2009-07-27

今週の本棚:森谷正規・評 『世界が水を奪い合う日・日本が水を…』=橋本淳司・著

:::引用:::
◇『世界が水を奪い合う日・日本が水を奪われる日』

 (PHP研究所・1680円)
 ◇水面下で進む世界的な食糧難

 冒頭に次の文章がある。

 「ライバル」(rival)の語源はラテン語で「小川」を意味するrivusの派生語、rivalisであり、これは「同じ川の水利用をめぐって争うもの」という意味です。つまり、ライバルとは水の争奪戦をするものを指します。

 二一世紀の地球的な最大の問題は、水であるとはかなり前から言われてきた。いまはエネルギー問題の陰に隠れているが、深刻な水不足、水の激しい奪い合いは、海外ではすでに各地域で見られる。その重大な影響は、やがて日本にも及んでくる恐れがある。

 水問題の専門家である著者は、海外諸国を調査に歩いているが、激化する水紛争を明らかにする。まずメコン川。その源流はチベット高原であり、中国がチベットを手放すはずがないと分かる。雲南省に下るが、中国内では瀾滄江(らんそうこう)と称していて、自国内の水を使うのは勝手と、政府は大規模ダムをどんどん作る。その影響で、タイ、ラオス、ベトナムで漁獲量が減り、水不足で穀物生産が頭打ちになっていて、下流国の人々の不満が高まってきた。

 その他にも、ヨルダン川をめぐるアラブとユダヤの二千年の水争い、チグリス・ユーフラテス川のトルコとシリア、イラクの水利権争い、アラル海に流れ込むシル川、アム川に関してのタジキスタン、カザフスタン、ウズベキスタンなどの争いを取り上げている。

 さて、水は豊富で、国際的な紛争などはありえない日本は、安泰なのか。かねてより指摘されているが、食糧の輸入は、水の輸入と同じことなのだ。穀物も野菜も肉類も、生産には大量の水を必要とする。その輸入相手国は、水不足にすでに陥っている国、これから深刻になる恐れが大きい国ばかりだ。オーストラリアでは、水泥棒が頻発し、水殺人まで生じていて、米国は、穀倉地帯では地下水を大量にくみ上げているが、枯渇が懸念されている。

 中国も、北部は水不足が深刻である。もともと水は少ないのだが、生活水準が上がり、工業が発達して、水需要が急増した。しかも、降水量はかなり減少している。これには地球温暖化も関係しているようだ。やがて中国は、穀物や肉などを大量に輸入する国になる。それは、世界的に食糧供給を逼迫(ひっぱく)させる大きな要因になる。

 世界的な水不足は、輸入食糧価格の高騰、さらには入手難となって、日本に重大な影響をもたらす恐れが大きい。いま四〇%の食糧自給率を、何としても大きく上げねばならない。

 不足すれば、供給を増やそうとするのは経済原理であり、二一世紀は水ビジネスの時代でもある。その世界的な事情も詳しく述べているが、ただし、それは主に生活用水、工業用水であり、食糧増産にはほとんど関(かか)わりはない。

 その水ビジネスで、日本とフランスは対照的である。技術大国日本は、水技術でも強い。海水淡水化や水浄化のための高分子分離膜では世界でトップであり、世界中のプラントに販売している。一方、フランスは、上水道、下水道施設の管理・運営のビジネスを世界に展開している。そこで世界市場を見ると、管理・運営は二〇二五年に一〇〇兆円だが、分離膜などはわずか一兆円だ。水ビジネスにおいて日本は、技術は大いに進んでいるのだが、市場獲得はまったく遅れている。

 ともかくも、水については、世界の状況から目が離せない。国内でも、美味(おい)しい水を安く供給してもらうよう節水に努めて、これからは水に深い関心を持って貰(もら)いたいと著者は訴えている。
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