7.1961(昭和36)年3月以前の厚生年金や船員保険の加入期間

8.厚生年金の脱退手当金を受けた期間のうち1961(昭和36)年4月以降の期間

 現在の日本の年金制度では、国籍や在留資格によって、国民年金の老齢基礎年金受給資格が得られないということはない。従って、上記のカラ期間算入の条件についても、ほとんどの外国人に当てはまらない2を除いては外国人についても同じと考えてよいだろう。

 筆者の夫のように60歳まで保険料を支払っても25年間の加入期間を満たさず、上記1~8すべてに当てはまらない場合は永住ビザや日本国籍を持っていても年金獲得は困難と思われる。

 2010(平成22)年以降、年金業務が日本年金機構に移管されても、社会保険事務所の職員の年金法に対する知識や外国人への対応が現在より向上するこ とは期待できない。カラ期間算入を期待して年金の裁定請求をしに社会保険事務所に行ったら、わけのわからない職員と窓口ですったもんだしたあげく、加入年 数不足で年金を1銭ももらえないなんてことになったら大損だ。

 それなら25年間保険料を支払ったほうが永住ビザや日本国籍をあてにするよりもむしろ確実ではないだろうか。現行の国民年金法が外国人を日本人と同等に 扱うことを前提としている以上、25年間ぎりぎりでもまじめに保険料を支払ってきた人間に対して国は文句を言えないはずだ。ただし、保険料を支払った記録 をきちんと保管し、記録をこまめにチェックすることをお忘れなく。

 次回は、日本の年金制度と外国の年金制度、在日外国人の年金制度に関するコメント等についてお伝えする。

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