2009-07-23

【1】9業界・16業種別「転職天気図」大公開

:::引用:::
今年1月の求人数は、前年同月比で約6割減った。企業がこぞって狙ってきた「第二新卒」の求人もほとんど消えたという。転職に希望の光はあるのか──。

新卒採用を凍結させた人材紹介業の懐事情
晴れは「医薬・医療・バイオ」だけ!
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晴れは「医薬・医療・バイオ」だけ!

2009年2月時点から振り返るとき、その“兆し”は昨年の前半にはあった――と、ロバート・ウォルターズ・ジャパンのケビン・ギブソン社長は言う。

だが、それはあくまでも「今から振り返れば」の話で、人材紹介ビジネスの市場がまさかここまでの落ち込みを見せるとは、当時は彼も思っていなかった。

世界17カ国に支社を持つロバート・ウォルターズは、9年前から外資系企業を中心とした人材紹介を日本でも展開してきた。この業界で働き始めて15 年、日本にやってきてからは8年、彼は世界各国でこれまでに目撃したどんな景気のサイクルよりも、この下落局面は「ドラマチック」であったと結論づけている。

「08年前半の求人数を見ると、ペースは確かに落ちてきていました。しかし、日本の人材紹介ビジネスは急成長を遂げており、どこかでその反動がくる。ペースの落ち込みは正常なサイクルであって、08年の後半にはソフトランディングするだろう、と見込んでいたのです」

ところがリーマン・ブラザーズが破綻した9月以降、求人数は加速度的な落ち込みを見せた。それを象徴するかのように、彼は肩を落として転職先を探す何人もの投資銀行の社員と出会っている。

「投資銀行の求人は、半年前の7~8割減。この変化は、投資銀行業務に関わる人たちの雰囲気をがらりと変えてしまった。自信に満ち溢れていた人々が、銀行はもういいよ、と言うのですから」

サブプライムローン問題をきっかけに、金融業界では中途採用のニーズが07年後半から減っていた。この落ち込みは後に、ほぼすべての業界へ雪崩のように広がっていった。

人材紹介会社大手・インテリジェンスではこの数年で若手社員の大量採用を行ったこともあり、10年度における総合職の新卒採用の停止を決定せざるをえなかった。また、業界第3位のJACジャパンは今年4月入社の内定者に対して、内定を辞退した者に100万円を支給するという策さえ打ち出した。最大手であるリクルートエージェントの村井満社長は、求人数と求人社数の変化から現在の厳しい状況を指摘する。

「今年1月の求人社数は前年同月比で約3割減です。ただ、求人数の変化に注目すると、6割減とさらに厳しい。つまり1社当たりの採用人数が大幅に減少しており、“複数求人・大量求人”で一定人数を確保するといったニーズはなくなっています。対して応募者数には変化がほとんどありません」
プラ合意後、バブル崩壊後よりも落ち込みが激しい求人数
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プラ合意後、バブル崩壊後よりも落ち込みが激しい求人数

人材紹介ビジネスは一般的に、キャリアコンサルタントが応募者の相談に乗り、転職先を紹介する。転職が決定した場合、求人企業は転職者の年収の30~40%を仲介料として支払うのが相場だ。

人材紹介会社がその景況を判断する指標の一つに、登録者が転職を果たすまでに何社への応募を必要としたかを計算したものがある。村井社長によれば、同社での昨年までの平均値は約9社であった。それが今は平均12社を超え、とりわけ40代以上の応募者では、7割増の16~17社という有り様だという。

応募者にとって厳しい状況は、日に日に増している。あるキャリアコンサルタントは次のように語った。

「これまで採用されていたレベルの人が通らなくなりました。それだけでなく、内々定が社長の決裁で取り消されたり、内定が出た翌日に採用凍結が決まったり、会社が解散してしまったり……」

採用の抑制と同時に、人員削減に踏み切る企業も増えている。雇用調整に伴う再就職先を斡旋する「アウトプレースメント」、その最大手・日本ドレーク・ビーム・モリンを傘下に持つメイテック広報部によれば、同社の相談件数は前年同月比で約50%増。07年後半から増加し始め、建設・不動産、外資系企業・金融関連業界の順で伸びていったという。

「今後は昨年末から増えてきた国内製造業の受注が中心になると見込んでいます」

アウトプレースメント業界の活況は、中途採用市場の苦境と表裏のものだろう。

このように「いい話は一つもない」と関係者が口をそろえる中途採用市場だが、状況を細かく見ていくと、「悪さ」の中にも強弱があることがわかる。

例えばIT関連の業績のいい中小企業では、この不況を人材確保の好機ととらえる動きもある。数としては少ないが、エネルギー関連企業、製薬や医療、科学の分野の採用活動はそれほど落ち込んではいないようだ。ただ、ここでこれまで以上に強調されているのは、「即戦力」というキーワードだと村井社長は続けた。「リーマンショック以後、求人が最も減った事務系職種は人事部です。人事部の仕事は採用だけでなく、教育や社員育成も含みます。要するに、人材育成にコストをかける余裕が現場にはなくなってきている。とりわけ“第二新卒”を積極的に採用する企業が今はほとんどありません」求められるのは「T字型の能力」
すべての業種で「減る」が「増える」を上回っている!
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すべての業種で「減る」が「増える」を上回っている!

では、ここで言う「即戦力」とは今、どのような人材を意味するのだろうか。

前出のギブソン社長は「効率化によるコスト削減の必要から、サプライチェーンの知識、経験を持つ人たちの需要が高い」と話す。

また、村井社長からは「T字型の能力を持つ人」という指摘があった。営業でも経理でもエンジニアでも、「この分野に関しては自分が中心となった案件がある」など、一つの能力が訓練されていること、そしてその専門的なスキルに重ねて、「縁側やのりしろを持っている人」が評価され始めているという。

「この不況で企業は、これまでの業務をより少ない人数でこなさざるをえません。そこで、あらゆる仕事に目配りができる人が求められる。まだ感覚的な話ではありますが、大手の求人にマッチする人材として、中小企業の総務部で人事、経理、購買などマルチな仕事を一人でこなしてきた、30代くらいの方が挙げられる傾向が生まれつつあるように思います」

この言葉を補足すると、現在、相対的に最も価値が高まっている層は、「新卒で企業に入社した、30~35歳くらいの“ロストジェネレーション”と呼ばれる世代」だとギブソン社長は話す。

「どの企業もこの世代の人材が年齢ピラミッドの中で少なくなっており、彼らをとり合っている。この世代のある種の人たちにとっては、景気悪化はまったく影響がない。これは日本独自の現象です」

彼の指摘を前提に置けば、ここ数年間の人材ビジネスの好況も、そして現在の落ち込みの背景も、「100年に一度の経済危機」のみに収斂するわけではないことが浮かび上がる。

例えばリクルートエージェントの売上高推移を見ると、03年から07年までの4年間で、業績を約3倍に伸ばしている。昨年9月以降の急激な需要の落ち込みを経験している今、村井社長はこの推移を示したグラフを見つめつつ、そもそも人材紹介ビジネスの「成長の秘訣は1993年からの(就職氷河期といわれる)10年間にあった」と語った。

「実力があるにもかかわらず、望まない就職しかできなかった若者が溢れていた。望まない環境に耐えていた人たちの“リベンジ転職”を、この数年で我々が一気に行ってきた面も大きかったわけです」

今回の不況は、雇用の調整が一段落したところへ重ねてやってきたものだったわけだ。そして好況の流れがたち切られた今後、人材紹介という分野から見る企業の中途採用活動は、どのような事態を迎えていくと予想されるのだろうか。

「企業は再び人材を自社で抱えることに躊躇すると思いますので、プロフェッショナルな人材と契約を結んで業務を遂行する傾向が強まるのではないか」

こう語る一方で、ギブソン社長が吐露した次のような懸念が印象的だった。

「苦境に直面したとき、日本企業は人材ピラミッドの上と下を切る。それが今後、新たなロストジェネレーションをつくる動きになってしまうのだとしたら、企業の健全性に照らし合わせても、持続可能な構造ではないと思うのですが……」
●●コメント●●

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